"貧乏と俺を捨てた元カノ、次期社長との婚約に隠された誤算" 第6話
名のない現
退職願をした部は、歳の総務担当、瀬という男だった。監査担当の話では、健の指示で発注を入力することがかったらしい。ただし、彼が実際に何をしたのかはまだ分からない。俺たちは本の解を得て、社の会議で話を聞くことにした。
瀬は最初、ほとんどをかなかった。退職願をした理由を尋ねても「庭の事です」と繰り返す。俺は正の追及より先に、彼が使っていたシステムの順をに描いてもらった。入力画面のどこを押し、誰に承認を頼み、急ぎ便の連絡をどこへ入れるのか。順を説するうち、彼の声はしずつ落ち着いていった。
「退職した先輩の番号が残っていたのはっていました。でも、しい承認者を登録するにはの許が必で……。毎回『の番号を使え』と言われたんです」
「その指示は、メールですか。それともですか」
「最初はでした。からメッセージも来ました。保しています」
瀬は自分のスマートフォンを見せた。そこには『納期優先。番号のことは俺が責任を持つ』という健からの連絡が残っていた。これは指示のを示すな記録だが、請求額の致まで説するものではない。俺はその区別をはっきり伝え、無理に自を求めるような質問を避けた。
広告
話が終わりかけた、瀬はさな声で「本当は辞めたくないんです」と言った。幼い子どもがいて、宅ローンも残っている。問題がきくなれば、司ではなく自分だけが責任を負わされるとったという。俺は事の決定を約束できないと置きしたうえで、事実を記録し、本が確認できる形で残すと伝えた。
瀬が残したメッセージは、本の同を得て会社の監査担当に渡した。俺のスマートフォンには保せず、正式な保管順に従って記録を残した。誰かを守りたいという気持ちだけで証拠を抱え込めば、から本の利益になるかもしれない。守はその判断を静かに褒めてくれた。
正社は報告を聞き、い目を閉じていた。健に権限を集させ、の社員が見を言えない空気を作ったのは、自分の責任でもあるという。監査は部の専を交えて続け、瀬の退職願は本と事が改めて話しうことになった。俺はそれを聞いて初めて、数字を直す仕事と会社を直す仕事は違うのだとった。
瀬の話を聞いた、俺は倉庫の担当者にも改めて連絡した。発注が遅れるたび、彼らは自分の判断で別の現から資材を借りていたという。帳簿には載らない助けいで何とか事をめてきたが、そのせいで庫の数がさらにわなくなった。
広告
俺は彼らを責める代わりに、緊急の融通を記録できる簡単な用を作った。
翌、試しにその用を使ってもらうと、倉庫責任者から「これなら残せる」と返事が来た。完璧なシステムを気に入れるより、今困っているが使える具を作る。そんな当たりのことを、俺はずいぶん難しく考えていた。さな改善だったが、会社に関わる覚悟を固めるきっかけになった。
その夜、公園で守とレオンに会った。は相変わらず折り畳み机をし、すももにさなの王冠を載せようとして嫌がられていた。俺が今の来事を話すと、レオンは「会社って、きなおままごとだとわれがちだけど」と言いかけ、珍しく真面目な顔になった。
「違うのは、失敗したに困るが本当にいること。だから遊びのより、ずっと丁寧にやらなきゃいけない」
俺はその言葉を胸にしまった。翌、正社からしい提案が届く。調査が終わるまでの期契約ではなく、現改革を担当する社員として入ってほしいというものだった。今の仕事を捨てる怖さはあったが、目を逸らしたくない現が、もうそこにあった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
息子が遺した証拠
長野県松本市に暮らす70歳の元宮大工・柏木源一郎は、一人息子の健太を交通事故で亡くした。しかし、慎重だった息子が居眠り運転をしたという警察の説明に、どうしても納得できない。 そんな中、同居を始めた嫁の美咲が、毎週木曜の夜に化粧をして外出し、若い男の車に乗っているという噂を耳にする。さらに息子の勤務先から、500万円の見舞金と引き換えに不可解な合意書への署名を求められる。 嫁を信じたい源一郎は、ある夜、密かに後を追う。そこで目にしたのは、息子の死につながる恐ろしい事実だった――。夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場2.3万字5 6 -
完結第15話
三十八年目の帰る場所
六十二歳の美津子は、三十八年間、夫と娘を支え、義母の介護も一人で担ってきた。ところが海辺の実家へ二泊すると告げた朝、夫は「戻ってこなくていいぞ」と笑い、娘まで同調する。 その言葉をきっかけに、美津子は本当に帰らないことを決意する。しかし夫は「この家は俺のものだ」と激怒し、離婚まで口にした。 そんな夫の前に、美津子が差し出したのは、亡き父が残した土地の登記と三十八冊の家計簿だった。 誰にも認められなかった三十八年間の人生を取り戻す、一人の女性の静かな決断と再出発の物語。夫婦|ATM扱い|絶縁|金銭問題|熟年離婚2.0万字5 1 -
完結第14話
「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知
高校三年生の高瀬優馬は、恋人・彩佳の受験勉強を支えるため、自分の研究や試験対策を後回しにしてきた。「どちらかが落ちても一緒に浪人しよう」――その約束を信じていた優馬だったが、合格発表の日、受かった彩佳は彼をあっさり突き放す。しかし優馬には、彼女に隠していた特別奨学生の選考通知があった。自分の未来を取り戻す決意をした優馬は、名門工科大学で研究の才能を開花させていく。やがて大学のコンテストで再会した二人を待っていたのは、残酷なほど鮮やかな立場の逆転だった。因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 65 -
完結第13話
三千円の温泉旅行
町内会の会計を務める68歳の森川静子は、秋の日帰り旅行を一人三千円の温泉宿に決めた。ところが、副会長の妻・矢野夫人は「貧乏くさい」と不満を漏らし、勝手に高級旅館へ行き先を変更。会長の了承を得たと嘘をつき、参加者まで誘い出してしまう。 旅行当日、矢野夫人から突然「積立金三十万円を出しなさい」と電話が。拒否した静子は、今度は会費の使い込みを疑われ、町内中に帳簿の写真を広められる。 しかし、その写真と案内状には、矢野夫人が見落とした決定的な事実が残されていた――。人生逆転|第二の人生|ATM扱い|金銭問題1.5万字5 34 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 232 -
完結第20話
生け垣を伐った4日後、隣人が青ざめた理由
72歳の佐野ふみ子は、亡き夫が40年かけて育てた生け垣に囲まれた家で、一人静かに暮らしていた。ところが隣人の美津江は、落ち葉や枝の張り出しに執拗に文句をつけ、ついには「違法な生け垣だ」と市役所へ通報する。 夫の思い出を守りたい気持ちを抑え、ふみ子は生け垣をすべて伐採することを決意。すると、長年隠れていた地中から古い境界杭が発見される。 そして伐採から4日後、あれほど生け垣を嫌っていた隣人が、真っ青な顔で玄関に現れた。 「お願い! 生け垣を元に戻して!」 突然の懇願の裏に、何があったのか――。因果応報|人生逆転|怒り|裡の顔|修羅場2.0万字5 296 -
完結第20話
離婚1時間でカード5枚停止、義母の豪邸宴会が一変
九年間の結婚生活を終えた神堂美緒は、離婚成立から一時間も経たないうちに、元夫・達也らに渡していたブラックカード五枚を利用停止にした。 一方、達也と義母の和江は、十億円の豪邸まで自分たちのものになったと信じ、親戚五十人を招いて豪華な宴会を開催する。 しかし、彼らは家の本当の所有者も、カードの契約者も知らなかった。さらに、美緒の署名を使った不審な不動産取引まで発覚する。 高額な料理とワインが次々と運ばれる中、祝宴の会計で明らかになる衝撃の事実とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.8万字5 469