"「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知" 第5話
居酒の再会と凍りついた空気
真の蝉がキャンパスの並にり注ぐ旬。
俺たちの研究チームは、都科学の代表として、に催される『関学同データサイエンス・コンペティション』への権を獲得していた。代にき殴った稚拙なシミュレーションモデルを台に、学院の先輩たちと検証をね、実環境のビッグデータに対応能なアルゴリズムへと昇華させる作業に没していた。
そんなある週末、直から本の話が入った。
『優馬、のクラスのプチ同窓会やるんだけど、来ないか? 駅の居酒でくらい集まるんだよ』
瞬、躊躇した。彩佳が来る能性は極めてかった。だが、今の俺には彼女を避ける理由も、怯える理由も何つなかった。
「分かった。顔をすよ」
曜の夜、駅のチェーン居酒の座敷席には、すでに懐かしい顔ぶれが集まっていた。学活の況、サークルの話、バイトの苦労話で盛りがる、宴会が始まって分ほど過ぎた頃、座敷の引き戸がき、彩佳が入ってきた。
代の面を残しつつも、るく染められた巻き髪にブランド物のワンピース。都会の女子として垢抜けた貌の彼女は、部の隅に座る俺の姿を認めるなり、わずかに表を張らせた。
広告
「……あ、優馬。久しぶり」
「久しぶり」
俺はく会釈を返し、ジョッキのウーロン茶をに運んだ。彩佳は俺からしれた席に座り、女子徒たちと華やかな学活の自話を始めた。どこのインカレサークルに入ったか、どんな男子学からアプローチされたか。
やがて、向かいの席に座っていた元クラスメイトの男子が、唐突に俺へ話を振ってきた。
「そういえば瀬さ、今どこの予備通ってんの? 駿台? ?」
俺が答えるより先に、彩佳が元のカクテルグラスを揺らしながら、クスクスと笑い声をげた。
「優馬は昔から真面目だから、きっと予備の特コースで自習に籠もってるんじゃない? 来はどこ受ける気なの?」
その調には、らかに学学を果たした側からの、無識の見しと優越が滲みていた。
俺は静かに箸を置き、彼女の目を真っ直ぐに見据えた。
「俺、浪してないよ」
座敷のざわめきが、ふっと途切れた。
彩佳が眉をひそめ、怪訝そうに首を傾げた。
「……え? どういうこと? 滑り止めの学にったの?」
「都科学に通ってる」
「はあ!? 都科って……理系の最難関国じゃん! なんで優馬がそこにいるのよ!?」
彩佳の声が裏返り、座敷の線が彼女と俺のに突き刺さった。
「なんでって、推薦で格したからだよ」
「嘘でしょ!? だって優馬、期程で第志望の公に落ちたじゃん! 発表のとき、番号なかったじゃない!」
広告
彩佳の取り乱した叫び声に、隣に座っていた直がたまらずを挟んだ。
「希、お本当に何もらなかったのか? 優馬はのときにした研究が評価されて、共通テストのに都科の特別奨学として内定をもらってたんだよ。学費全額免除の特待だぞ」
彩佳の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。唇が微かに震え、目が見かれる。
「と、特待……? 学費免除……? そんなの……そんなの聞いてない! いつから決まってたのよ!?」
「の終わりには内定の連絡が来てたよ。……発表のに持ってた封筒が、その最終確認通だったんだ」
俺の淡々とした返答に、彩佳は絶句した。
「じゃあ……あの格発表のとき、優馬は受かってたってこと……? なのに、なんで言わなかったのよ!?」
「言う必がなかったからだ」
俺の徹な言が、静まり返った座敷にく響き渡った。彩佳の頬が、りと恥辱で赤く染まっていく。
「言う必がないって何よ! 私たち、付きってたんじゃないの!? 緒に浪しようって約束までしてたのに!」
「俺だけを浪させようとしたのは、おの方だろ」
俺は声を荒げることもなく、氷のようにたい差しで彼女を射抜いた。
「『格したのに浪するわけないじゃん、本気にしてたの?』……あの掲示板ので、おが笑いながら俺に言った言葉だ。
忘れたとは言わせないぞ」
彩佳の呼吸が詰まり、言葉を失った。周囲の同級たちも、ことの真相を察して気まずそうに線を逸らした。
「おは最初から、自分が受かったら俺を捨てる気だったんだ。だから俺も、自分のを自分で選んだ。ただそれだけのことだ」
座敷の空気は完全に氷点まで凍りついていた。
俺は伝票に自分の代を置き、ちがった。誰の引き止める声も聞こえなかった。
をて、夜のぬるいが吹き抜ける駅のロータリーへ歩きしたとき、背から激しい音が追いかけてきた。
「優馬! 待ってよ、優馬!」
振り返ると、息を切らした彩佳が、涙目になってち尽くしていた。
「……何の用だ」
「なんで……なんであんな事なこと、私に隠してたのよ! 特待の話を教えてくれてたら、私だってあんな言い方しなかったのに!」
その言葉を聞いた瞬、俺の胸のに残っていた最の未練すら、完全に消滅した。
「教えていたら、どうしたんだ? 『特待なら学費かからないから、私の学のくにいマンション借りてよ』とでも言うつもりだったのか? それとも、自分の学の課題を全部俺に押し付けるつもりだったのか?」
「そ、そんなこと……!」
「彩佳。おがしていたのは俺じゃない。おの都にわせて何でも差しす、便利なだった俺だ」
俺は背を向け、改札へと向かった。
「もう度と、俺のに現れるな」
背から漏れた彼女の嗚咽を、の発ベルが無慈にかき消していった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
息子が遺した証拠
長野県松本市に暮らす70歳の元宮大工・柏木源一郎は、一人息子の健太を交通事故で亡くした。しかし、慎重だった息子が居眠り運転をしたという警察の説明に、どうしても納得できない。 そんな中、同居を始めた嫁の美咲が、毎週木曜の夜に化粧をして外出し、若い男の車に乗っているという噂を耳にする。さらに息子の勤務先から、500万円の見舞金と引き換えに不可解な合意書への署名を求められる。 嫁を信じたい源一郎は、ある夜、密かに後を追う。そこで目にしたのは、息子の死につながる恐ろしい事実だった――。夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場2.3万字5 19 -
完結第16話
母の初盆を禁じた義父が、土地の名義を知った日
亡き母の初盆へ帰ろうとした由美は、義父から「籍を抜いて出ていけ」と言い渡される。結婚二十五年の夫・浩司も味方にはならず、由美は静かに家を出ることを決意した。 しかし、義父一家が暮らす家の土地は、十五年前に母が購入した由美名義のものだった。さらに夫が、その土地を無断で借金の担保にしようとしていたことが発覚する。 母の残した古い鍵と書類を手に、弁護士を訪ねた由美。やがて明らかになる夫の裏切りと、義父母が隠していた計画。二十五年間耐え続けた妻の、静かな人生逆転の物語。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場2.3万字5 0 -
完結第13話
三千円の温泉旅行
町内会の会計を務める68歳の森川静子は、秋の日帰り旅行を一人三千円の温泉宿に決めた。ところが、副会長の妻・矢野夫人は「貧乏くさい」と不満を漏らし、勝手に高級旅館へ行き先を変更。会長の了承を得たと嘘をつき、参加者まで誘い出してしまう。 旅行当日、矢野夫人から突然「積立金三十万円を出しなさい」と電話が。拒否した静子は、今度は会費の使い込みを疑われ、町内中に帳簿の写真を広められる。 しかし、その写真と案内状には、矢野夫人が見落とした決定的な事実が残されていた――。人生逆転|第二の人生|ATM扱い|金銭問題1.5万字5 135 -
完結第20話
貧乏と俺を捨てた元カノ、次期社長との婚約に隠された誤算
「月収四十万円で、私と結婚できると思ってたの?」七年間付き合った恋人・美香に、収入を理由に婚約を破棄された中島涼。失意の帰り道、公園で出会った風変わりな兄弟との交流が、彼の人生を大きく変えていく。物流の経験を生かして建設会社の経営改革に携わり、少しずつ信頼を築いていく涼。二年後、居酒屋で偶然再会した美香は「次期社長と結婚する」と勝ち誇っていた。しかし、彼女も婚約者も、会社で進んでいた重大な決定を知らなかった。金と肩書きで人を見下した二人を待つ、思いがけない逆転劇。人生逆転|裡切られた|真実|第二の人生|金銭問題2.9万字5 210 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 320 -
完結第20話
生け垣を伐った4日後、隣人が青ざめた理由
72歳の佐野ふみ子は、亡き夫が40年かけて育てた生け垣に囲まれた家で、一人静かに暮らしていた。ところが隣人の美津江は、落ち葉や枝の張り出しに執拗に文句をつけ、ついには「違法な生け垣だ」と市役所へ通報する。 夫の思い出を守りたい気持ちを抑え、ふみ子は生け垣をすべて伐採することを決意。すると、長年隠れていた地中から古い境界杭が発見される。 そして伐採から4日後、あれほど生け垣を嫌っていた隣人が、真っ青な顔で玄関に現れた。 「お願い! 生け垣を元に戻して!」 突然の懇願の裏に、何があったのか――。因果応報|人生逆転|怒り|裡の顔|修羅場2.0万字5 409 -
完結第20話
離婚1時間でカード5枚停止、義母の豪邸宴会が一変
九年間の結婚生活を終えた神堂美緒は、離婚成立から一時間も経たないうちに、元夫・達也らに渡していたブラックカード五枚を利用停止にした。 一方、達也と義母の和江は、十億円の豪邸まで自分たちのものになったと信じ、親戚五十人を招いて豪華な宴会を開催する。 しかし、彼らは家の本当の所有者も、カードの契約者も知らなかった。さらに、美緒の署名を使った不審な不動産取引まで発覚する。 高額な料理とワインが次々と運ばれる中、祝宴の会計で明らかになる衝撃の事実とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.8万字5 601