"六時の椅子" 第5話
最の搬送先
慈寺の名が分かっても、すぐにかけられるわけではなかった。寺は川を越えた川寄りにあり、戦にが変わったため、ハルは正確な所をらなかった。
そのの朝、から話が来た。写真館の裏をけるので、までに残りの写真を箱へ分けてほしいという。
「に建物をけ渡すことになっています。これはかせません」
「分かりました」
ハルは話を置いてから、まず写真館へ向かった。建物は暗く、フィルムの薬品の匂いが微かに残っている。かつて撮の客が座った子は布をかぶり、ガラス棚には割れた額が並んでいた。
が指さした奥の部には、の箱がつ積んである。
「このうち箱が、叔父の預かり物らしいんです。あとは客の注文帳。ほとんど度と使わないでしょう」
ハルは箱をき、枚ずつ裏きを見た。子どもの入学、、結婚写真。指で触れれば、が剥がれそうなものもある。
「この印、覚えがあります」
台のにさく赤い丸がある。達吉の控えにも、同じ丸がついた名があった。
「受取を度訪ねたけれど、き先が分からなかった、という印でしょう。夫が使っていました」
は印を数えた。
「こんなにたくさん、まだ返せていないのか」
「そちらの箱にをつけるに、名と所を控えます。
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どなたの物か分からない写真を展示会社へまとめて渡すのは、待っていただけませんか」
「またその話ですか。会社のは、古い町の暮らしが分かる資料として引き取ると言ってるんです」
「頼みを聞いてもらうだけでは困りますよね。私も、部の保管所の相談を始めます」
ハルは、初めからの負担を増やしてまで写真を残すことが正しいとはえなくなっていた。自分の暮らしにも限りがあり、にはのと族がある。だからこそ、保管所と費用をいたを持って来た。集会所の物置が使えるかまだ分からず、町会の世話へ翌尋ねるつもりだということまで、隠さず話した。
「できないことをできると言いたくありません。名の分からない箱は、度に全部返せないでしょう」
「そうでしょうね」とは答えた。とも、そので気持ちよい答えがるとはっていなかった。
ハルは今、初めて相にできることを示した。の顔はまだかったが、ただ拒まれるよりはましだった。
昼、夫が写真館へ寄った。寄りがい箱を運ぶのを見かねて、つだけ倉庫からへした。
「これは仕事の帰りだから。毎来られるわけじゃないよ」
「頼みもしないのに、ありがとうね」
そう言った、ハルはをつぐんだ。以なら、礼のに「若いはいいねえ」
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と続けたかもしれない。今、夫がしてくれたのは若さではなく、自分のを使う選択だった。
午、佳代が流した。娘のをし終えたのに、落ち着かないという。
「返事が来るまで、澄子さんのことを確かめたいんです」
「枝さんの話では、あの子は救護所へ戻ったそうです。寺の名が分かりました」
佳代は箱のの古い片を読んだ。
「なら、きましょう」
「あなたの仕事が」
「夕方までに戻れれば、夜に縫います」
「それはいけません。くのは私です」
佳代は首を振った。
「私だって、こののことを考えてきたんです」
は写真館のい台所で、刻表を広げた。ハルの膝が悪いため、乗り換えのないを選ぶ。佳代には午の仕げがある。結局、翌々の朝くでかけ、確認にがかかれば佳代だけ先に戻ると決めた。
帰り際、が戸で待っていた。
「寺へくなら、父の古い写真を調べるに、叔父のこの帳も持っていってください」
帳のには、昭付の覚えがあった。
《救護所記録照会。野寺澄子、昭、負傷者搬送に随伴。者との照》
細い赤鉛の印が、名のに付けられている。
ハルはそこだけ、何度も読み直した。
「者との照って……」
「叔父の字です。までは私も」
佳代がハルの肘に触れた。
「赤い印だけで決めてはいけません」
分かっていた。赤い印がをするとは限らない。けれど、達吉の類箱にあった子どもの引渡しの記録と、別のがいたこの帳が、同じ娘の次のを示していた。
女は子どもを全な所へ渡し、さらに負傷者を運んだ。そのの方を、写真館の主まで尋ねられていた。
「おばあちゃん、丈夫?」
夫が声をかけた。
「ええ」
ハルは答えたが、声は自分のものとえないほどさかった。
「寺へけば、分かるんでしょうか」
誰も、分かるとは答えなかった。
ハルは帳を閉じた。まで待つ、の夜に澄子へ言った言葉が何度も戻ってくるだろう。だが、初めてその先の付へける。
そして帰宅すると、寺にすための照会状を通いた。名、、当の所、失踪した。最のに、母であることをきすまで、随分とがかかった。
翌朝の、ハルが子を置いた、シャッターのにはまだ誰もいなかった。包みのの写真を枚す。澄子は歳のまま、こちらを見ている。
なぜ救護所から名がたのか。もしあの、あの子が戻ろうとしたがあったのなら、それはどこまで続いていたのか。
ハルは写真に尋ねそうになり、声をみ込んだ。
答えは写真のではなく、これから自分がく所にあるのだ。
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