"六時の椅子" 第7話
写真を売る話
が古い写真を扱う会社の男を連れてきたのは、ハルが寺へ発するだった。
男は浜田と名乗り、背広の袖を度引っ張った。写真館に入るなり、窓際へ箱を並べて「自然のほうが傷みが見えます」と言った。
「こういう昔の町の写真は、資料として価値があります。の板や着物の柄が分かるものなら、なおいい」
はししたようだった。古いがただの厄介物ではないと言われたからだ。
「全部でいくらくらいになりますか」
「状態によります。物だけのものは、まとめて引き取る形ですね。権利関係のある写真は、展示までに確認します」
ハルは戸から聞いていた。物だけのもの、と言われた箱には、達吉が何度も持ち主を訪ねた族写真が入っていた。
「をお見せいただくに、ひとつ確かめたいんです」
ハルが声をかけると、浜田は笑顔で振り返った。
「どうぞ」
「写っているの所も名もあります。何もらないうちにへされたら、困る方もいるでしょう」
「展示するは配慮します。古い資料の価値もありますから」
「おを払って、預かったの写真を持っていくんですね」
浜田は答えにくそうに箱の蓋を戻した。ハルは彼に腹をてたわけではなかった。会社が商売として何を欲しがるかは分かる。
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ただ、達吉と森田がへ返すつもりで保管していたものを、そのまま「商品」と呼ばれるのがつらかった。
するとが話に割って入った。
「野寺さん、私はこれを売って儲けたいわけじゃない。解体の見積もりがまたがったんです。荷物を置いておけば、来から倉庫代がかかる」
「分かっています」
「分かってないよ。あなたは毎朝、子に座っていれば済む。私はを払わなきゃならないんだ」
は鳴っていなかった。その声の平らさが、ハルにはかえって痛かった。
「では、持ち主の分からないものから台帳にして、保管費を減らす方法を探しましょう。、寺へく用事がありますが、戻ってからを貸します」
「あと何あるとってるんです」
話はそこで止まった。
浜田は箱から枚の写真を選び、台の裏を見せた。
「こういう古い所の入ったものは、確認が必ですね。今の族が分かれば、承をいただけるかもしれません」
偶然そこへ、向かいの菓子の主が顔をした。
「おや、うちの先代の写真じゃないか。これ、持っていっていいか」
写真にはの男性との女が写っていた。先代に似ている、という主の言葉を聞いては箱から取りそうとしたが、ハルが止めた。
「裏の所を先に」
そこにかれていたのは、菓子ではなく、しれた印刷所の所だった。
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苗字も違う。似た顔のがいるだけだ。
「こんなにそっくりなのに」
「の顔は、議なほど似るものです」
主は恥ずかしそうに帰っていった。した騒ぎにはならなかったが、、この来事がにとって実際の問題になった。
昼過ぎ、菓子の主の姉から話が来たのである。「先代の写真を見つけたと聞いたのに、なぜ渡さない」とい調で言われ、は台の裏きを説した。相は納得せず、まで来て確かめることになった。
「違えて渡していたら、取り返すのにまたがかかった」
話を切ったは、そう独り言のようにつぶやいた。ハルは何も言わなかった。今なら、理由を並べるより相が考えるを置くほうがよいとった。
夕方、浜田は部の町並み写真だけ値を付けて帰った。族写真の購入は、保管状況と連絡先の理が終わるまで保留になった。
は勘定を続けていた。
「値のつくものが、ったよりない。これじゃ倉庫代のしにもならない」
「町会の集会所に、類用の物置がつあります。帰ったら、世話さんに相談にきます」
「町会だって、無料じゃないでしょう」
「ええ。私もしします。残りをどうするかは、数を集めて相談しなければ」
ハルはそれ以、きな約束をしなかった。自分の蓄えだけですべてを引き受ければ、半もせず活がたなくなる。
帰ろうとした、が呼び止めた。
「叔父は、昔、あなたのご主とよくかけていましたね」
「ええ。写真を返しに、で町を歩いていたそうです」
「叔父が晩、私に『捨てていいものと、捨てるに訊くものがある』と言ったことがありました。私は面倒な老だとっていた」
は伝票を揃え、笑うでもなく続けた。
「今も面倒だとっています。でも、違って渡せば、もっと面倒になる。そこは分かりました」
ハルは頷いた。変化というほどきなものではない。だが、相は自分のでつの違いを避けた。それを切にしたかった。
片づけの終わりに、は叔父が使っていた撮台の脚をした。が固くてねじが回らず、ハルが油をし差すと、ようやくいた。はした脚を見ながら、「子どもの頃、ここにたされるのが嫌でね」と笑った。叔父は座る姿勢にうるさく、が横を向くたび、背を軽く叩いたという。
「叔父の顔をいすと、いつもられてるところなんです。でもあのは、写真を撮るだけ妙に根気があった」
ハルも達吉の仕事具を見るたび、言ばかりいすことがあった。くなったを何もかも派にする必はない。そのの苦なところまで覚えていられるなら、まだ緒に暮らしている部分があるのだとった。
帰宅すると、ハルは履ではなく履き慣れた布靴を玄関にした。はくまで歩く。旅先でが痛くなれば、確かめられるものも確かめられない。
写真館のシャッターはも閉じている。ハルはそのに子を置かない。代わりに、のへ続くを歩くつもりだった。
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