"昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録" 第5話
しなかった貨物列
「き直したのは、いつですか」
森岡さんは机の端にを置いた。
「杉原さんがいなくなった翌の午です。駅に呼ばれて、納簿をしい用に写しました」
「万千百円のところも?」
「はい。ただ、そのときには『取消』の文字がありませんでした」
「駅が消させたんですね」
「そうです。僕はも分からず写した。あとで杉原さんがおを盗んだと聞いて、怖くなったんです」
森岡さんは当歳だった。
学をて、駅の臨の仕事を伝っていた。
父は、彼に正式な鉄職員になれるよう勉を教えていたという。
「杉原さんは、僕が違えた数字をらずに直してくれたんです。それなのに僕は、あのを棒にした帳簿をいた」
「どうして今まで言わなかったんですか」
森岡さんはすぐには答えなかった。
で、解体業者のトラックが砂利を踏む音がした。
「最初のうちは、言いせなかったんです。、たつうちに、今さら言っても誰も信じないとうようになった」
「私は、父が逃げたと聞かされてきてきました」
自分でも驚くほど、声がかった。
「そのの、森岡さんはっていたんですね」
彼はうなずいた。
「本当に申し訳ありません」
私は返事をしなかった。
謝ってもらいたかったわけではない。
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なぜ父が帰ってこなかったのか。その答えが欲しかった。
私は受領を透な袋に入れ、母が保管していた父のと並べた。
跡はよく似ていたが、署名の『修』の字に違があった。
父は側の縦線をしくく癖がある。
受領では、そこだけが妙にかった。
「これは偽造されたものかもしれません」
森岡さんはうなずいた。
「でも、跡が違うというだけでは証にならない」
私もそうった。
印刷会社で仕事をしていると、原稿の訂正箇所を指摘することはできても、誰が違えたかを証するのは難しい。
必なのは、き直されるの記録だった。
私は子さんので見た『稲葉建、補修事代受領』という記述をいした。
「事の請求が残っていれば、駅のおとつながるかもしれません」
森岡さんは首をかしげた。
「稲葉建は、駅の息子さんが経営していた会社です。今の稲葉弘之さんのお父さんにあたります」
「駅と事会社が親子だったんですか」
「ええ。昔から町の仕事をたくさん請け負っていました」
私は胸のでつの数字を並べた。
駅から消えた万千百円。
号の補修事代。
このつが偶然同じ期にいていたとはえなかった。
そのの午、私は町の図館へった。
古い方を枚ずつめくり、昭の記事を探した。
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父の失踪記事の隣には、町の事についてのさな告があった。
『号付、護岸補修完』
付は。
父が消えただ。
記事には、稲葉建の名があった。
さらに調べると、の方欄に、次のような記事が見つかった。
『瀬線臨貨物の運、のため部変更』
私は記事の文字を指で追った。
貨物の運は、当朝の点で止されたことになっていた。
ところが父の残したには、はっきりと『臨貨。通過させるな』とある。
らなかったはずの列を、父は止めようとしていた。
私はそのページを複写し、図館のの公衆話から森岡さんに連絡した。
「臨貨物号は、で止されたことになっています」
「あの列が止?」
森岡さんは戸惑った声をした。
「それなら、おかしいですよ。僕はあの晩、駅の側で汽笛を聞いています」
「違いありませんか」
「はい。午を過ぎていました。あれは普通の旅客列じゃない。貨物の汽笛でした」
森岡さんの話では、は製材所へ型の資材を運ぶ予定だった。
だが朝からがっていたため、運は取りやめになると駅が話していたという。
駅の掲示板にも『臨貨物運休』のが貼られた。
それなのに夜、貨物列はった。
私は、国鉄代の運記録を保している関係先に問いわせた。
数、古い運転取扱資料の部を閲覧できることになった。
資料にてきたのは、臨貨物号ではなかった。
『事用臨列 第〇号』
刻は午分。
号付を通過する予定だった。
運目は『資材回送』。
つまり号は取り消され、その、別の列番号で同じ区をる配がされていたのだ。
「番号を変えれば、候がよくなるわけじゃないのに」
私はつぶやいた。
資料には、運転を認めた担当者の氏名が記されていた。
稲葉源。
父を棒だと届けた駅だった。
そのの夕方、私は母にすべてを話した。
母は台所で根を切っていたが、を止めた。
「修は、あのを配していたのよ」
「っていたの?」
「失踪するほどから、夕飯のときにの話をしていたの。事が終わったはずなのに、がまた流れしているって」
「どうして私に言わなかったの」
「警察には話したわ。でも、は壊れていない、列も無事に通ったと言われた。だから事故とは関係ないんだとったの」
母の言葉は、ずっと胸に残った。
が壊れていない。
列も無事だった。
ならば父は、赤いランプを持って何をしにったのか。
数、森岡さんから話があった。
「美緒さん。臨列の運転士だったが分かりました」
名は松清隆。
当歳で、今は退職して潟県内にんでいるという。
私はすぐにをいた。
父のこと、失踪当夜の記録、号のこと。
、松さん本から話があった。
「杉原さんの娘さんですね」
く、しかすれた声だった。
「当のことを覚えていらっしゃいますか」
「あの晩は忘れられません」
私は受話器を握り直した。
「父は、列を止めようとしていたんですか」
「はい。赤いランプを持って、線脇からてきました」
「それで、父はどうなったんですか」
松さんは息をついた。
「私たちが列を止めたあと、杉原さんはの側で倒れました。砂が崩れて、を取られたんです」
私は子に座り直した。
「くなったんですか」
「そのでは、まだきていました」
の奥で、さく音が鳴った。
「きていた?」
「ええ。私が確かめました。呼びかけたら、杉原さんは目をけたんです」
「それなら、なぜへ帰ってこなかったんですか」
松さんの声がさらにくなった。
「そのあと、稲葉駅の配したトラックが来ました。杉原さんはそこに乗せられたんです」
私は言葉を失った。
、父は川に落ちてくなったのかもしれないとっていた。
しかし、違った。
父はきたまま、誰かに運びられていた。
「そのトラックは、どこへったんですか」
松さんはい沈黙のあと、言った。
「それを話すに、っておいてほしいことがあります」
「何ですか」
「杉原さんを運んだのは、ただの救急搬送じゃありませんでした」
私は受話器をく握った。
「どういうですか」
「稲葉駅が、運転にこう言ったんです」
松さんは、の言葉を語ずついすように続けた。
「『杉原は駅へ戻すな。族にも、今夜のことはらせるな』と」
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