"昭和39年、給食費泥棒にされた少女" 第2話
消されていた名
「その帳簿は、学に残っていたんですか」
翌朝、私は話で父に説した。
歳になった父は、今も自転修理を続けている。
最では修理に来る自転もなくなり、の奥でラジオを聞いているが増えたという。
「うん。昨、戸棚の奥からてきたの」
「千百円が、ちゃんと納められていたんだな」
「そういてある」
父はしばらく黙った。
「じゃあ、あの先は……」
そこまで言って、言葉を切った。
私は父が何を考えているのか、よく分かった。
、父は学へ何度もを運んだ。
おがなくなった証拠を見せてほしいと頼み、娘を犯と決めつけないでほしいと訴えた。
だが、は取りわなかった。
『学の判断に従っていただきたい』
そう言われ、父は何もできなかった。
私は学を転し、父はで働き続けた。
私がになってからも、あの来事について族で話すことはなかった。
終わったこととして、しまい込むしかなかったのだ。
「お父さん。私、ちゃんと調べようとう」
父は答えた。
「そうしなさい。ただし、無理はするなよ」
私はその言葉に、と同じ温かさをじた。
そのから、私は舎に残された資料の調査を始めた。
学の許を得て、費納簿をページずつ複写した。
同じの現受払簿も見つかった。
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の欄には、千百円を受け取った記録がある。
受領者は森久枝。
私の担任だった。
しかし、もう冊の帳簿には、議な記載があった。
。
『組 費未納分 千百円』
そのろには、赤い鉛で『調査』とかれている。
つまり、同じおについてつの記録が残っていた。
方では入済。
もう方では未納。
私は帳簿を並べた。
印刷会社ではないが、私は、図館の資料理をしてきた。
付や類の番号がい違うと、どうしても気になる。
特に今回のように、同じ額が別々の扱いになっているはなおさらだった。
私は元の名を調べた。
杉本吉夫。
昭当、代半ばだった。
では教育なとしてられ、退職は町の教育委員会にも関わったという。
すでにくなっていたが、息子の杉本正彦は、今も町できな響力を持っていた。
建設関係の会社を経営し、町議会議員も務めている。
私は資料理の担当者に尋ねた。
「当の費について、ほかに記録はありませんか」
「古い資料はほとんど残っていないといますが……」
担当者は困った顔をした。
「実は、こういう帳簿を部のに見せていいのか、役でも見が分かれていまして」
「学の資料として理する仕事を頼まれたんですが」
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「それは分かっています。ただ、昔の個報も入っていますから」
私は無理に求めなかった。
必な部分を確認し、資料の所を記録した。
その帰り、昔の同級に会った。
吉井文。
あの、私が職員の引きしをけていると証言した女の子だった。
文は今、町で文具を営んでいた。
先にはノートや鉛、子ども向けの雑誌が並んでいる。
私はに入った。
「文ちゃん」
文は顔をげた。
瞬、誰だか分からないようだった。
「……子ちゃん?」
「久しぶり」
文は慌ててちがった。
「本当に久しぶりね。いつ帰ってきたの?」
「学の資料理で」
その言葉を聞いたとたん、文の表が変わった。
「昔の学?」
「うん。閉したから」
私は、なるべく自然に尋ねた。
「昭の費のこと、覚えている?」
文は線を落とした。
「……覚えているわ」
「私、盗んでなかったんだよ」
文は顔をげなかった。
「そう」
「帳簿が見つかったの。おは、なくなっていなかった」
私は責めるつもりで言ったのではなかった。
ただ、あのとき私を見ていたに、事実をってほしかった。
しかし文は、いがけないことを言った。
「子ちゃん。今さら調べて、何になるの?」
私は黙った。
「ものことでしょう。みんなを取ったし、先だってもう……」
「文ちゃんは、あのとき私がおを盗んだとっていた?」
文は答えなかった。
私はもう度聞いた。
「本当に、そうっていた?」
彼女はさく首を振った。
「分からなかったの」
「分からなかったのに、先に私が引きしをけたと話したの?」
「それは本当だったから」
「でも、引きしをけたことと、おを盗んだことは違うよね」
文は唇を噛んだ。
「お願い。もう帰って」
私はしばらく彼女を見つめていた。
何かを言いかけて、やめた。
をると、昔の商のが続いていた。
私が学だったころは、豆腐も魚もあった。
今はシャッターをろしたがい。
というは、町の姿をすっかり変えてしまった。
それでも、あののことを話すと、私たちは歳のころに戻ってしまうらしい。
翌、私は学の旧職員名簿を調べた。
森久枝先は退職も県内にみ、現歳。
所はすぐには分からなかった。
もう、気になる名があった。
好トミ。
調理員。
昭末付で退職。
私が転したのと、ほとんど同じ期だった。
好さんは、私が当番をしていたころ、いつも親切にしてくれただ。
私が嫌いな脱脂乳をみ終えるまで待ってくれたこともあった。
のを通ると、窓から顔をして声をかけてくれた。
あのも、急に学を辞めたのだった。
私は、古い資料のからの誌を探した。
段ボールを箱けたあと、ようやく見つかった。
表には『昭度 調理勤務誌』とある。
の欄には、の献がかれていた。
コッペパン。
野菜の煮込み。
牛乳。
そのに、好さんの字でい文章が残っていた。
『組、集に関する騒ぎあり。岸田子児童、には来ていない。本に疑いを向ける理由なし』
私はわず子に座り直した。
好さんは、あのから私を疑っていなかった。
さらにページをめくると、の欄に自然な空があった。
誌のが、枚だけ切り取られている。
切りはしくない。
その次のページには、退職の挨拶がくかれていた。
『い、お世話になりました』
それだけだった。
私は誌を閉じた。
好さんは、何かをっていたのではないだろうか。
そして、そのことで学を辞めたのではないだろうか。
そのの夕方、役の職員から話があった。
「岸田さん。申し訳ありませんが、費関係の資料については、これ以の調査をいったん控えていただけませんか」
「どうしてですか」
「関係者から、過の問題を蒸し返さないでほしいという申し入れがありまして」
「誰からですか」
職員はし黙った。
「杉本議員です」
私は受話器を握り直した。
のの息子が、今になって資料の調査を止めようとしている。
それは単なる偶然なのだろうか。
私は尋ねた。
「杉本さんは、昭の費のことをっているんですか」
職員は答えなかった。
代わりに、こう言った。
「学の解体程が決まりました。資料の理は来週で終します」
私は窓のを見た。
学の資料は、あと数で処分されるかもしれない。
と同じように、何かがなかったことにされようとしていた。
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