"昭和39年、給食費泥棒にされた少女" 第3話
女調理員が残した
好トミさんの所が分かったのは、そのだった。
学の古い職員名簿には、退職の連絡先が残っていなかった。
しかし、町の元職員に尋ねると、好さんは隣町へ移り、そのも学の仕事を続けていたという。
私は話番号を教えてもらい、連絡した。
受話器にたのは、配の女性だった。
「好トミさんのお宅でしょうか」
「はい。私ですが」
私は名乗った。
「昭に、松ノ学にいた岸田子です」
話の向こうが静かになった。
私は続けた。
「覚えていらっしゃいますか」
しばらくして、々しい声が聞こえた。
「……子ちゃん?」
その呼び方を聞いた瞬、胸がくなった。
と同じ声だった。
私は、ようやく自分をっているに会えた気がした。
翌、好さんのを訪ねた。
歳になった好さんは、さな庭のある平で暮らしをしていた。
玄関には漬物が置かれ、台所からは煮物の匂いがした。
「きくなったねえ」
好さんは私を見ると、そう言って笑った。
「もう歳です」
「そうかい。そんなになるんだね」
私は座敷に通され、お茶をいただいた。
好さんのは節くれっていたが、茶碗を置くきは昔と変わらなかった。
「の誌を見つけました」
そう言うと、好さんの表が変わった。
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「まだ残っていたのかい」
「はい。私が疑われたのこともいてありました」
好さんは黙ってうなずいた。
私は続けた。
「私、盗んでいなかったんです」
好さんはすぐに言った。
「っているよ」
私はわず顔をげた。
「っていたんですか」
「ああ。あの、費は最初からなくなっていなかったんだよ」
、誰にもはっきり言ってもらえなかった言葉だった。
私は膝のでを握った。
「どうして……」
声が震えた。
「どうして、先は私を棒にしたんでしょう」
好さんは、すぐには答えなかった。
代わりに、古い茶箪笥の引きしをけた。
から、布に包まれたの束を取りした。
「これを、ずっと持っていたんだよ」
には、昭の献と、毎の数が記録されていた。
私は付を確認した。
。
『組 実名』
その横に、別の欄があった。
『請求数 名』
私は首をかしげた。
「数が違いますね」
好さんはうなずいた。
「そう。ほかの学も同じだった」
私はページをめくった。
。
。
。
どの学も、実際にをべた数より、請求数がい。
「これは、どういうことですか」
「学に届く材の量が、実際の数とわなかったんだよ」
好さんは説した。
当、学の材は、町の指定業者から納入されていた。
では、毎そのの席数にわせて調理をしていたが、納品の数はいつもめになっていた。
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最初は欠席者の分だとっていた。
しかし、何たっても数字がわなかった。
「私は先に聞いたんだよ。どうしてこんなに数が違うのかって」
「先は何と?」
「事務処理の都だと言った」
好さんは、し笑った。
「でも、私は納得できなかった。材が余るなら分かるけど、実際にはいつもぎりぎりだったからね」
私はを見直した。
請求数はいのに、届く材は実際の数分しかない。
それなら、余分に請求された分のおはどこへったのだろう。
「好さんは、調べたんですか」
「自分で数えたんだよ。パンも牛乳も、届いた分を毎き留めた」
好さんは、もう枚のを差しした。
そこには、実際の納品数が細かくかれていた。
。
パン百個。
牛乳百本。
ところが、学へ提された納品では百個となっている。
毎ほどの差があった。
「業者と学が、数字をごまかしていたんですか」
「私はそうった。でも、証拠がなかった」
好さんは、ゆっくり話を続けた。
。
私が棒だとされた。
好さんは、の机に置いてあった種類の納品を見比べていた。
そこへ、私が当番の仕事でやってきた。
私は数字の違いに気づき、何気なく尋ねたという。
『好さん、どうしてパンの数が違うの?』
好さんは、私に余計なことを言うまいとった。
『の仕事だから、子ちゃんは気にしなくていいよ』
そう答えた。
しかし、私はしつこく聞いたらしい。
『だって、こっちは百で、こっちは百だよ』
私は、そののことをしずついした。
確かに、でたちの類を見た。
数字が違うのが議だった。
けれど、それが何をするのかは分からなかった。
「私は、その話を友達にしたんでしょうか」
好さんはうなずいた。
「そうらしいね。翌には、森先もっていたよ」
私は胸の奥がえるのをじた。
「先が?」
「森先に、で何を見せたのか聞かれたんだ。私は、子ちゃんには何も説していないと言った」
「それで?」
「先は、もうに子どもを入れないようにしてほしいと言った」
好さんは、そこで言葉を切った。
「そのの昼休み、費がなくなったという騒ぎが起きたんだよ」
私は、の教をいした。
黒板のにたされた私。
森先の声。
文ちゃんの証言。
そして、誰も私を信じなかったこと。
「先は、私を黙らせたかったんでしょうか」
好さんは、しばらく考えて答えた。
「私は、そうっている」
「でも、私はただ数字が違うと言っただけです」
「そうだね」
「そんなことで、棒にする必があったんですか」
好さんは私の顔を見た。
「子ちゃん。が隠したいことを、子どもがうっかり見てしまうことがあるんだよ」
私は何も言えなかった。
好さんは続けた。
「私は、あのすぐに森先へ言った。費はもう納めてある、子ちゃんは関係ないって」
「先は何と?」
「余計なことは言わないでください、と」
「それだけですか」
「それだけじゃなかった」
好さんは、机ののをえた。
「先に呼ばれてね。学の運営にをすなら、辞めてもらうと言われた」
「それで、辞めたんですか」
「最初は辞めるつもりなんてなかったよ。私はの仕事が好きだったから」
好さんは、窓のを見た。
「でも、あなたが棒にされた。私が黙っていたら、もっとひどいことになるとった」
私は、好さんを見つめた。
「何をしたんですか」
「先に、の数をごまかしていることをっていると伝えたんだ」
「それで?」
「翌、退職するように言われた」
好さんは淡々と話した。
「理由は、職の規律を乱したから。私は何度も抗議したけど、聞いてもらえなかった」
私はの束を見た。
好さんは、これを保管していた。
いつか必になるとっていたのだろうか。
「どうして、私に教えてくれなかったんですか」
その質問をすると、好さんはゆっくりをげた。
「ごめんね」
私は慌てて言った。
「責めているわけじゃありません」
「いいんだよ。責められて当然なんだから」
好さんは、私のを取った。
「私はあなたを助けられなかった。学を辞めたあと、お父さんのへったけど、あなたはもう転していた」
「父に話したんですか」
「話そうとした。でも、先から、学の類をへしたら問題になると言われていた。私も怖くなってしまったんだよ」
私は目を伏せた。
好さんは続けた。
「そのあと何度もをこうとった。でも、もう遅いんじゃないか、今さら昔の話をしたら、かえってあなたを傷つけるんじゃないかって……」
私は静かに言った。
「好さん。今、話してくれてありがとうございます」
好さんは目をこすった。
そして、最にもう枚のを取りした。
「子ちゃん。これだけは見てほしい」
それは、昭付の文だった。
『組 岸田子児童の転に関する協議』
私は目を疑った。
文には、私が転することについて、と担任が話しった記録が残っている。
しかも、その付は、父が正式に転を申しるだった。
「先たちは、私が転することを先に決めていたんですか」
好さんはうなずいた。
「そうだとう」
私は文を読みめた。
最の欄に、赤鉛でい文がかれていた。
『本の謝罪を得られない、転を勧奨する』
私はを握りしめた。
森先は、私がおを盗んだとっていたのではない。
初めから、私を学からいなくするつもりだったのだ。
そして文のには、見覚えのある名が記されていた。
『杉本正彦』
当まだ学だった、の息子の名だった。
なぜ、子どもだったはずの杉本正彦の名が、私の転に関する類に残っているのだろう。
好さんは、その名を見つめて言った。
「子ちゃん。あなたがあのとき見たのは、の数だけじゃなかったんじゃないかい」
私は、のをい返した。
の裏。
積みねられたパン箱。
そして、先の息子が、見慣れない男と緒に何かを運んでいた姿。
忘れていたはずの面が、しずつ戻ってきた。
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