"昭和39年、給食費泥棒にされた少女" 第8話
裏帳簿に残された名
「岸田さん。あなたのお父さんは、費を納められない子どもたちのために、いおを寄付していたんです」
その言葉を聞いたとき、私はが分からなかった。
父が、学へ寄付をしていた。
そんな話は、度も聞いたことがなかった。
私の向かいに座っているのは、稔さんという歳い男性だった。
昭の、松ノ学へ事務職員として赴任し、その、学の会計を担当していただ。
森先に紹介され、私は隣町のさんのを訪ねていた。
「父は、自転修理を営んでいました。そんなに余裕のあるではありませんでしたが……」
さんはうなずいた。
「じています。だから私も、初めて帳簿を見たときは驚きました」
彼は古い封筒を取りした。
には、寄付の受領控えが何枚も入っていた。
『昭 岸田昭 百円』
『昭 岸田昭 百円』
『昭 岸田昭 千円』
付は続いていた。
昭にも、父の名があった。
私は受領を枚ずつ見つめた。
父は、私が棒にされるよりから、学へおを寄付していたのだ。
「どうして、この記録をさんが持っているんですか」
「赴任したとき、任者から引き継いだ帳簿の写しです」
さんは説した。
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当、松ノ学には、経済に苦しい庭の児童を支援するための寄付が集まっていた。
正式な費の会計とは別に、が管理する基があったという。
名は『子どもの事を守る会』。
の商主や農、会社員たちがしずつおをしい、費を納められない庭を助けていた。
「岸田さんのお父さんは、ほかの方よりい寄付をされたわけではありません。ただ、い欠かさず続けていたんです」
私は父の顔をい浮かべた。
毎、古い自転を修理していた父。
仕事がないには、の奥で具を磨いていた父。
そんな父が、誰にも言わずに学へおを渡していた。
「父は、私にも母にも話していませんでした」
「匿名で扱ってほしいと希望されていたようです」
さんは、寄付台帳の表を見せた。
『寄付者氏名、原則非公』
そのには、杉本の印鑑があった。
私は尋ねた。
「そのおは、ちゃんと子どもたちのに使われたんでしょうか」
さんは、すぐには答えなかった。
そして、もう冊の帳簿を差しした。
『学特別支援会計』
私はページをいた。
寄付が入った付と額が記されている。
その方で、支欄には見慣れない項目が続いていた。
『支援費』
『共同炊事運営費』
『特別配費』
私は首をかしげた。
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「共同炊事?」
「学ので、を提供する施設があったことになっています」
「ことになっている?」
さんは、別の類をした。
『松ノ区共同炊事 対象児童名』
私はわず顔をげた。
。
の実際の数と、請求数の差だった。
「このというのは……」
「学に通っていない、部の児童を支援するためだと説されていました」
私は類を読みめた。
炊事の所は、の側にある古い作業になっている。
学からはをく歩く所だった。
「ここに、毎分のが届けられていたんですか」
「帳簿は、そうなっています」
「実際は?」
さんは首を振った。
「私は赴任してから調べましたが、毎届けられていたという記録は確認できませんでした」
私は机に置かれた類を見つめた。
費千百円。
分の補助。
そして、寄付。
すべてがつの所へ流れていた。
「さんは、当このことを問題にしなかったんですか」
「しました」
彼は静かに答えた。
「杉本に、炊事の利用者名簿を見せてほしいと頼みました。すると、個報だから事務職員には必ないと言われたんです」
「それで?」
「実際に炊事へってみました」
私はを乗りした。
「子どもたちはいましたか」
「建物はありました。
でも、毎が事をするような所ではありませんでした」
さんは、当撮った写真を見せた。
の斜面に建つ、さな造の。
窓はつ。
入には錆びた板が掛かっている。
『松ノ共同炊事』
私は写真を見つめた。
どう見ても、の子どもが毎事をする施設には見えなかった。
「私がったは、誰もいませんでした」
さんは続けた。
「所のに尋ねると、に何度か炊きしのようなことはしていたらしい。でも、学の帳簿にあるような毎の配ではなかったんです」
「では、残りのおは?」
「それを調べようとしたところで、私は別の学へ異になりました」
私はさんを見た。
「異させられたんですか」
「はっきりとは分かりません。ただ、からは余計なことを調べるなと言われていました」
さんは、しだけ笑った。
「若かった私は、仕事を失うのが怖くて、それ以追及できませんでした」
好さんも、森先も、さんも。
みんな何かがおかしいと気づいていた。
けれど、誰も止められなかった。
その結果、歳の私が棒になった。
私は、もうつ尋ねた。
「さん。どうして今になって話してくださるんですか」
彼はしばらく考えた。
「聞で、あなたの費の疑いがれたと読みました」
「はい」
「その記事を見て、やっと分かったんです。
あのとき学で起きていたことは、単なる会計の違いではなかったんだと」
私は黙って聞いた。
「好さんが辞め、あなたが転し、私も異した。帳簿のことをるが、次々に学からいなくなった」
さんは、私の顔を見た。
「私はもう、黙っている理由がありません」
私はくをげた。
「ありがとうございます」
帰り、私は父のへ向かった。
父はいつものように、ラジオを聞きながら自転のブレーキを直していた。
「お父さん」
「どうした」
私は寄付の受領を見せた。
「これ、覚えている?」
父は鏡をかけ、しばらく眺めた。
「ああ」
「本当に寄付していたんだね」
「しだけな」
私は子に座った。
「どうして、私に教えてくれなかったの?」
父は具を置いた。
「おがさいころ、費を払えなくて困っているがあったんだ」
父は話し始めた。
ある、修理に来た農の男性が、費を滞納していることをこぼした。
子どもが教で恥ずかしいいをしているという。
父は、その話が気になった。
自分のも決して裕福ではなかったが、しずつなら助けられるとった。
それで、学へ寄付をするようになったという。
「誰が助けたかなんて、子どもには分からないほうがいいだろう」
父はそう言った。
「でも、お父さん。そのおが……」
私は言葉に詰まった。
父は私を見た。
「ちゃんと使われていなかったのか」
私はうなずいた。
「まだ全部は分からない。でも、別の帳簿におかしな支があるの」
父は、しばらく黙っていた。
そして静かに言った。
「それなら、最まで調べなさい」
私は父のを見た。
油で黒くなり、節が太くなった指。
そので父は、私たちの暮らしを支えてきた。
そして、らない誰かの子どもも助けようとしていた。
そんな父の娘を、学は棒にしたのだ。
その夜、私はさんから預かった帳簿を読み直した。
共同炊事への支は、毎ほぼ同じ額だった。
しかし、度末になると、まとまったが別の座へ移されていた。
その振込先には、見覚えのある会社名がかれていた。
『品商会』
の納入業者だった。
私は帳に、会社名をきくいた。
、私がの裏で見た箱。
あれを運んでいた男も、品のだった。
そして、帳簿の最のページには、きの注記があった。
『度末精算 杉本指示により処理』
私は、その文を何度も読み返した。
寄付を受け取り、使いを決め、最に業者へ流していたのは、杉本だった。
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