"昭和39年、給食費泥棒にされた少女" 第12話
最の当番
松ノ学の舎が取り壊されたのは、翌のだった。
解体作業が始まる、私はもう度学を訪れた。
庭には、まだ桜のが残っていた。
昭の。
私は、この舎を逃げるようにった。
あの、を振り返ることもできなかった。
けれど今は、自分ので戻ってきた。
私は、組の教へ入った。
黒板はそのままだった。
窓際の戸棚も残っている。
、ここで先から棒と言われた。
私は、教の真んにった。
窓からのが入ってきた。
くで、事の準備をするたちの声が聞こえる。
私は、かつて自分が座っていた席を探した。
窓から列目。
から番目。
そこに机はもうなかったが、の傷が残っていた。
私はしゃがみ、指で傷をなぞった。
あの、私は泣きながら机にしがみついていた。
先が謝れば終わると言った。
友達は何も言わなかった。
私は、何度も盗んでいないと答えた。
それでも、誰も聞いてくれなかった。
私は、静かにちがった。
「子ちゃん」
振り返ると、好さんが入にっていた。
が悪くなり、杖をついている。
「来てくださったんですか」
「最に見ておこうとってね」
私は好さんのところへ歩いた。
で、へ向かった。
調理台は取りされ、鍋も器もなくなっていた。
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それでも、壁には昔の献表を貼っていた跡が残っていた。
好さんは、入でち止まった。
「ここで、毎を作っていたんだよ」
「覚えています」
「子ちゃんは、牛乳が苦だったね」
私は笑った。
「よく覚えていますね」
「毎、最まで残っていたからね」
私たちは、しばらく昔の話をした。
当番で器を落としたこと。
のにパン箱が濡れたこと。
になると、温かい汁物が何より嬉しかったこと。
好さんは、懐かしそうに笑った。
「の仕事は好きだったよ」
そして、し声を落とした。
「でも、あの学を辞めたことは、今でも悔しい」
私は好さんを見た。
「好さん。あのとき、私を信じてくれてありがとうございました」
好さんは首を振った。
「信じるだけじゃりなかったね」
「そんなことありません」
「もっとく、ちゃんと話してあげればよかった」
私は、好さんのを取った。
「でも、今、話してくれました」
好さんは目を細めた。
「そうだね」
私たちは、静かなをあとにした。
舎をると、父がのところで待っていた。
杖を持った好さんを見て、父は子を取った。
「好さん。ご無汰しています」
好さんもをげた。
「岸田さん。あのときは、本当に申し訳ありませんでした」
父は、静かに答えた。
「もういいんですよ」
そして、私を見た。
「子が、自分でちゃんと確かめましたから」
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私は父の隣にった。
も、父はこうして私を迎えに来てくれた。
ただ、あのは、ともを向いて歩いた。
今は違う。
私たちは、庭の桜を見げた。
学の資料の部は、町の郷資料へ移されることになった。
古い教科。
の献表。
写真や学事の記録。
そして、昭の費納簿。
私は、その理を最まで伝った。
費の記録には、訂正の説が添えられた。
『昭、組の費千百円について紛失が疑われたが、の調査により、当該額は事に入済みであったことが確認された。岸田子児童が現を盗んだ事実は認められなかった』
その文章を読んだとき、私は初めて、あのの自分が救われた気がした。
誰もらないまま終わるとっていた。
けれど、正しい記録が残った。
それだけで分だとえた。
数か、町の広報誌から、学の歴史についてい文章をいてほしいと頼まれた。
私は引き受けた。
ただし、自分が棒にされたことだけをくつもりはなかった。
好さんが毎作っていた。
費を払えなかった庭を助けようとしたたち。
そして、善のおが、正しく使われなかったこと。
学が子どもを守る所であるはずなのに、の都での子どもを傷つけたこと。
そのすべてを、できるだけ正確にいた。
原稿をき終えると、私は父に読んでもらった。
父は鏡をかけ、ゆっくり読んだ。
そして、最に言った。
「いい文章だな」
私は笑った。
「本当?」
「ああ。おが、ちゃんと自分の言葉でいている」
私はし照れくさくなった。
父は原稿を机に置いた。
「子。お父さんは、あのころ何もできなかったとっていた」
私は首を振った。
「そんなことないよ」
「先に何度頼んでも、聞いてもらえなかった。おを転させることしかできなかった」
私は父の隣に座った。
「お父さんは、私を信じてくれたでしょう」
父は黙った。
「それだけで、私はずっと頑張れたんだよ」
父は、さく笑った。
「そうか」
私はうなずいた。
、私はあの学でぼっちになったとっていた。
けれど、本当はそうではなかった。
父がいた。
母がいた。
好さんも、私を疑っていなかった。
そして今、あのときのことをるたちが、自分の違いを認めてくれた。
すべてが元どおりになったわけではない。
失った友達とのも、傷ついたも、戻らない。
でも、これから先のまで、あのに縛られる必はない。
私は、そうえるようになった。
の終わり。
私は、取り壊された学の跡を訪れた。
舎はなくなり、広い空きになっていた。
けれど、桜のが本だけ残されている。
私は、そののにった。
が吹き、びらが元を通り過ぎた。
、私はこの所から逃げるようにった。
今は、自分ので帰る。
もう、誰かに謝れと言われても、嘘の謝罪はしない。
自分が違っていたなら認める。
けれど、違っていないことまで、誰かの都で認めたりはしない。
私は、そうやってきていこうとった。
帰り、昔の商を通ると、文のがいていた。
私はし迷ってから、に入った。
「こんにちは」
文は顔をげ、笑った。
「子ちゃん。いらっしゃい」
私は棚から、本の鉛を選んだ。
昔、学で使っていたのと同じ、黄い鉛だった。
「これ、ください」
文は鉛を袋に入れた。
「本だけ?」
「うん。しい原稿をくから」
文は笑った。
「そう。いい文章がけるといいね」
私はうなずいた。
をると、夕方のがに差していた。
私は袋を持ち直し、父の待つへ歩いた。
あののことを忘れることはないだろう。
けれど、もう、あのだけが私のではない。
私は歳の岸田子として、これからのをきていく。
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