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"110億円を相続した妻を捨てた夫――30億円の誤算" 第5話

玉座への帰還と暴かれた横領

曜の午。私は弁護士を伴い、京・町の等に聳えつ神堂ホールディングスの本社ビルへと向かった。

の専用寄せから専用エレベーターに乗り、最階の階へとがる。扉がいた瞬、通の両脇に直していた数名のグループ最幹部たちが、斉に々とを垂れた。

昨まで、スーパーの特売チラシを眺め、義母の罵声に耐えながら古びた雑巾を絞っていた専業主婦の姿は、そこには欠片もしなかった。

今の私は、熟練の職によって仕てられた漆黒のオートクチュールスーツにを包み、胸元には神堂グループの最統括者のみが佩用を許される、純とダイヤで象られた鳳凰の総帥章を燦然と輝かせていた。

「お帰りなさいませ、美桜総帥」

幹部たちの沈黙の礼を受けながら、私はフロアの最奥にある、かつて叔父が執務をっていた広な総帥へとを踏み入れた。部の央に鎮座する、齢数百の銘から削りされた巨な役デスク。その背の革張りチェアに腰をろすと、先が恭しく通の古い封筒を差ししてきた。

「き最顧問が、美桜様がこの部へ戻られたにのみ封するよう、私に託されていた簡でございます」

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私は息をえ、封筒の封を切った。から現れた便箋には、幼い頃から見慣れてきた叔父の力い達で、私への最のメッセージが記されていた。

『する美桜へ。 おがこのを読んでいるということは、あの男との活に見切りをつけ、本来あるべき自らの玉座へと戻ってきたということだろう。 私は最初から、郷田達也という男の器の浅さを見抜いていた。彼には、おの無償のを受け止めるだけの誠実さも、という魔物に呑まれないだけの品格もないと分かっていた。 それでも私が億円もの担保を差ししたのは、孤独だったおが、束のでも「普通の庭の温もり」を見ることができるなら、それも決してい代償ではないと考えたからだ。 だが美桜、もしあの男がおの真を裏切り、己の欲望のためにを剥いたなら、私が遺した百億円のすべてを使い、自らの誇りと尊厳を取り戻しなさい。おは、何者にも傅く必のない、神堂の絶対統括者なのだから』

叔父の器用でいが、文字文字から胸に迫り、私の界を微かに潤ませた。

叔父はすべてを予見していたのだ。それにもかかわらず、達也とかずは、この無償の恩恵を自分たちの実力だと勘違いし、挙句の果てに私を蹴にして追いした。

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恩らずの寄虫たちに、これ以神堂の資産を円たりとも吸わせるわけにはいかない。

「先、塚監査部を呼びなさい」

私の静かな命令がると、数分、グループ内の正を酷に摘発してきた特命監査部の塚部が、分いファイルを抱えて入してきた。

「総帥、お呼びでしょうか」

「塚部。昨、ゴーダプレシジョンに対する億円の保証枠を解除しましたが、それだけで終わらせるつもりはありません。同社の過の全財務データ、並びに資移履歴の徹底な追跡を命じます。達也さんは常に資繰りが苦しいと言って私に極端な活費の切り詰めをいていましたが、億円の枠がありながら頻繁にショートするのはあまりにも自然です」

塚部の鏡の奥の瞳が、鋭利なを宿した。

「承いたしました。すでにメガバンクのシステムから過の全トランザクションを抽しております。今夜に、使途の流れを完全に洗いしてみせます」

そしてその夜、午。塚部が総帥のデスクのに並べた調査結果は、私の像を遥かに超える、おぞましい裏切りの全貌を暴きしていた。

「……総帥、結論から申しげますと、ゴーダプレシジョンの資難は、経営振によるものではありませんでした」

塚部が指し示した類には、実体のないつのペーパーカンパニーへの自然な送記録がびっしりと並んでいた。

「過において、架空の部材発注およびコンサルタント費用名目で、総額億千万円が会社の公から引きされております。そして、その資の最終な着先は——郷田達也個の秘密座、およびである井麗名義で取得された都内の級タワーマンションの購入資、並びにや宝飾品の購入に充てられていました」

億千万円の横領。

私がスーパーで円単位の節約に励み、すり切れたを着て耐えていたその裏で、夫は私が叔父に頼み込んで用した会社のから億円以を抜き取り、に貢ぎ続けていたのだ。

「なるほど……。私を無文で追いしたのは、千万円の持参目当てだけではなく、同居している私が帳簿の異常や活の矛盾に気づくのを防ぐための、証拠隠滅でもあったわけですね」

私の元から、絶対零度の笑が漏れた。

「先、京検特捜部へ連絡を入れなさい。これはもはや、民事の倒産劇では終わりません。背任および業務横領の現犯として、あの男を法の裁きのへ引きずりします」

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