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"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第9話

反の約束

見本が問へ渡ってから週、町にはまじりのが続いた。朝になると根の端からが落ち、がで汚れる。女たちはを止めたまま、の洗濯や畑仕事をして待っていた。待つにもがった。園子は物の着物を枚質に入れ、ミネの父はもうを売る相を探していた。

問から注文の返事が届いた、フキのにはが集まった。沢と澄はの包みを抱えてきた。い青の縞物、反。以内。仕がりを見て、格の布は代を払わない。ただし過度な継ぎ目や幅の乱れがなく、見本にい来なら全量買い取る。

「賃は百円」と澄が言った。「私たちの取り分はいけれど、これなら払えます。検品でやり直しになったは、糸そのものに傷があったを除いて、原因を見て協議します」

フキはを受け取った。

「協議じゃ困る。誰が判断するの?」

「私と、あなたがたから。見が割れたら取引先へ見本を送ります」

「取引先が決めるなら、結局は買うの言い分になる」

澄はし考え、古いの検品をするキヌを第者としててる案をした。キヌはすでに織元から仕事を受けていない。見て分かる傷は正直に言う女だ。皆はようやく首を縦に振った。

問題は誰が何反織るかだった。反にかかるはによって違い、の事も違う。

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園子は反なら引き受けられるが、子がをしたの代わりはいない。ミネは反でも織りたい。父親にを売らせずに済むからだ。ほかのでも希望がばらばらだった。

ヨシはをげた。

「私は反だけにしておくれ」

皆の顔が向いた。

「は反受けたのに」とミネが言った。

「反受けて、反しかがらなかった。それで分かったんだよ。自分ができる分をきく言うと、結局は誰かに迷惑がかかる。私のでは反でも精いっぱいだ」

苗は横でさく頷いた。ヨシはそれを見なかったふりをした。

やがてずつ、実際にできる反数をいた。計は反だった。残り反。女たちは顔を見わせた。

「よそからを呼ぶ?」

「同じ縞のを用するだけで何もかかる」

「反分だけ沢さんので」

沢の息子・鉄夫が首を振った。彼が管理するには、幅の違うしかない。設備を変えれば、そのに別の注文を失う。

ヨシは言った。

「反を全部受けなくてもいいんじゃないか」

「それじゃ注文が流れるわ」と園子。

「流れたら困る。でも、できない数をできると言って、あとで皆が困るのはもっと嫌だ」

フキはを取りげた。

「反なら受けられる、先方にそう返事しよう。断られたら、断られたでいい」

沢の顔が暗くなった。注文を半ぶりに得たばかりだ。

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ここで断れば、仕事がほかの町へくかもしれない。

「反分は、が空いたに振り分けることもできます」と沢。

「にもそれで困ったでしょう」ヨシが言った。「りない分は、りないと伝えておくれ」

その返事を聞いたミネの父は、娘が反を受けたことをって眉をしかめた。「おでそんなにできるものか」。ミネは以なら言い返せなかったが、今回は机のに付の入った予定表を広げた。昼の仕事との伝い、糸をかけるまでいてある。「このは反の半分。このはにいるから分の」。父は字を追い、初めて娘の働きがどれだけ細かく分かれているかった。それでもは消えなかった。を売れば当座の借は減る。娘が残ると言えば、その希望を応援するだけでは計が成りたない。は最まで同じ結論にはならず、ひとまず今の仕事を終えることだけ約束した。

問は翌、反なら買い取るが、残り反は別のへ回すと答えた。沢は悔しそうだった。これまで、まとまった注文をつでもく取ることがの信用だと考えてきた。減らした数量でしか契約できないのは、負けた気がした。

だが女たちは初めて、自分たちが約束した数だけを織り始めた。ごとに引き受けた量と仕げをき、糸の受領も控えた。

に余裕のあるが、子を預けられないの糸巻きを伝うは別に代を払う。誰も無償の助けを当たりにしない。

ヨシは苗と机ので反分の経糸をえた。信夫は学から戻り、算数の宿題を見せた。ヨシは片目で数字を追い、違いを見つけると笑った。

「私に勘定を教えるつもりなら、そっちが違えちゃ困るよ」

「じゃあ、ばあちゃん、これ分かる?」

信夫が示したのは分数の問題だった。ヨシにはすぐに答えがない。代わりにをつに折り、布を分ける話で説した。信夫は笑って、自分で正しい答えをいた。

翌、鉄夫がへ来た。ヨシの最初の反の精算を終えるためだった。反の代は千円。付を差し引いた円を渡し、織りかけの糸を引き取る。ヨシはそれを受け入れた。先に受け取った千円が病院代へ消えたことも隠さなかった。借を作らずに済んだが、週働いて最に元へ残ったのは貨と貨だけだった。

「おばあさん」と鉄夫が言った。「親父はっています。あのとき反できるって言ったのは、おばあさんでしょう」

「そうだよ。私が違えた」

鉄夫は何か言いかけ、を閉じた。その元に、ヨシは息子の若い頃をいした。責められるより、気の毒そうにされるほうがつらかった。

の半ば、反のうち反を織る仕事がき始めた。

い裏のと違い、縞の線をそろえるために各で寸法を測りう。ミネが最初に反を仕げた。ヨシは端を見て、か所の傷を指摘した。ミネは腹をてず、そので直した。以のヨシなら、自分の腕の確かさを見せつけるために黙って直しをしただろう。今回は、直し方を教えて自分のへ戻った。

目、園子の布の青が、見本よりほんのしに見えるとキヌが気づいた。

「のせいよ」と園子は言った。

キヌは同じ所へ並べ、窓をけた。陽のではがはっきり違った。ヨシの胸がさく鳴った。縞の線はっていても、糸そのものが違えば、いくら腕が良くても同じ布にはならない。

「ほかのの糸も見よう」とヨシが言った。

その、織りがった反のうち、反で同じ違いが見つかった。倉庫へ残っていた糸を並べると、束の染まり方がわずかに違う。澄は糸へ話をかけたが、同じ品番だから問題ないと言われた。

女たちは、納品までまだ以あるとっていた。

けれど実際は、最初の反を受け取った問から翌朝、報が届いた。

《見本ト違イ 以荷待ツ》

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