"75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密" 第2話
母が捨てた名字
翌の午、私はでもらったにかれていた法律事務所を訪ねた。
担当弁護士は、理と名乗る代くらいの女性だった。
落ち着いた話し方をするで、私が差しした免許証や戸籍謄本をつずつ確認し、最に顔をげた。
「お母様は田奈様ですね」
「はい。にくなりました」
さんは元の類を閉じなかった。
「お母様は若い頃、神崎奈というお名でした」
瞬、聞き違いかとった。
「神崎?」
「はい。神崎物流株式会社の創業です」
その会社なら、私でもっていた。
町をる型トラックの側面に、神崎物流という名が入っている。元ではかなり名な企業だった。
私はわず笑った。
「違いですよ」
「いいえ」
「だって、私の母ですよ?」
声がきくなった。
「普通の会社員でした。古いアパートにんで、スーパーでは値引きされたものを買って、自転で仕事にっていたです。そんなきな会社ので育ったが、どうしてあんな活をするんですか」
「記録に違いはありません」
さんは分いファイルをいた。
そこには母の旧姓、、戸籍の移記録が然と並んでいた。
さらに枚めくると、神崎幸恵という名が現れた。
「こちらがお母様のお母様。つまり、牧さんのお祖母様にあたる方です」
広告
「祖母……」
私は祖母の顔さえ、ほとんど覚えていない。
母は実について話したがらなかった。
親戚付きいも、直子おばちゃん以にはほとんどなかった。
「今回の信託は、幸恵様がになって作られたものです」
「どうして私に?」
「最終な受益者として牧さんが指定されているからです」
さんは説を続けた。
ただし、その財産には示の条件が設定されていた。
私が定の齢に達すること。
そして、私の権利を代わりに守る保護役が、その役割を終えること。
「その保護役が島直子様でした」
私はわず子からを起こした。
「直子おばちゃんが?」
「はい」
か、直子おばちゃんは自宅で倒れ、そのままくなった。
私が部を片づけた、通帳には普通の貯があるだけだった。古い帳簿や税の本はかったが、何億円もの財産につながるようなものは見つからなかった。
「おばちゃんがくなったから、私にらせる条件がったんですか」
「そうです」
切ながくなるたびに、私のらない扉がつずついていく。
そんな覚だった。
さんは、次に資産の内訳を説した。
現、債券、投資商品などの融資産がおよそ億円。
そして残りの部分が、神崎物流の非株式。
現点の概算では、全体で億から億円程度になる能性があるという。
広告
「そんな株、売れるんですか」
「簡単には売れません。非株式ですから、価値を算定するにも続きが必です」
「私は会社を経営する気なんてありません」
「経営する必もありません」
「では、母はこれをっていたんですか」
さんの目がわずかに変わった。
「っていました」
胸の奥がくなった。
「母は全部っていた?」
「信託のも、将来牧さんが受益者になることも、ごじでした」
、母が入院していたのことをいした。
治療費の細を見ながら、
「今はちょっと厳しいね」
母はそう笑っていた。
私は残業を増やした。
直子おばちゃんも々、材を持ってきてくれた。
その、母は億円もの融資産がすることをっていた。
「どうして使わなかったんですか」
声が震えた。
「病気だったんですよ。もっといい治療だって受けられたでしょう」
「その理由については、牧さんに読んでいただくものがあります」
さんは引きしをけ、い封筒を取りした。
「お母様からです」
私は反射にを伸ばした。
しかしさんは、封筒を私の指先からしざけた。
「今はお渡しできません」
「どうして?」
苛ちが声にた。
「母はもうくなっています。なのに今度は弁護士さんまで、私に何をらせるか決めるんですか」
「お母様が条件を付けています」
さんは表を変えなかった。
「牧さんが自分の権利をり、そのさにみ込まれず、自分で判断できる状態になったに渡すように、と」
「それを誰が判断するんですか」
「私たちです」
腹がった。
んだ母にまで、自分のを管理されているような気がした。
だがさんは、私を責めなかった。
「今は、億円の受益者であるという事実だけを持ち帰ってください。度に全部をると、判断を誤ります」
私はちがった。
それでもつだけ聞きたかった。
「母は、どうして神崎をたんですか」
さんはし考えた、静かに答えた。
「その答えは、お母様自の言葉でった方がいいといます」
事務所をた、私は駅までので何度もを止めそうになった。
田奈。
私がっている母。
神崎奈。
私のらない母。
そのが、本当に同じだったのだろうか。
そして数。
神崎から初めて、私の携帯話に連絡が入った。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
朝霧湯、最後の暖簾
昭和48年の暮れ。信州の小さな銭湯「朝霧湯」は、石油危機による灯油不足で休業の危機に追い込まれていた。主人の島田正一は、わずかに残った燃料と娘の進学費用を前に、店を閉める決断を迫られる。だが、風呂のない長屋に暮らす老人たちにとって、朝霧湯は欠かせない場所だった。妻の澄子や娘の千絵、商売敵だった銭湯の主人までが動き出すなか、正一は最後の一度だけ湯を沸かすことを考え始める。家族の暮らしを守るか、長年通い続けた客を迎えるか。昭和の町に生きた人々の葛藤と温もりを描く物語。時代|歴史|昭和|第二の人生|介護2.5万字5 9 -
完結第10話
手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り月23万円のトラック運転手・中村和也は、妻の彩佳と娘の結衣を何よりも大切にしていた。幼い頃、亡き父と交わした温泉旅行の約束を果たすため、毎月五千円を五年間積み立て、ようやく三十万円を貯める。結婚記念日に彩佳が選んだのは、山奥に佇む名門旅館「月影楼」。質素な暮らしの自分たちには場違いに思えたが、玄関に到着した途端、従業員が彩佳に深々と頭を下げた。「お嬢様、お帰りなさいませ」。妻が長年隠してきた過去とは何なのか。家族への愛と、思いがけない運命の再会を描く物語。人生逆転|夫婦|第二の人生|親子関係2.4万字5 239 -
完結第12話
昭和46年、三日で逃げ帰った兄と消された就職記録
昭和46年、十五歳の正男は集団就職で東京へ向かった。しかし三日後、傷だらけで村に戻り、母に「家族を捨てるのか」と責められて家を追われる。それから26年。妹の美枝は、駅の記念展示を準備する中で、兄と一緒に旅立った少年三人の就職先が書き換えられた写真を発見する。約束された工場に入っていなかった少年たち、燃やされた契約書、口を閉ざす大人たち。なぜ兄は、次の就職列車を止めようとしたのか。長く「逃げ帰り」と呼ばれた帰郷の理由を、妹が追い始める。時代|歴史|昭和|絶縁|親子関係2.7万字5 103 -
完結第13話
昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女
昭和32年、越前の織物町。工賃の値下げに抗議して女たちが一斉に機を止めるなか、73歳の坂井ヨシだけが織り続けていた。ぜんそくを患う孫の薬代を稼ぐためだった。しかし、納めた布の工賃は一方的に減らされ、仲間からは「裏切り者」と見なされてしまう。さらに急ぎの注文を引き受けたヨシは、傷ついた指と返せない手付金に追い詰められていく。家族を守るために働くことが、なぜ仲間を苦しめるのか。時代|歴史|昭和|第二の人生|絶縁2.8万字5 41 -
完結第14話
50人ドタキャンで廃業寸前、そこへ現れた意外な客
父から受け継いだ居酒屋「二鉄」を守るため、会社を辞めた32歳のテツ。廃業寸前の店に舞い込んだのは、元同僚・真治からの50人貸切予約だった。ところが宴会開始30分前、真治は突然の全員キャンセルを告げ、支払いまで拒否する。大量の料理を前に途方に暮れるテツ。そのとき、「今から50人入れますか?」と一人の青年が駆け込んできた。職場逆転|裡切られた|怒り|金銭問題|修羅場1.7万字5 852 -
完結第20話
一年後の請求書
脱サラして念願の自家焙煎カフェを開いた橘鉄。しかし、店にはコーヒー一杯だけで毎日11時間も居座り、ゲームに没頭する大学生・日向明がいた。注意しても屁理屈を並べ、SNSでの炎上までちらつかせる始末。困り果てた鉄は、ある日「コーヒー一杯で終日ゲームし放題」という新サービスを始める。大喜びで年間契約にサインした明だったが、その契約には思いもよらない条件が隠されていた。一年間、何も言わずに見守り続けた店主が、ついに動き出す。怒り|真実|修羅場2.0万字5 442 -
完結第18話
時給1111円で高齢者5人を雇った結果
父から受け継いだラーメン店が、大手チェーンに客を奪われ閉店寸前。店主の赤坂明のもとへ、職を失った高齢者五人が「働かせてくれないか」と訪ねてきた。明は時給1111円で全員を採用する。すると、元工場勤務、教師、タクシー運転手など、五人が長年培ってきた経験が思いがけない力を発揮し、店は少しずつ活気を取り戻していく。しかし、その変化を面白く思わない競合店の店長が、次々と妨害を仕掛け始める。感動|職場逆転|人生逆転|金銭問題2.1万字5 662 -
完結第15話
110億円を相続した妻を捨てた夫――30億円の誤算
亡き叔父から110億円もの遺産を相続した美桜は、経営難に苦しむ夫・達也を救おうと、書類を抱えて帰宅する。ところが家の中から聞こえてきたのは、姑と夫が自分を追い出し、裕福な社長令嬢との再婚を企む会話だった。持参金5000万円に目がくらんだ夫は、慰謝料も財産分与も払わず離婚を迫る。美桜は静かに離婚届へ署名し、家を後にする。しかし、夫の会社を長年支えてきた30億円の信用枠には、本人さえ知らない重大な秘密があった嫁姑|夫婦|相続|金銭問題2.4万字5 751 -
完結第20話
5000万円の新居に義両親が無断で引っ越し――夫の嘘
実家の両親から五千万円の援助を受け、念願の新居を購入した。夫の健太とは親との同居をしないと約束し、二人だけの新生活を始めるはずだった。ところが引っ越し当日、義両親のベッドやタンスを積んだトラックが突然到着する。「今日から俺の親も住む。親孝行は当然だろ」と言い放つ夫。彩佳の同意もなく進められていた同居計画には、夫が隠してきた嘘があった。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題|修羅場2.3万字5 809