みかん小説
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"手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた" 第1話

千円の約束と万円の常

朝の気配がの輪郭を青く切り取る午、也の目覚まし計がい属音を鳴らした。也は隣で静かに息をてて眠る妻・彩佳と、壁側に丸くなって毛布を被っている歳の娘・結を起こさないよう、音を殺して布団から抜けす。

築を超える造アパートの階、畳にさな板張りの台所。台所の板はがづくにつれて底えし、スリッパ越しにもしんとしたたさが伝わってくる。蛇をひねってで顔を洗い、タオルで気を拭き取ると、也はく作業着へと着替えた。

胸元にさな青い刺繍で「丸運輸」と縫い付けられたのジャンパー。也が元の運送会社に入社してから、今でになる。型免許を取り、トントラックのハンドルを握り続けてきた。社員ほどの決してきくはない会社で、元の品スーパーやドラッグストアへ配品を運ぶのが主な業務だ。

朝に営業所の倉庫に入り、フォークリフトがき交う積み込みで、牛乳のケース、パンのコンテナ、凍品の段ボールを伝票と突きわせながらトラックの荷台へ隙なく積み込む。午に軒の舗を回り、舗の搬入からバックヤードまで台を押して荷を届ける。

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午には便目を積み込んで同じをもう度る。すべての運を終えてトラックのタイヤを洗い、報をき終える頃には、夕方のを回っているのが常だった。

取りのは万円。贅沢ができる額ではない。彩佳が所のスーパーの品しパートで稼いでくる万から万円をわせ、の収入をつにまとめて毎の暮らしを回していた。

賃が万千円。気、ガス、の費。結の費や教材費、習い事の教の謝。乗り続けて距が万キロを超えた軽ワゴンのガソリン代と任保険料。それらをつひとつ封筒に振り分けていくと、末の財布に残るのは千円札が数枚ということも珍しくなかった。

それでも、也には結婚してからの、度として破ったことのない自分だけの決まり事があった。

毎、料が振り込まれると、也は仕事帰りに駅の方の支へち寄る。活用の座から活費を引きした、もうつの別の座へ、千円札を枚だけ滑り込ませるのだ。

み会を度断り、同僚たちが休憩所に並ぶ自販売で毎買う缶コーヒーをすれば、捻できる額。そうに決めて、結婚した最初のから始めた積みてだった。

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械から戻ってきた通帳をくと、印字されたしいに「入 5,000」の数字がつ増える。そのを指先で確かめ、そっと通帳を閉じる瞬が、也にとって何よりの励みだった。

通帳の表のい余には、黒い油性マジックできく「りょこう」とかれている。結がまだ歳の頃、覚えたての平仮名でいてくれた文字だ。「り」の字の払いがしく、「う」の字がへ傾いている。

『これ、なんのお?』

通帳を作ったの晩、ちゃぶ台のに置かれた通帳を見て、幼い結が首をかしげて尋ねてきた。

『族みんなで、いつか旅にくためのおだよ』

也が答えると、結は目を丸くして笑い、箱からマジックを取りして表に文字をき込んでくれたのだった。その、に通帳のがいっぱいになり、冊目に繰り越した際にも、結は同じように表へ「りょこう」といてくれた。冊目の文字は、冊目の文字よりもずっと背筋が伸び、まっすぐになっていた。

疲れて帰宅した夜、布団に入ってから「あ、今分をまだ入れていなかった」といし、着を羽織って夜のコンビニのATMまでったもある。そうしても欠かさず積みてを続け、今のの料、回目の入を終えた、座の残はちょうど万円に達していた。

「またコンビニまでってきたの?」

ある料の夜、息を切らしてアパートへ戻ってきた也に、台所から湯呑みを持ってきた彩佳が柔らかく微笑みかけた。

「ああ。せっかくここまで続いたんだからな。いつかで、いっきり温泉にでもきたいだろ」

也が笑って答えると、彩佳は湯呑みを差ししながら、どこかい目をしてさく頷いた。

「うん……そうだね。也さん、いつもありがとう」

彩佳はその千円の積みてについて、度も「活費に回して」と言ったことはなかった。それどころか、料がづくと「今も忘れずに入れてきてね」と声をかけてくれた。也がなぜ、これほどまでに「族での旅」にこだわるのか、その胸の奥にある消えない痛みを、彩佳だけはっていたからだった。

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