"消えた路地の矢印" 第6話
の診療所
翌の午、空が急に暗くなった。
ラジオは夕の能性を伝えていたが、事現の作業員たちは、予定を変えられずにいた。コンクリートを流し込むが決まっており、がるに終わらせたい仕事がいくつもあった。
俊はしい標識の支柱を運びながら、の入を見ていた。郵便局裏の通は完全に塞がれ、仮設柵には「歩者迂回」のが貼られている。だが、矢印は通りの方角を指すだけで、横断歩を渡ったの案内はなかった。
は、作業員が具を片付けるよりくり始めた。舗装途の面にが溜まり、砂利が流れ、事両のタイヤがをねげた。歩の端に置かれた箱が倒れ、荷物を抱えたたちが軒へ逃げ込んだ。
そのとき、直子が傘も差さずにってきた。
「俊さん、診療所へくがわからなくなったがいます。をした子供を連れたお父さんが、事柵のでち往しているんです」
俊は支柱を置き、彼女と緒に通りへ向かった。横断歩のでは、がしぶきをげて通り過ぎていた。父親は濡れた着でさな女の子を包み、の向こうを見つめていた。
「診療所は、あっちじゃないんですか」
彼が指した先には、事用の仮囲いが続いていた。公式の案内板は、の先を示している。
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けれど、そこから診療所へ向かう歩者用の通は、資材置きに変わっていた。
「こちらです。し回りますが、私たちが案内します」
俊は父親の歩調にわせ、のを先導した。たまりを避け、滑りやすい板を渡り、の入では作業員に通を止めてもらった。途、女の子が父親の肩で咳き込んだ。父親は何度も「すみません」と言ったが、俊には謝る必などないようにえた。
診療所に着くと、野寺がすぐに女の子をへ通した。野医師が診察の扉を閉める。事には至らなかったが、父親のズボンは膝までで濡れ、靴の片方は底が剥がれかけていた。
「がわからなかったんです。板はあったのに、矢印の先へけなくて」
父親は、濡れた子を両で絞った。
「案内があるのに、へ着けない。そんなことがあるんですね」
俊は、返す言葉がなかった。
診療所の軒で、直子が濡れたノートをいた。で鉛の線は滲み、の端が波打っていた。それでも、歩者が迷った所には、いくつも丸が付いていた。
診察が終わったあと、女の子の父親が俊を探してきた。娘は薬を受け取り、も落ち着いていた。父親は、仕事を抜けて連れてきたため、へ戻るを気にしていた。それでも、をげて礼を言った。
「がわかっていれば、あんなに慌てずに済みました。
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娘が苦しそうにしていると、いつものでも急にくじるものですね」
俊は、その言葉を忘れないようにした。に迷うことは、ただを失うだけではない。急いでいる、配している、初めての所に来たにとって、案内がないことはをきくする。だからこそ、案内板は余裕のあるだけが使うものではなかった。
診察が終わったあと、女の子の父親が俊を探してきた。娘は薬を受け取り、も落ち着いていた。父親は、仕事を抜けて連れてきたため、へ戻るを気にしていた。それでも、をげて礼を言った。
「がわかっていれば、あんなに慌てずに済みました。娘が苦しそうにしていると、いつものでも急にくじるものですね」
俊は、その言葉を忘れないようにした。に迷うことは、ただを失うだけではない。急いでいる、配している、初めての所に来たにとって、案内がないことはをきくする。だからこそ、案内板は余裕のあるだけが使うものではなかった。
「このままでは、も同じことが起きます」
「までに、何かを変えられるかな」
「変えなければ、も誰かが困ります」
直子は診療所の入にあった空き箱をひっくり返し、そこへ濡れたを広げた。俊は作業用の鉛で、今通ってきたを描いた。
通りの横断歩、事両の入、仮囲いの切れ目、診療所の裏。図面にはない所を、現で確かめた順にき込んでいく。
がまるころ、杉が診療所へやって来た。俊が作業を抜けたことを叱りに来たのかとったが、杉はまず、のついた靴を見た。
「何があった」
俊は、子供を連れた父親のことを話した。杉は途でを挟まず、最まで聞いた。
「現のに、歩者を止めるなとは言えん。危ない所を通して事故になれば、もっと困る」
「だから、全に通れるを決めたいんです」
「わかっている。だが、今の図だけでは決められん」
杉は、直子が描いた濡れた図を持ちげた。は破れかけていたが、現の位置は細かく記されていた。
「の朝、事主任と緒に歩く。通れる所と通れない所を、現で確認する。それまでは、勝に板をてるな」
それは、俊が初めて聞いた具体な約束だった。
しかし翌朝、現へくと、夜のうちに仮囲いの位置が変わっていた。全確保のため、俊たちが通れると考えた切れ目が、しい資材置きになっていたのだ。
は、のだけでなく、現でも毎晩変わっていた。
翌朝、診療所の待には、ので靴を汚した患者が何もいた。ひとりはを違えて予約のに遅れ、別のは事柵ので引き返して、薬を受け取るだけなのに普段の倍いをかけていた。
野寺は、診察券の裏に簡単な順をいて渡していたが、事がむたびにき直さなければならない。
「を渡しても、途で違うがてきたら、また迷いますね」
俊が言うと、野寺は頷いた。
「だから、角ごとに案内が必なんです。入にきな板が1枚あるだけではりません。最初の角でへ曲がっても、次の角でどちらへむのかわからなくなりますから」
俊は、案内板を置く所を3か所に分ける理由を初めて実した。は度に全体を理解するわけではない。目のの角を曲がり、その先を見て、また次の判断をする。案内板は、目をらせるだけでなく、迷いそうになる所に置かなければならなかった。
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