みかん小説
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"消えた路地の矢印" 第8話

消された板

の入の古い板は、予定どおり撤された。

作業員が釘を抜き、板をろすと、隠れていた壁のが角く残った。板の跡は、そこに何がかれていたのかをらないには、ただの汚れにしか見えない。けれど、所のたちはを止め、その空を見げた。

「診療所は、もうこっちからけないんですか」

青果の客が、直子に尋ねた。

「今は、表のを回ってください。案内をせるように、調しています」

「今は、って、は?」

直子は答えられなかった。

そのの午、俊は杉と事主任に提する迂回の案をまとめた。通できるを決め、危険な交差点を避け、歩者の通と事両の入を分ける。案内板は、の入、横断歩の、診療所へ曲がる角の3か所に置く。事ので位置が変わるは、毎朝、現主任が確認する。

だが、現主任は案を見て眉を寄せた。

「この通は、午の搬入に使えません。資材を運ぶトラックが入ります」

「では、搬入をずらせませんか」

「の現との兼ねいがある。運転にも順番があるんです」

俊は、案内板の設置位置をしずつ変えた。どこを通しても、何かがぶつかった。両の線、の荷ろし、歩者の全、事の期限。ひとつを守ると、別のひとつが崩れる。

昼過ぎ、俊は余った板の切れ端に、きで「野診療所 徒歩の方はへ」

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と描いた。正式な標識ではない。事用の案内板を作る際にた端材で、裏には古い塗料の跡が残っていた。

彼はそれをの入からしれた柱脇にてかけた。矢印は、午に現で確認した通を指している。正式な許を得るに設置するのは規則違反だったが、なくとも、が途切れている所へを案内するよりはいいとった。

最初にち止まったのは、郵便配達員だった。彼は板を読み、曲がる方向を確かめてから、自転を押して歩きした。次に、買い物袋を持った女性が板を見て、診療所の方角へんだ。

俊は胸の奥がし軽くなるのをじた。

だが、30分もしないうちに、杉がやって来た。

「誰の許でてた」

俊は言い訳をしなかった。

「正式な案内がにわなかったので」

「にわないから、勝にしていいことにはならん。が変わったら、矢印が違いになる。事故が起きたらどうする」

杉は板を抜き、面に横たえた。声は厳しかったが、板を乱暴に折ることはしなかった。

「おが見たたちが、今ここを通れたのは事実だ。だが、も通れるとは限らん。善で置いた案内が、を危険な所へ連れていくこともある」

俊は、濡れた板の矢印を見つめた。杉の言うことは、正しかった。案内板をてることより、案内板が正しい状態であり続けることの方が難しい。

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「では、どうすればいいんですか」

「現が毎朝確認する。通れると所を決める。変わったら、すぐに板を移す。その仕組みを作るんだ。おひとりがり回るだけでは、続かない」

杉は板を俊に返した。

「この矢印は悪くない。だが、今のままでは使えん」

夕方、俊はの入へ戻った。古い板の跡には、い角だけが残っていた。直子は、枝活版所の板を布で包み、移転用の荷物のに置いていた。

「父が、ようやく移転先を決めました」

「決めたんですか」

「今の所を残すのは難しいと、わかったみたいです。でも、械を全部運べるわけじゃありません。仕事の部は断ることになるといます」

直子は、包みの端をえた。

「父は、負けたと言っていました。でも、私は、負けたことにしたくありません。ここで仕事をしてきたたちが、次の所でも仕事を続けられるようにしたいんです」

俊は、の奥を見た。古いは消えていく。だが、そこを通っていたたちまで、同じ所でち止まる必はない。

彼は、杉から返された板を持ちげた。裏面に、もう度鉛での線を描き始めた。

今度は矢印だけではなく、どこで誰が確認し、いつ通れなくなるのかも、板の裏にさくき込んだ。

翌、の向こうで働く作業員が、撤した板を見て俊に尋ねた。

「この板、そんなに事だったのか。古い板なんて、どこの現でもすだろう」

俊は、裏側に残った何層もの塗料を見せた。

「事なのは板そのものじゃありません。ここに何があって、どこへけばよかったのかを、町のが覚えるための目印だったんです」

作業員はしばらく黙っていた。彼も、事のために自宅くの商が移転し、帰りの目印がなくなったことがあるという。しいができるのはありがたい。けれど、いつもの角にあったが消えると、を違えたような気持ちになる。

「俺たちはを作っているつもりだったが、誰かのを終わらせてもいたんだな」

作業員の言葉に、俊はすぐに答えられなかった。事をするも、を使うも、同じ町の変化のにいた。

翌、の向こうで働く作業員が、撤した板を見て俊に尋ねた。

「この板、そんなに事だったのか。古い板なんて、どこの現でもすだろう」

俊は、裏側に残った何層もの塗料を見せた。

「事なのは板そのものじゃありません。ここに何があって、どこへけばよかったのかを、町のが覚えるための目印だったんです」

作業員はしばらく黙っていた。彼も、事のために自宅くの商が移転し、帰りの目印がなくなったことがあるという。しいができるのはありがたい。

けれど、いつもの角にあったが消えると、を違えたような気持ちになる。

「俺たちはを作っているつもりだったが、誰かのを終わらせてもいたんだな」

作業員の言葉に、俊はすぐに答えられなかった。事をするも、を使うも、同じ町の変化のにいた。

を案内するには、をっているだけではりない。が変わることを、り続けなければならなかった。

翌朝、俊は撤した古い板を置いてある資材置きへった。板は割れないようにねられ、表面の塗料にはの跡が残っていた。裏返すと、何度も塗り直された層のから、古い名がうっすら見えた。今の「野診療所」のには、以の医院の名らしい文字があり、そのには別の矢印が残っていた。町のは、が変わるたびに板を捨てず、文字を塗り直して使ってきたのだ。

俊は、その板を捨てるための材と緒に積まれているのが、急に惜しくなった。板は古びていたが、何度もを教え直してきた跡があった。彼は杉に頼み、1枚だけ持ち帰る許をもらった。

「しい標識を作るのに、古い板を残すのか」

杉が尋ねた。

「しいを描くとき、に何があったかを忘れないためです」

杉は、何も言わずに頷いた。古い板は、公式の案内として再利用できない。それでも、捨ててしまえば、で暮らしたたちがどんな目印を頼りにしていたかまで、見えなくなってしまう。

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