"シャッターを切らなかった日" 第9話
父の料袋
森田さんの作業を撮ったは、朝からだった。
畳のにを置くと、妙子さんが洗濯の跡を指で伸ばした。森田さんはそれを見て、「汚れた方も残しておけ」と言った。で決めた説文は、かった。
《この仕事で暮らしています。が起こした被害について、責任を問うことと、私たちがも働くことは、別々に考えてほしい。》
僕は字ずつ写し、本たちに読んでもらった。
「俺の名はさんでいい」
「わかりました」
「でも、俺が言った言葉だとはいてくれ」
写真を使う条件は、いたに残した。妙子さんが署名し、森田さんがし遅れて判を押した。
倉庫では展示の準備がんでいた。写真の裏に説文を貼り、番号を振る。写真館の親方は、印画を乾かす網まで持ってきた。恵子は展示の順番を何度も入れ替えた。
最初はの写真、その次に港、次にの暮らしを置くつもりだった。しかし、その並べ方では、から始まっての活で終わる話に見える。の責任を最に忘れさせるようにも、暮らしの写真をただの背景にするようにも見えた。
「順番でが変わるんだね」
恵子が言った。
僕たちは展示をつの所に分けた。《起きたこと》《続いていること》《私たちが選んだこと》。どこから見てもよいように、通を広く取った。
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その晩、で父と向かいった。
卓には母が作った根の煮物があった。父は作業を脱ぎ、料袋を箪笥のに置いた。僕はい切って聞いた。
「父さんの料袋、撮ってもいい?」
箸が止まった。
「何に使う」
「展示。の仕事で暮らしているがいることを……」
「それを見せて、何になる」
「で働くが、みんな同じ考えじゃないってわかる」
父はく僕を見た。
「おは、俺が何を考えてるかってるのか」
僕は答えられなかった。
僕が学だった頃、父は夜勤から帰ると、靴を玄関ので脱いでいた。母は作業を別に洗い、僕は父が持ち帰る属の匂いを、族の匂いだとっていた。を批判する言葉を聞くと、最初は父まで否定された気がした。今は違う。けれど、その違いを父へうまく伝える言葉は、まだ見つからなかった。
父は料袋を裏返した。そこには僕のの授業料の振込控えが挟まっていた。
「このでおは勉してる。だからといって、の責任が消えるわけじゃない。それくらいは俺にもわかる」
「じゃあ……」
「わかっていても、の仕事へくんだ。誰かが辞めたら、そののに米が届くのか」
母が湯呑みをつ置いた。
「父さんの話を撮りたいなら、父さんが話すまで待ちなさい。料袋はの顔の代わりじゃないよ」
僕はカメラをしまった。
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翌朝、父は勤にさなを置いていった。
《展示を見にく。俺の話をするかどうかは、そのあと決める。》
そのを見て、僕は倉庫の入に子をつした。写真を見て何か言いたくなるがいたら、座って話せるように。
ところが展示の、さんが枚のきな写真を持ち込んだ。
の煙突のに、漁がさく写っていた。僕の写真だった。印画には《豊かさの代償》と太い文字が入っていた。
「見しを付けた方が伝わるとって」
僕は写真を見た。僕が撮ったとき、にはが乗っていた。を使っていたの暮らしを、僕はまだ聞いていない。
「この言葉は、誰が決めたんですか」
「僕だけど……」
「じゃあ、してください」
さんは苦い顔をした。それでも、文字の入った印画を持ち帰った。
僕は、写真を撮った自分にさえ、説を独り占めする権利はないのだとった。
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