"シャッターを切らなかった日" 第14話
ネガの持ち主
の終わり、さんが写真館へ箱をつ持ってきた。
には古い写真が枚ほど入っていた。戦の、漁にるの男たち、子どもを背負って魚を売る女性。端が折れ、裏に鉛で名をいたものもある。
「これを展示に使えるかね」
親方は写真を枚ずつ持ちげ、に透かした。
「複写ならできます。ただ、写っているに話を聞けますか」
「くなったもいる。どこのかわからんもいるよ」
僕たちは黙った。
今までの決まりは、写っているに見せて決めてもらうことだった。けれど、昔の写真には、もう聞けないがいる。写真を残すことと、勝に使わないことは、どこで折りうのだろう。
さんは枚の写真を選んだ。若い頃の自分が魚箱の横にっている。隣には、顔の半分がになった女性が写っていた。
写真の裏には、くなった鉛の線が残っていた。名のようにも、の番号のようにも見える。僕が読みげようとすると、親方が止めた。「見える字と、そう見える字は違う」。拡してみても、はっきりしなかった。僕はノートに《判読能》といた。古いものを扱うときほど、わかったふりをしたくなる。その誘惑を、親方はよくっていた。
親方は写真の端にあるの号を指した。「これがわかれば、いつ頃の写真か調べられるかもしれん」
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と言った。さんは、当のの所をに描いた。僕らは写真の持ち主だけでなく、そこに写る町の記憶も確かめることにした。ただし、わかったことと推測したことは、別々に記す。昔の写真ほど、その区別が事だった。
「このの名を、どうしてもいせない」
「じゃあ、展示しない方がいいですか」
「それも寂しいね。名を忘れたままにしたくないから持ってきたんだよ」
恵子は写真を複写し、まず倉庫のさな集まりでだけ見せようと提案した。きな記事や配布物には使わず、っているがいたら教えてもらう。名がわかっても、本や族の事を確かめるまでは公表しない。
「写真をす所を分ければいいのか」
僕はノートにいた。
その夜、写真館の親方が古い台帳を持ってきた。誰の結婚写真を何枚焼いたか、どのの記写真を預かったか。几帳面な字が並んでいる。
「昔は、ネガはで保管するものだとってた。追加で焼くがいるからな」
親方は台帳を閉じた。
「でも、にあるからって、何にでも使っていいわけじゃない。客がくなったあとなんか、なおさら難しい」
僕は棚に並んだネガの袋を見た。これまで僕は、撮者が持っているものが写真のすべてだとっていた。実際には、枚の写真に何ものいが入っている。
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袋の所者だけでは、使い方を決めきれない。
数、さんの写真をさな集まりで見せると、魚で働いていた老が声をげた。
「この、うちの姉さんじゃなかろうか」
しかし、よく見ると装も髪形も違う。別のが「このには、そのはもう町をていた」と言った。結局、名はわからなかった。
さんはがっかりするどころか、写真をじっと見ていた。
「わからんままでも、ここにいたがいたってことは残るね」
僕たちは写真の裏に《氏名未確認。昭初期のと推定。提供者の記憶による》とき、確認できないことをそのまま残した。
「無理に答えを作らんでいい」
さんはそう言った。
その、僕は自分のネガにも、撮と所だけでなく、誰の解で何に使えるかをき始めた。空欄のい台帳だった。けれど、空欄を像で埋めるより、その方がずっと正確だった。
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