"シャッターを切らなかった日" 第18話
判決の
昭48320。
熊本方裁判所で、俣病をめぐる訴訟の判決が言い渡された。
その、僕は写真館のラジオのにいた。親方と母、それから倉庫の展示に関わったたちが、入れ替わりち替わりらせを待っていた。熊本へったからの話も、なかなかつながらなかった。
原告側の勝訴が伝わると、誰かがきく息を吐いた。
そのらせを聞いたとき、僕は最初、皆が斉にぶのだとっていた。だが、さんは「裁判を起こせなかったはどうなる」とつぶやき、母は「今夜の弁当は、何までに届ければいい」と話に答えていた。裁判の結果はきな歩だった。それでも、認定を求め続けるや、々の暮らしに追われるのまで、度に変えるものではなかった。
「よかった」
その声のあと、しばらく誰も話さなかった。
僕はカメラをにしていた。ぶ顔を撮ろうとえば撮れた。いを経てた判決は、確かにきな来事だった。けれど、ここにいるたちの顔は、同じび方をしていなかった。
母は台所へ戻り、弁当の蓋を閉め始めた。親方はラジオの音量をしげた。さんは子に座ったまま、何度も「そうか」とつぶやいた。
昼過ぎ、熊本から帰ってきた志津さんが倉庫へ寄った。
そのに、僕は倉庫の机へ湯みを並べていた。
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勝ったというらせを聞いて、みんなで集まるだろうとったからだ。けれど、誰を迎え、何を言えばいいのかはわからなかった。祝うもいれば、まだ自分のことを話す気になれないもいる。僕は写真の準備より先に、座れる所と温かいお茶を用することにした。
彼女は入で靴を脱ごうとして、そこでしゃがみ込んだ。肩がさく震えていた。僕はカメラを持ちげた。夕方のが斜めに差し、入の板と志津さんの背が、ひどく鮮に見えた。
これほどい写真は、今まで撮ったことがない。
版社が求めたのは、きっとこういう枚だった。
僕の指はシャッターボタンに触れた。
けれど、押さなかった。
僕はカメラをろし、しれたところに置いた。さんが志津さんの隣へき、背にを当てた。はしばらくそのままでいた。
やがて志津さんが顔をげた。
「判決がても、の朝は来るんだね」
さんがうなずいた。
「来るよ。ご飯も炊かにゃならん」
志津さんは涙を拭き、笑うとも泣くともつかない顔になった。
僕は何も言わなかった。
夕方、志津さんの方から僕に声を掛けた。
「さっき、撮らなかったね」
「はい」
「撮ってほしいもある。でも、あのときは、誰にも見られたくなかった」
僕はうなずいた。
「ありがとう。じゃあ、は撮ってくれる?」
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「何をですか」
「集まりのたちにお茶をすの。判決の話をするも、これからのことを考えるも来る。私たちはも話しわなきゃいけないから」
翌、僕は倉庫へった。志津さんはやかんをに掛け、机を拭き、子を並べていた。僕は何を撮るか尋ね、彼女がうなずいたところでカメラを構えた。
そのの写真には、泣いている顔は写っていない。けれど、判決がたあとにも続く仕事が、たしかに写っていた。
現像したベタ焼きを志津さんに見せると、彼女はやかんを持った写真ではなく、子を並べる写真を選んだ。「これは、次に来るの席を作っているところだから」と言った。僕はその説を写真の裏へいた。もし僕がで選んでいたら、湯気のつやかんを選んでいたかもしれない。同じを撮っても、残したい瞬は違うのだ。
僕は、昨撮らなかった写真のことを、悔しなかった。
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