みかん小説
本棚

"死んだ母を名乗る女" 第1話

の埃と気な問いかけ

旬、吹き抜けるにはまだのたさが鋭く残っていた。 私――浅沼美咲(あさぬま・みさき・歳)は、品フランチャイズチェーンを全国展する運営会社で、商品発兼舗スーパーバイザーとして忙な々を送っている。 決算期の繁忙をどうにか乗り切った私は、休暇を組みわせた連休を利用して、郊にある実の片付けに訪れていた。

築を超える造階建ての軒。 扉を押しけ、玄関の鍵穴に差し込んだシリンダーキーを回すと、い属音が静寂を破った。 靴を脱いで廊にを踏み入れた途端、という歳が沈殿させた、カビと乾いた埃の匂いが腔を突く。 父がくに界した、私と兄の斗(かいと・歳)を女つで育てげてくれた母・志保子(しほこ)が、悪性腫瘍でこの世をってから丸が経とうとしていた。

「よし……今から、徹底に片付けるわよ」 ゴム袋をはめ、マスクを装着した私は、を満たす苦しい空気を追い払うように、階のリビングとの戸を次々とけ放った。障子を引いた瞬、陽に照らされた埃の粒子が、部の奥でのようにキラキラといがる。 掃きし窓をけて庭の空気を胸いっぱいに吸い込もうとした――まさにその刹だった。

広告

「……あれ? ごめんください」

垣の向こうから、若い男の瞭な声が響いた。 驚いて線を向けると、赤い配達用バイクを脇に止め、ヘルメットを脱いだ郵便配達員の青が、玄関先のアプローチを歩いてくるところだった。 紺の制にを包み、には数通の郵便物を揃えた束を持っている。

私は窓から庭へ回り込み、軽く会釈をした。 「あ、はい。お疲れ様です」 「浅沼志保子様のお宅でよろしかったでしょうか?」 「ええ、志保子は私の母です。私は娘の美咲と申します」

私が郵便物を受け取ろうとを差しした、配達員の青――胸元の名札には『池田義親(いけだ・よしちか)』と記されていた――は、元の郵便物を渡そうとせず、怪訝そうに首を傾げた。 その線は私の背、暗い玄関の奥へと向けられている。

「今はお母様、姿が見えませんね。どこかおかけですか?」

何気ない、常の世話のようなトーンだった。 しかし、その言が私の鼓に触れた瞬、背筋にツッと氷柱を突きてられたような悪寒がった。

「……え? 何を仰っているんですか?」 私は乾いた笑みを浮かべ、青の顔を見つめ返した。 「母は、にくなりましたが」

「……は?」 池田と名乗る配達員は、冗談を言われたとでもったのか、目を丸くしてち尽くした。 そして、私の真剣な差しに気圧されるように、眉を寄せてさく呟いたのだ。

「……? そんなはずは……だって、先もここで……」

「先、何ですか?」 私の声が、自然と鋭く張り詰めた。 「母がくなったのは事実です。病で、私と兄が最期を取りました。先ここで誰に会ったというんですか!?」

見らぬ配達員の男と、放置されていたはずのき母の。 の柔らかな差しの、私の常の元が、音をてて崩れ落ちていくような気な違が、静かにち込め始めていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: