"昭和62年、国鉄最後の日に駅弁を一つ売らなかった理由" 第9話
台所の境界線
に入ると、駅の鶏めしとの昼弁当が同じ台所に並ぶようになった。
最初のはどうにかなった。だが注文が個になった週、午半に問題が起きた。
「澄さん、卵焼きの所がないよ」
フミさんが言った。駅の弁当用に切った卵焼きが、用の野菜の容器に押され、作業台の端まで寄っていた。
「ちょっと待って。今、そっちを詰めるから」
「待ったら駅の分が遅れる」
美さんも困っていた。種類の掛が混ざり、どちらをどの箱に巻くのか分からなくなったのだ。
私はを止めた。
「全部、いったん置こう」
朝の忙しいにを止めるのは怖かった。それでも続ければ、違った弁当を届ける。
作業台を拭き、駅用と用の所を分けた。赤い紐を本、棚から棚へ張った。そこを越えて容器を置かない。詰める順番もにいた。
「台所に国境ができたね」
フミさんが言い、美さんが笑った。
「越境したら罰ですよ」
そのの弁当は、どちらもにった。しかし私は昼に保健所へ相談の話を入れた。配達先が増えるなら、現の営業内容や設備で問題がないか、確認しておきたかった。
担当者は施設の状態や販売方法によって必な確認が違うので、まず現を見せてほしいと言った。私は台所の寸法と設備をきした。
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「こんな期に余計なことを増やして」
良治はぼやいた。
「あとで問題になったら、もっと困るでしょう」
「そうだけどな」
数、担当者が来た。洗いの所、蔵設備、調理と包装の線、配送の管理について、つずつ質問された。今すぐ営業をやめろと言われたわけではない。だが、今の注文量を考えるなら改善したほうがよい点がいくつも見つかった。
特に困ったのは、用の弁当を置く蔵庫の余裕がないことだった。
私は設備に頼み、台所の隅に置けるきさを測ってもらった。しい蔵庫を入れると、今度はがすれ違う幅がりない。置きっぱなしだったの棚を移せば通れるが、棚には義父の代から使ってきた具が入っている。
「捨てるのか」
良治は棚を撫でた。
「使うものは残す。でも、何も使ってない鍋は別の所へ」
で棚をけると、古い計量や欠けた皿がてきた。良治はつずつ取りげ、いを話し始めた。私は急がせずに聞いた。そのあとで、使えるもの、修理するもの、しまっておくものに分けた。
棚をかすと、壁に昔の釘穴が残っていた。を始めたころのままだった。
「ここ、こんなに広かったんだね」
私が言うと、良治は笑った。
「広くなったんじゃない。物が減ったんだ」
を続けるために、捨てなければならないものもある。
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私は棚のあった所に、の線を引いた。
「蔵庫を台増やすなら、気事もる」
良治が見積もりを見て言った。
「おがかかるね」
「駅がなくなるのに、今さら設備を買うのか」
私は答えた。
「駅がなくなるから、必なの」
誠は配送用の箱を会社から借りられることになった。だがそれだけで解決するわけではない。へ届けるを誰にするか、駅の販売を続けるはどう分けるか。良治の腰に毎往復を任せるのは無理だった。
「俺が朝だけ伝うよ」
誠が言った。
「会社へ遅れるでしょう」
「始業のなら丈夫。あとは配達のを雇うか考えよう」
私はすぐには頷かなかった。息子の好を、いつのにか無の仕事にしてしまうのが怖かったからだ。
「伝うなら、とおを決めよう」
「親子なのに?」
「親子だからよ」
誠は笑ったが、私は真面目だった。
夜、美さんが枚のを持ってきた。娘の保育園に提する就労予定の確認だった。
「からの欄、まだ空いてるんです」
私はを受け取った。
「来週まで待ってくれる? うちの仕事をどうするか、もう度みんなで決めたい」
美さんはさく頷いた。
そのには、駅の図面よりずっとい空があった。
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