"昭和62年、国鉄最後の日に駅弁を一つ売らなかった理由" 第18話
の配達
、午。
私はいつものように台所へ入った。違ったのは、駅へ運ぶ箱がないことだった。
聞にはしい鉄会社の発を伝える記事が載っていた。テレビでは駅の板が取り替えられる様子が流れている。けれど、うちの台所では、米を研ぐ音が変わらず響いていた。
「今は個、役個、夕方は予約が個」
美さんが注文表を読みげた。
「駅の分は?」
フミさんが冗談めかして聞いた。
「ゼロです」
私は答えた。
言葉にすると胸が痛んだが、数字をごまかすわけにはいかなかった。
今はへ届ける鶏そぼろを種類に分けた。野菜のいものと、いつものもの。注文票にをつけ、箱にも同じの札を掛ける。の失敗を繰り返さないためだ。
午半、美さんの娘がをしたと保育園から話が来た。美さんは申し訳なさそうに受話器を持ってきた。
「迎えにってもいいですか」
「もちろん。今は私が包装する」
「でも、最初のなのに」
「娘さんのは、今が最初でも最でもないでしょう」
美さんは何度もをげて帰っていった。
私は台所へ戻り、作業を分け直した。フミさんが調理を終え、良治が運搬箱を準備する。私は包装と伝票を担当する。ところが、午分に役から話が入った。
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「会議が延期になったので、今の個は取り消せますか」
私は瞬、言葉を失った。もう個分の材料を用している。
「すみません。までにお願いしているので、今はお引き取りいただけませんか」
担当者は困った声をしたが、結局、予定どおり受け取ってくれることになった。
受話器を置くと、がし震えていた。
「言えたね」
フミさんが言った。
「嫌われたかもしれない」
「決まりを守ってもらうのは、嫌われることじゃないよ」
午、良治がの鍵を探し始めた。
「ないぞ。いつもの棚に置いたはずなのに」
私は慌てて台所を探した。鍵は運搬箱のにあった。昨夜、駅の片付けから戻って置いたのを、誰も覚えていなかった。
「こんなに」
良治が額を押さえた。
「こんなだからよ。昨までと違うことばかりしてる」
発が分遅れた。踏切へ向かうは、駅のしい案内板を見に来たでし混んでいた。私は窓のを見ないようにしていたが、信号待ちでどうしても目に入った。
国鉄の文字は消え、別の文字が駅の正面に掲げられている。
私は息を吸った。
「良治さん、次の角をに曲がって」
「いつものじゃないのか」
「踏切を避けられる。誠が昨、教えてくれた」
私たちは駅の裏を回り、へ向かった。
分。ので井さんが待っていた。
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「今はいわね」
「しいを覚えたんです」
「それはいいことね」
箱をけると、注文どおりの弁当が並んでいた。井さんは伝票と数を照らし、つ頷いた。
「じゃあ、来週もお願いするわ」
その言で、私の肩から力が抜けた。
午、役の個も受け取ってもらえた。夕方の残業班には、誠が会社帰りに寄って箱を運ぶのを伝った。全員が疲れていたが、約束したは守れた。
売は駅のころよりなかった。それでも、今は売れ残りがなかった。配達にかかったも記録できた。誰かが休んだとき、何を減らせばいいかも分かった。
夜、私は帳面に《》といた。
その横に《駅 零個》とき、次のに《駅の 個》といた。
「個?」
良治が数え直した。
「、役、夕方。そう、個」
「駅で売ってたころよりないな」
「うん。でも、今の個は、私たちがくと決めた所で売れたの」
私は帳面を閉じた。
しい会社が始まった、私たちのも、まだ名のない別のとして始まった。
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