みかん小説
本棚

"大正、子守奉公の少女" 第4話

分の値段

「、ここで辛抱してくれ。はに渡ることになっている」

兄はの塀に背を向けてそう言った。払いの奉公賃がいくらなのか、私にはよく分からなかった。数字を聞いても、というさと結びつけて考えられなかったからだ。

ただ、父が傷んだ根を見げてため息をつく姿や、母が米びつの底を指でさらっていた朝が浮かんだ。私がここにいれば、あので何かが助かるのだろう。

「私が病気になったら、どうするの」

自分でもなほどはっきりした声がた。兄は瞬、言葉を探すような顔をした。「そのときは相談する。だけど、なるべく体を壊すな」。相談する相は誰なのか、私は聞かなかった。

子どもの私にも、いったん受け取ったを返すのは容易でないと分かったからだ。

そのから私は、がてもなるべく黙っていた。のひらがく、目の奥が痛む朝にも、背へ子どもを乗せた。昼過ぎ、っていられなくなって縁側に腰をろすと、雇い主の奥さんが額に触れた。「ずいぶんいね。今は寝ていなさい」。

その言葉に堵した途端、私は泣きそうになった。休んでよいと言われることが、こんなに嬉しいとはらなかった。

しかし翌朝には、また子どもを背負った。ではが休めば別の誰かがその分を働き、でも同じことが起きた。

広告

私が子守りをしなければ、子どもの母親が仕事を休まねばならない。

働けなければ、そのにもが入らない。私の体がさくても、私が抜けた穴はさくないのだった。

兄は々、からのらせを持ってきた。末の弟がをしたこと、畑の来が悪かったこと、父が隣へ伝いにたこと。どれも私のの届かない話だった。私は度だけ「おっかあは元気か」と尋ねた。

兄は「おのことを気にしている」と答え、それから言いにくそうに続けた。「でも帰ってこいとは言えんのだ」。

私はその言葉を責めなかった。責めれば兄が困ることも、母が困ることも分かっていた。だが夜になると、ふと考えた。もし私がの途で帰りたいと言ったら、は受け取ったをどうするのだろう。

母は私を抱きしめてくれるだろうか。それとも、もうし辛抱してくれと言うだろうか。答えは聞かないままにした。

が終わりにづくころ、子どもたちはすっかりきくなった。の子は自分で靴を履けるようになり、の子は私の背からりてりたがった。ある、を連れてののを通ると、兄がこちらへ歩いてきた。

私はいつものように笑おうとしたが、兄のには見慣れない封筒があった。

「京で女を探しているがある。おの働きぶりを聞いて、話をくれたそうだ」

広告

兄が封筒を持ってきた、私はのの奥さんに、が終わったら何をすればよいのか尋ねてみた。奥さんは「おはもう子守りだけじゃない。洗濯も掃除もできるだろう」と言った。

私はいつのにか覚えた仕事を数えた。子どもの着物を洗い、汚れたを拭き、鍋をからろす。から教わるたび、できることが増えていった。

けれど、仕事が増えても私のき先は自分で決められない。私は勇気をして兄に「京へったら、をしてもいい?」と聞いた。兄は驚いた顔をしてから「もちろんだ。宛名は俺がいてやる」と言った。

私はそれを聞いてししたが、京へくというのに、自分ではの宛名さえけないことが急に恥ずかしくなった。

京という言葉を聞いた途端、械の音がくなった。私はまれたとこののほかに、まともに暮らした所がなかった。の約束が終われば実に帰れるのだと、のどこかでっていた。ところが兄の封筒には、私の次のき先は、もう決まっていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: