"大正、子守奉公の少女" 第19話
嫁にきます
「嫁にくことになりました。お暇をいただきたいのです」
からた言葉に、私自が驚いた。本当は嫁にくのではない。旅順へ戻るつもりだった。女主は私の顔を見て、「それなら仕方がないね」と言った。私はをげながら、胸が苦しくなった。
正直に話しても聞いてもらえなかったことが、嘘をついた途端に認められたのだ。
嘘をつくのは嫌だった。私はこれまで、分からないことを分かったふりして失敗し、言いたいことをみ込んで悔してきた。旅順で文字を覚えたのも、自分の言葉で確かめたいとったからだった。
それなのに最に選んだのが嘘だったことを、私はく忘れなかった。けれど、ここに残ると決めたら、また誰かの都でが過ぎていくような気がした。
発までの、私はいつもより丁寧に仕事をした。任のが困らないように、台所の具の所をにき、子どもたちの好き嫌いを伝えた。字が違っていないか、何度も読み返した。女主は「嫁入りにそんなに働かなくても」と言ったが、私は笑って答えなかった。
自分の言葉で辞められなかったことへの、せめてもの償いだった。
の切符をにすると、旅順で過ごした々が急にくなった。学へ通う男の子、いアカシアの、ペチカの温かさ、針を持つ奥様の。
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もう度あのへけば、すべてが以のままというわけではないだろう。
子どもたちは成し、敷のも変わっているかもしれない。それでも、私はそこへ向かうことを選んだ。
神戸の港では、に乗ったと同じように汽笛が鳴った。私は荷物を抱え、乗の列に並んだ。今度は酔いを恐れるより、着いたあとに何をするかを考えていた。しい奉公先の条件はで確かめてある。料も、む所も、仕事内容も、以より詳しく尋ねた。
自分の働くについて質問することを、私はようやく覚えたのだ。
旅順へ戻ると、の景には懐かしいところとらないところがあった。以よく通ったを歩くと、の板が変わっていた。私はち止まって文字を読み、ひとりでさく笑った。初めて来たときには、板を読めずに男の子をごまかした。
今はらないでも、何を売っているのか自分で確かめられる。
しいでも、私は子どもの世話との仕事を任された。の決まりは違ったが、もう慌てなかった。まず尋ね、覚え、できないことはできないと言う。く働いてにつけた際は、今度のでも役にった。
の女が困っているときには、私がかつて教わったように具の使い方を見せた。
旅順で再び働き始めてから、私はの女に、自分が歳で奉公にた話をした。
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娘は驚いて「そんなにさいときからですか」と尋ねた。私は頷き、度の飯だけで赤ん坊を背負っていたことを話した。
娘はしばらく黙り、それから「今は、自分のしたいことを考えていますか」と聞いた。私はすぐに答えられなかった。
その夜、私は帳面をいて、これから覚えたいことをきした。字をもっと読みたい。針仕事を達させたい。故郷のを訪ねたい。そして、いつか自分の台所を持ちたい。願いをいてみると、どれもそれたことではなかった。
けれど歳のころの私には、願いを並べる余さえなかったのだ。私は最のにさく丸をつけた。
ある、その娘が「どうしてそんなにいろいろっているんですか」と尋ねた。私はし考えてから、「をたくさん替わったからだよ」と答えた。苦労したと言いたかったわけではない。
が変わるたびに覚え直したことが、今は誰かを助ける恵になっている。それを初めて、誇らしくえた。
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