"貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた" 第12話
父からの話
宗郎が最初にを切ったのは、結婚活の条件などではなく、にも私の現の仕事についてだった。
「今は、具体にどういった械を設計しているのかね?」
「の自化ラインで使用される、産業用ロボットの先端ハンド部や、マテリアルハンドリングの周辺ユニットを設計しています」
「の神代と、領域としてはいな」
「技術な根幹は同じですが、今の会社の方が圧倒にユーザーの現にいです。実際に械を操作する現のオペレーターの方々と膝を突きわせながら、ミリ単位の改良をねています」
「……面いかね?」
私は迷わず、破顔して答えた。
「ええ、信じられないくらい面いです」
宗郎はく頷いた。
「そうか。それなら何よりだ」
そこからは、まるで熟練の技術者同士の対話のようなが流れた。
限られた発予算のでいかに耐久性を担保したか、図面では完璧に見える設計が現の過酷な環境でどう裏切られるか、サプライチェーンの混乱をどう乗り切ったか。
宗郎の質問は確を極めており、問答をねるごとに、私のから余計な緊張が消えっていった。
「やはり君は、現と技術の話をしているが番いい目をしているな」
宗郎が満そうに笑った。
「のあのけない顔とは、まるで別だ」
広告
希が横から吹きす。
「本当ですよお父さん。あのの優馬、顔が気で今にも倒れそうだったんですから」
真子さんも楽しそうに笑い声をげた。
私は照れくさそうにを掻くしかなかった。
「完全に自業自得です……」
やがて話題は、神グループのコーポレートガバナンス改革へと移った。
私は父とので交わしている議論について、社取締役の導入に漕ぎ着けた成果だけでなく、親族役員たちとので今なお々しい衝突が続いている現実まで、包み隠さず話した。
「征司さんが、よく社取締役の受け入れを認めたものだな」
宗郎がしたように呟いた。
「説得に丸ヶかかりました。最は根比べでしたね」
「あの男は昔から頑固で名だからな。業界の会でも、度言いしたらテコでも引かない男だった」
「会は……私の父をごじだったのですか?」
「同じ製造業界の鎮だ、顔をわせる会はいくらでもあったよ。……君が数に会社をびしたの噂も、私のに入っていた」
父が周囲に何を語っていたのか、わず息を呑んだ。
「父は……何と言っていたのですか?」
「『若い頃はのたい飯をって苦労してくればいい。どうせ泣きついて戻ってくる』とがっていたよ」
いかにも父らしい弁に、私はわず苦笑した。
「残ながら、戻る気はありませんが」
広告
「っている。そして、征司さんが今なお臍を曲げていることもな」
座が気に笑いに包まれた。
ひとしきり笑いった、宗郎は背筋を正し、真摯な差しで私を見つめた。
「優馬君。君につだけ、謝らなければならないことがある」
「えっ……? 会が、ですか?」
「、私は君に対して『空っぽの誰でもない男だ』と酷く言い放った」
忘れられるはずのない、あのの鉄槌だった。
「あれは、私の言葉が過ぎた。撤回して詫びたい」
宗郎は々とをげた。私が慌てて止めようとするのをで制し、言葉を続けた。
「君は空っぽなどではなかった。ただ、自分のにするつのルーツを、どう統してきていけばいいのか分からず、もがいていただけだったのだな」
胸の奥が、いもので満たされていく。
「神のにまれた自分を認めれば、父親の軍にったような敗を覚える。元にある資産を認めれば、純粋な技術者としての誇りが汚れるような気がしてしまう。……だがね、というのはつの記号や肩きだけで成りっているものではないのだよ」
宗郎はおしそうに希を見つめた。
「この希も、川の娘であると同に、自らの力で社会をきるの女性だ。そして私も、川グループの会であるに、娘の幸せを願う器用な父親に過ぎん」
みのある言葉が、私の臓腑に染み渡っていく。
「背負ったものをすべて捨てらなければ自由になれないのではない。背負ったものから目を背けず、それを引き受けたで、自分の志で使いこなせるようになって初めて、は本当の自を果たすのだ。……今の君は、派にそれを成し遂げているよ」
宗郎は最に、希へと向き直った。
「希。おの気持ちを聞かせてくれ。……この男で、本当にいいのだな?」
希は私を振り返り、柔らかく微笑んだ。
なら、その瞬の彼女の表を疑暗鬼で見つめていただろう。
だが今、私のには微の揺らぎもなかった。
「はい。私は、このと緒にきていきたいです」
川への度目の訪問から週が経った平の昼がり。
職のデスクで設計図面をチェックしていた私のスマートフォンが、激しく振した。
画面に表示された着信元の名に、私は息を呑んだ。
【神征司】。
父から直接話がかかってくるなど、会社を辞めて以来、初めてのことだった。
私は席をち、にオフィスのの非常階段へと向かった。
「……もしもし」
『今、話せるか』
嫌そうに押し殺した、聞き慣れた父の声だった。
「昼休みだから丈夫だけど。急にどうしたの?」
『お……川の娘さんと結婚するそうだな』
臓がねがった。
「なっ……どこでそれを聞いたんだよ!?」
『川宗郎さん本から、直々に俺の携帯に話があったんだよ』
非常階段の踊りで、わず声をげそうになった。
「はあ!? 宗郎さんが父さんに……!?」
『向こうにとっても、娘の事だからな。親同士が度も話を通さないわけにはいかんだろうが』
父の声は相変わらず苦虫を噛み潰したようだったが、どこか興奮を隠しきれない様子だった。
「な……何の話をしたんだよ」
『おの悪に決まっているだろう』
「絶対に嘘だろ」
受話器の向こうで、父がさくを鳴らした気配がした。
『の……例の産ラインの会議の話を蒸し返されたよ』
「あの会議の……?」
『川の会ともあろうお方が、よくまああんな昔の件を細かく覚えていたものだ。「あの、お宅の息子さんに現の全を教えられました」と、わざわざ嫌のように言われたよ』
「嫌なわけないだろ……」
父はしばらくの、沈黙を守っていた。
階段の隙から吹き込むたいの音だけが、受話器越しに響く。
やがて、父がぽつりと呟いた。
『……あのな』
「うん」
『俺はおを、役員連の、徹底に鳴りつけただろう』
「ああ、ぬほど叱られたよ。顧客に恥をかかせる気かってね」
『……だがな。本当は、内しだけ誇らしかったんだ』
を疑った。
「……え?」
『聞こえなかったのか。度は言わんぞ』
「いや……そんなこと、今まで言も……」
『親が息子ので言えるわけがないだろうが』
腹がつような、それでいて胸の奥がく震えるような、奇妙ながこみげてきた。
『会社の目先の利益や顔よりも、製品の全と技術者としての誇りを優先した。……若きの俺なら、同じように机を叩いていただろうとったよ』
「だったら、あんなに鳴り散らさなくてもよかったじゃないか」
『あのにはあのの、経営者としてのというものがあったんだ。……まあ、それがおを追い詰めたのだとしたら、徳の致すところだがな』
かつては絶対に己の非を認めなかった男が、器用ながらも歩み寄ろうとしている。
『宗郎さんから言われたよ。「優馬君は神グループを継がないかもしれんが、技術者としても、の男としても、決して悪い男ではない」とな』
「……そう」
『それから、「娘を泣かせるような真似をしたら、川グループの総力を挙げて神を叩き潰す」とも脅されたがな』
「それは……ごもっともだね」
『神のが川に鳴り込まれるなど恥晒しもいいところだ。絶対に泣かせるんじゃないぞ』
「父さん」
私は呼吸をし、静かに呼びかけた。
『何だ』
「会社を継がないという結論は、今も変わらないよ」
受話器の向こうが静まり返る。
「でも、神のルーツから逃げ回るつもりも、もうない。父さんが元気なうちに、株主として、次の世代へ健全にバトンを渡せる企業体制を緒に作っていこう」
父はさく息を吐いた。
『……余計なお世話だ。俺はまだあとは現役でやれる』
「なんだから、無理言わないでよ」
『気なを利くな。……来週の株主報告会、おも顔をせ』
「分かった。くよ」
『ただし、何でもかんでも反対するなよ』
「父さんこそ、ごなしに却しないでくれよな」
ツーツーツー……。
気よい音をてて通話が切れた。
画面を見つめながら、私は非常階段の踊りで、声をして笑った。
父と私の関係は、世般の絵に描いたような仲良し親子には永になれないかもしれない。
これからも顔をわせるたびに眉をひそめ、激論を交わすことになるのだろう。
だが、それでいいのだ。
切なのは、見が違うからと背を向けて逃げすのではなく、格好でもぶつかりい、対話をね続けることなのだから。
ポケットからスマートフォンを取りし、希へメッセージを送った。
『宗郎さん、うちの親父に話してくれたみたいだね』
すぐに、既読がついて返信が届いた。
『うん、さっきお父さんから聞いた! 「神の親父も相変わらず頑固だが、いい酒の肴になった」って笑ってたよ(笑)』
続けて、もう通。
『お父さんたち、と気がっちゃったらどうしようね?』
私はわず吹きした。
『今夜、帰ったら話するよ』
『うん、待ってるね!』
の私なら、その何気ない「待ってるね」
の言葉の裏にすら、疑暗鬼の罠を探していただろう。
だが、今はもう違う。
相を試すための嘘も、自分を偽るための粗末なスーツも、もう私のには必なかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
倒産寸前の事務所が雇った、子連れ清掃員の正体
倒産寸前の「桐生デザイン事務所」に、五歳の娘を連れた清掃員志望の女性・高瀬さち子が現れた。履歴書には、東大大学院修了、一級建築士、大手設計事務所の元チーフという驚くべき経歴。しかし彼女は、二度と設計の仕事には戻らないと言い張る。娘の何気ない一言をきっかけに、事務所に小さな転機が訪れるが、さち子は図面に触れることさえ恐れていた。彼女が三年前に失ったものとは何なのか。そして、過去の事故に隠された真実とは。再起をかけた小さな事務所の逆転劇が始まる。職場逆転|人生逆転|第二の人生1.6万字5 46 -
完結第20話
60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求
突然の心臓病で緊急手術を受け、生死の境をさまよった美桜。六十日間の入院中、夫も義母も義妹も一度として見舞いに来なかった。届くのは、義母への月六百万円の送金を催促する連絡ばかり。家族だと信じて尽くしてきた美桜は、ついに夫との決別を決意する。しかし剛田家の人々は、美桜の本当の素性も、自分たちの会社や豪邸が誰によって支えられているのかも知らなかった。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|金銭問題2.4万字5 23 -
完結第15話
50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿
昭和63年、教師になることを夢見ていた19歳の藤崎千春は、父が受け取った50万円の結納金と引き換えに、東北の山村へ嫁がされる。進学を諦め、過酷な農作業に追われる毎日。ところが、段ボールの底に隠していた受験参考書を義母に見つけられた日、千春の運命は思いがけない方向へ動き始める。夫と義父母の支えで夢を取り戻した千春は、6年後、教師となって実家へ帰る。しかし庭先で目にしたのは、かつて自分の進学を許さなかった父の、信じられない姿だった。第二の人生|親子関係|金銭問題2.4万字5 436 -
完結第20話
朝八時までのヒーロー弁当
工場の門前で40年間、社員たちに弁当を作り続けてきた正夫としず子。ところが、新しい社員食堂の開設を機に、部長から突然取引を打ち切られてしまう。売れ残る弁当、痛む膝、減り続ける売上。店を閉める覚悟をした二人だったが、ある日、古くからの常連が昼食の注文にやって来る。それをきっかけに、店先には再び社員たちの姿が増え始めた。一方、工場では思いがけない問題が起ころうとしていた。感動|真実|裡の顔|金銭問題4.5万字5 322 -
完結第17話
忘れたコートが教えてくれたこと
結婚式まであと3週間。高橋ゆいは婚約者・博人の実家に忘れたコートを取りに戻り、衝撃的な会話を耳にする。食卓に広げられていたのは、祖母から相続した自分のマンションを、博人の実家が営む会社の追加担保にする計画書だった。しかも本人への説明は「婚姻後1週間」の予定。14人の従業員を守るためだと訴える婚約者の母と、すべてを知りながら黙っていた博人。人生逆転|裡切られた|夫婦|真相|修羅場2.0万字5 413 -
完結第22話
「祖母が危篤」と10万円を求めた夫の大嘘
双子を出産してわずか3週間。看護師の雪乃は、夫の幸一から「祖母が危篤だから10万円ほしい」と頼まれる。ところが本人に電話すると、83歳の松江は畑仕事の真っ最中。「またあの子は私を死にかけにしたのかい」と呆れた声を上げた。夫の嘘をきっかけに、雪乃は生活費の口座から多額の貯金が消えていることに気づく。祖父母と孫|夫婦|第二の人生2.8万字5 635 -
完結第15話
3年眠った財閥社長を叩き起こした3歳の道士
3年間、意識不明のまま眠り続けていた財閥総帥・陸晏蕭。医師たちが命を諦めかけた瞬間、病室に飛び込んできたのは、峨眉山で修行した3歳の天才道士・沈兮兮だった。少女の強烈な平手打ちで奇跡的に目覚めた晏蕭は、彼女が自分の娘だと知って愕然とする。しかし兮兮は「パパなんていらない!」と完全拒絶。占いや不思議な術で周囲を驚かせる少女に、冷徹だった父親も少しずつ心を動かされていく。やがて3年前の事故に隠された陰謀と、少女が山を下りた本当の理由が浮かび上がり……。人生逆転|祖父母と孫2.1万字5 288