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"60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求" 第1話

集治療で目を覚ました

「……目覚めましたか? 野様、私の声が聞こえますか?」

識の底に澱のように沈んでいた私のを打ったのは、定のリズムを刻むモニターの子音と、呼吸器が空気を送り込むかすかな駆音だった。

ゆっくりとまぶたを押しげる。界を埋め尽くしたのは、無質な純の井と、輪郭をぼやけさせる蛍灯の暴力なだった。

胸の央に、焼け箸を突きてられたような激痛がる。

呼吸をつ吸い込むごとに、縦にく切り裂かれ、鋼線と糸で縫された胸骨がきしみ、全の毛穴からや汗が噴きした。喉の奥には気管挿管チューブを抜管された直特の異物と激しい渇きが張り付いており、指本をかすことすら途方もない労力をした。

ここは、青葉総病院の集治療(ICU)だ。

れゆく記憶の糸を繰り寄せる。か、私は港区麻布の自宅斎で、突如として胸を握りつぶされるような激痛と息苦しさに襲われ、へ倒れ込んだ。

界が暗転する、うようにしてスマートフォンを操作し、救急を呼んだ。そして、夫の剛田達也(ごうだ・たつや・歳)へ、震える指で極めて簡潔なメッセージを送信したのだ。

『臓の術を受けます。緊急搬送先は青葉総病院です。

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着替えと入院続きをお願いします』

そこから先の識は途絶え、いの底へと滑落していった。

医師の事説によれば、病名は致率のい急性筋炎および症原性ショック。

搬送にはすでに止寸であり、夜に及ぶ緊急胸術がわれ、肺装置(PCPS)が装着されて、週以もの、の境をさまよっていたという。私の腕には何本もの点滴チューブが繋がれ、細くなった腕の皮膚は青く透けていた。

巡回に来たベテランの護師が、私の識が戻ったことに気づき、堵の表を浮かべながら顔を覗き込んできた。

「本当によかった……。野さん、よく持ちこたえられましたね。臓のきもしずつ定してきていますよ」

私はかすかに頷き、声にならない乾いた呼気で、線だけで周囲の空を彷徨わせた。

無菌のベッドサイド。ステンレスのワゴン、医療器、点滴スタンド。

――誰もいない。

「あの……ご族には、術の直から病院の相談員が何度も連絡を入れているのですが……」

護師は言いにくそうに線を泳がせ、気まずさに耐えかねるように声を潜めた。

「その……どなたもいらっしゃらなくて。入院誓約への署名も、着替えやタオルの差し入れも、何つ届いていない状態なんです。お話でも『忙しいから病院側で適当に処理してくれ』と仰るばかりで……」

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胸の奥で、筋炎の鈍痛とはまったく質の異なる、絶対零度の気が広がっていった。

夫の達也も、同居している義母の数(かずえ・歳)も、義妹の真由美(まゆみ・歳)も、誰として来なかった。

私が胸を切りかれ、肺に命を委ねて命の灯が消えかけていた、この族の誰として、私の病の扉を押そうとはしなかったのだ。

「……携帯、見られますか? ナースステーションで源を入れたままお預かりしていました」

護師が気を利かせて、サイドテーブルの引きしから私の私物のスマートフォンを取りし、震える私のに握らせてくれた。

画面を点灯させると、眩しいが瞳を射る。

着信――ゼロ件。

達也からも、義母からも、義妹からも、私の否を案じる通は本たりとも残されていなかった。

震える指で、メッセージアプリのアイコンをタップした。

夫の達也からの未読メッセージが数件、画面に表示されている。

(もしかしたら……仕事の都でどうしても来られず、メッセージで私の体を案じてくれているのではないか)

線を越えたばかりの私のに、愚かにもそんな微かな温のがよぎった。

だが、画面をいた刹、そこに並んでいた文字列を目にした瞬、私の全の血液は滴残らず凍りついた。

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