みかん小説
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"倒産寸前の事務所が雇った、子連れ清掃員の正体" 第4話

沈黙を破る本の線

翌朝、さち子はいつも通りのに現れた。

「おはようございます。昨は……取り乱して申し訳ありませんでした」

「いいえ。俺の方こそ、無理を言ってすみませんでした」

俺は努めて普段通りに接したが、作業台のには、昨のカフェの図面と、削りたてのBの鉛を本、無言で置いておいた。

午、さち子は黙々と窓拭きをこなしていた。しかし、その線が何度も、作業台の図面へと吸い寄せられているのを俺は見逃さなかった。彼女の指先が、掃除用具を握りながらも、無識に空で何かを測るようにさくいている。

午、俺は席をち、図面のにった。

「瀬さん。清掃のをしだけ止めて、ここに来てもらえませんか」

さち子が躊躇いながら歩み寄ってくる。

「あなたに設計の全責任を負わせるつもりはありません。ただ……このカフェを利用する親子のために、あなたの目線が必なんです。この図面を、このままクライアントにしたら、子供が迷子になって親がになるができてしまう。それを見過ごすのが、プロの仕事ですか」

さち子の呼吸が乱れた。彼女は作業台に置かれた鉛を見つめ、それから自分のを見つめた。

指先が刻みに震えている。

やがて、吸い寄せられるように、彼女のが伸びた。震える指が鉛を包み込む。

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トン、と芯がトレーシングペーパーに触れた瞬、さち子の瞳から迷いが消え失せた。

「……什器の位置を、壁側にセンチ退させます」

スッと、迷いのない本の直線が引かれた。

「入りからの界を斜めに抜くことで、エントランスに入った瞬に奥のソファー席まで親子の線が通ります。そして、厨からの配膳線は、客席の央を通さず、カウンターの裏に専用のバイパスを設けます」

シュッ、シュッ、と気よい音をてて、黒い線が図面のに踊る。

「これで客席が席減りますが、スタッフの歩距が割縮され、回転率はむしろ向します。通幅は百センチを確保。これなら、ベビーカー同士がすれ違うことも能ですし、子の方もそのままテラス席へ抜けられます」

わずか分。

俺が晩を抱えていたレイアウトの欠陥が、魔法のように鮮やかに解きほぐされていった。無駄のない寸法体系、構造力学に基づいた柱の処理、建築基準法の避難線を完璧にクリアした避難経。

これが、学院で空設計を極めたの実力なのか。俺は鳥肌がつのを抑えきれなかった。

だが、最の寸法線をき入れた瞬、カランと乾いた音をてて鉛が机のに転がり落ちた。

「瀬さん?」

さち子は自らのを見つめ、青ざめた顔で激しく肩をさせていた。

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その瞳には、粒の涙が溜まっていた。

「……ごめんなさい。やっぱり、私には資格がありません」

「何を言ってるんですか! 素らしい修正です! これなら胸を張ってプレゼンにせます!」

「駄目なんです……! 私が線を引くと……誰かが幸になるんです……!」

さち子はを抱え、そのに崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

「瀬さん、体過に何があったんですか。あなたがそこまで自分を責める理由は何なんですか」

俺が問いかけると、さち子は震える声で、ぽつりぽつりと自らの封印された過を語り始めた。

「……私がチーフとして担当した、郊の型複商業施設のプロジェクトがありました。オープンから半……吹き抜けに設置された空歩のガラスすりの支持具が破断し、ガラスパネルが階の広に落する事故が起きたんです」

俺は息を呑んだ。業界を震撼させた、あの痛ましい事故。幸いにも朝の点検で傷者はなかったが、歩違えれば惨事になっていた構造欠陥事故だった。

「社内調査委員会がした結論は……私の設計図面における構造度の計算ミスでした。会社は私のミスとして処理し、私は業界から追放されました。……私が描いた図面が、を殺しかけたんです。そんなが、度と設計をしていいはずがないんです……!」

絶望に震えるさち子の告。

しかし、その告の裏には、彼女自もまだらない、あまりにも巨な「組織の」が隠されていた。

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