"倒産寸前の事務所が雇った、子連れ清掃員の正体" 第8話
巨コンペの挑戦状
翌週、桐デザイン事務所の空気は変していた。
さち子の自宅から回収された付けハードディスクは、専の解析によって見事に復元された。そこには、の落事故が起きる週、さち子が正規の特注ステンレスボルトを指定して送信した最終承認図面と、その直に佐伯が独断で請け務へ送った「仕様変更指示」の子メールのログが、タイムスタンプ付きで完璧に残されていた。
「これですべて揃いましたね」
図面を力しながら、さち子が言った。その表からは、かつて面接に来たの怯えは完全に消えっていた。
「ああ。国交省への内部通報続きは、弁護士を通じてめている。佐伯たちが隠蔽作を完させるに、監査官の抜き打ちち入りを入れさせる筈だ」
だが、復讐それ自体が俺たちの目ではなかった。過の正を暴くだけでは、失われたは戻らない。俺たちが真に求めていたのは、クリエイターとして、建築士として、再び堂々と社会の真んにち、々にされる空を創りすことだった。
そんな矢先、本の公募報が事務所にい込んだ。
『都ウォーターフロント・歴史赤レンガ倉庫 規模複商業施設全面リニューアル プロポーザル公ペ』
敷面積万平米。
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老朽化したベイサイドの倉庫を、子供から齢者、子利用者までが体となって楽しめる、次世代型コミュニティモールへとまれ変わらせる、総事業費数億円の超巨プロジェクトだった。
公募領の参加資格欄を見た俺は、わず苦笑いを浮かべた。
「参加資格……級建築士事務所登録、過における同規模施設の基本設計実績、もしくは国際デザイン賞の受賞歴。……うち単体じゃ、類審査すら通りませんね」
「いいえ、通ります」
さち子が静かに、しかし確信に満ちた声で言った。彼女が机のに置いたのは、真しい額縁に収められた枚の証だった。
『級建築士事務所登録通 管理建築士:瀬さち子』
「昨、都庁で続きを済ませてきました。そして、私の過の『本建築空デザイン賞』の受賞歴と、桐さんの受賞歴を算し、共同企業体(JV)として申請すれば、払いはされません」
「瀬さん……本気ですか? 相は全国規模のスーパーゼネコンや、設計事務所ばかりですよ。そのには、違いなく佐伯が率いる帝都総都発もいる」
「本気です。あんな連に、このの未来を任せるわけにはいきません。利益と見栄のために部材を削り、利用者の全をの次に考えるような建築に、が集まる所を作る資格なんてない」
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さち子の力い差しに、俺の胸の奥で眠っていた闘志が爆発した。
「よし……やろう! 零細のを見せてやる!」
そのから、事務所は夜と化した。
昼はさち子と美咲、そして俺ので、何度も現へとを運んだ。が吹き抜ける古い赤レンガの並み。ひび割れたアスファルトのを、ベビーカーを押す母親が通り、杖をついた老が段差にを取られそうになり、子の青が回りを余儀なくされていた。
「桐さん、見てください」
現調査の途、美咲が広い倉庫の広の真んでち止まり、そうにあたりを見回した。
「ママ、ここ、まいごになっちゃうよ」
俺とさち子は顔を見わせた。
「の目線からは見通しのいいオープンフロアに見えても、子供の目線では周囲の腰壁や案内板の柱が迷のようにちはだかっているんだ」
俺はしゃがみ込み、美咲と同じさから広を見渡した。
「案内サインを文字だけで壁に貼ってもがない。の舗装パターンそのものを彩とテクスチャーで分けし、歩くだけで自然と目へ導かれる環境サイングラフィックを構築する」
「素らしいです」さち子が図面にスケッチをらせる。「それなら、覚障害者の方の誘導ブロックとも調させられます。さらに、赤レンガの構造壁を活かしたスロープの勾配を通常基準の分のから、より緩やかな分のまで落としましょう。
子の方でも自力で楽に登れるように」
俺がブランディングとサイン、ファサードの彩計画を練りげ、さち子がミリ単位の線設計と構造力学を緻密に組みげる。美咲が模型を覗き込み、「ここならママが見える!」と笑えば、その空の全性は確信へと変わった。
提期限の夜。完成した巨なプレゼンボードと、精巧に作り込まれた縮尺分のの建築模型が、製図台のに堂々と鎮座していた。
壁の赤レンガの温もりと、へと抜ける放なガラスの空。どこにいても族の気配をじられ、誰として排除されない、優しさと美しさが極限まで調したマスターピース。
「……できたな」
「はい。私たちの、最の仕事です」
徹夜の疲労など吹きんでいた。俺たちは互いの顔を見て、声をげて笑った。
だが、この、俺たちはまだらなかった。
翌の公プレゼンテーションので、あの佐伯が、像を絶する卑劣な罠を仕掛けて待ち構えていることを——。
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