みかん小説
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"昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年" 第6話

最初の箱

を始めるまでには、像していたよりも遥かにくの細々とした準備が必だった。

所の具から買い取った枠のガラスケースを、雑巾で何度も拭きし、乾いた聞で磨きげて曇りを取った。

奥の壁には、さんに頼んで段の棚板を渡してもらい、専売公社から配される煙のカートンをきれいに並べられるようにした。

釣銭を入れるための製の引きしを用し、円玉、円玉、円玉が混ざらないよう、菓子箱ので仕切りを作った。

壁には、公社から指定された定価表を歪みのないように糊でしっかりと貼り付けた。

板も必だった。

町の板の親父さんに頼むと、「未がやるなら、くからでも目つようにドカンとでっかくいてやるよ」と笑われた。

「いいえ、くから無理に見えなくて結構です。通りを歩くの目に、ふっと留まるくらいのきさでお願いします」

そうして仕がってきたのが、塗りの杉板に、朱にい赤ペンキで「たばこ」とだけかれた、素朴な板だった。

学から帰ってきた勇は、軒先に掲げられたその板を見げて、満そうにを鳴らした。

「なんかさ、母ちゃんのってじがするね」

「どんなじだい、それ」

「分かんないけど……優しそうなじ」

子どもなりのその見てが嬉しくて、私は勇のをくしゃくしゃと撫でた。

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そして迎えた、のの朝。

記すべき最初のお客さんは、あの自転の運送さんだった。

「ピース、つ!」

震える指先で渡した、紺にの鳩が描かれた箱。

渡し台のに置かれた、あのチャリンという貨の澄んだ響き。

男のがった、私は引きしのの貨を、何度も、何度も指先で確かめた。

そのも、通りをき交う々が、真しい窓に気づいてを止めてくれた。

の朝礼へ急ぐ員さん。

駅へとをめる背広姿の会社員。

所の隠居所から散歩にてきたお爺さん。

「ハイライトは、まだ置いてないのかい?」

「申し訳ありません、あのしい銘柄は、うちのような米のにはまだ配が回ってこないんですよ」

「そうかい、じゃあいつものピースをもらおうか」

「ありがとうございます!」

最初の数は、銘柄を言われるたびに棚ので線を泳がせた。

どこに「」を置き、どこに「いこい」を並べたのか、のが真っになってしまうのだ。

けれど、週も番を続けていると、体の方が勝に所を覚えていった。

「ピース」と言われれば、線をかさずにを段の奥へ伸ばす。

「しんせい」と言われれば段の。

受け取った幣はのい引きしへ、銭はの元へ。

釣銭を渡すときは、必ず掌をに向けて、客の目ので枚ずつ声をしながら数えて渡す。

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商売のいろはを、私はさな窓のカウンター越しに、つひとつ体に叩き込んでいった。

には、気く値切ろうとしてくる客もいた。

「ねえ母さん、景気づけに円くらい負けてくれたってバチは当たらないだろう?」

「ごめんなさいね。煙の値段は国が決めている公定価格ですから、私ので円でも引いたら、それこそ専売法違反でお巡りさんにられちゃいますよ」

「なんだい、堅いこと言っちゃってさ」

そう憎まれを叩きながらも、客は笑って定額を台のに置いていく。

そんな丁々発止のやり取りすらも、暗い部で無言で針をかしていた頃の孤独に比べれば、泣きたいほど温かく、楽しかった。

煙の売れきがし落ち着いた頃、公社からの勧めで郵便切と葉の取り扱いも始めた。

のの肩には、真っ赤な円柱型の郵便ポストが設置された。

さらに数ヶには、鮮やかな赤の公衆話が、の軒先にちょこんと据え付けられた。

それからは、煙を吸わない所の々も、ひっきりなしに窓のへち寄るようになった。

「円切を枚おくれ。息子に便りをくんだよ」

「はい、いつもありがとうございます」

「話、円玉でかけられるかい?」

「どうぞどうぞ、受話器をげてからおを入れてくださいね」

「母さん、このを真っ直ぐくと、踏切にられるかい?」

「ええ、つ目の角をに曲がるとですよ」

のるには、傘を持たない勤め帰りのが、のい軒で宿りをしていった。

私は朝のから夕方のまで、窓の内側の丸子に腰をろし、通りを眺め続けた。

内職をしていた頃と同じ「座り仕事」だったが、体の芯に残る疲労の質はまるで違っていた。

誰かが窓を叩く。

顔をげ、い挨拶を交わす。

品物を渡し、笑顔を見送る。

さな角い窓枠の向こうに、この町のきた呼吸が、パノラマのように広がっていた。

夕暮れ、学を終えた勇が、勢いよくの角を曲がってってくる。

「母ちゃん、ただいま!」

「お帰り。今もかったね」

勇はランドセルをに放りすと、窓のすぐ脇に置いたさな箱のに、当たりのように腰をろした。

そこに頃な板を渡してやると、いつのにかそこが勇の特等席の勉机になっていた。

「母ちゃん、この算数の問題が分かんない」

「どれどれ……今、お客さんがいらしたから、ちょっと待っておくれ」

夫を戦争で奪われたあの、私のの計は完全に止まってしまったとっていた。

けれど今、私はしい窓の向こうで、確かに息を吹き返していた。

これなら――このさな角い窓さえあれば、私と息子は、でしっかりときていける。

夕暮れの灯がぽっと灯る、私は勇の丸まった背を見つめながら、静かにそう確信していた。

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