"昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年" 第13話
孫の目のさ
私の孫――勇の息子である健太が、初めてでのげげ窓をけたのは、学にがる直の休みのことだった。
「ばあちゃん、僕がこれ、ガラガラってけてあげようか?」
さな胸を張り、踏み台のに爪先ちになって申しる孫の姿に、私は目を細めた。
「ゆっくり持ちげるんだよ。指を挟まないようにね」
「うーん……たいっ!」
さな両で枠をから押しげようとするが、季の入った杉の窓枠は、子どもの力ではびくともしない。
私がろからそっとを添え、で息をわせて持ちげると、カタンと気よい音が響いて、朝の眩いがのに差し込んできた。
健太は窓枠に両肘をつき、通りを眺めろした。
歳になったばかりの背丈では、カウンターの渡し台から、ちょうど目からの部分がひょっこりとへるくらいだった。
「わあ……がく見えるよ」
「健太がまださいからだよ」
「ばあちゃん、ここでずっとタバコ売ってたの?」
「そうだよ、ずーっと昔からね」
「何くらい?」
「何かねえ……ずいぶんいことだよ」
「何? ちゃんと教えてよ!」
子どもというものは、曖昧な誤魔化しを決して許してくれない。
「そうだねえ……もう以になるかねえ」
「よんじゅうねん……?」
健太はぽかんとをけ、指を本折って見つめたが、全く実が湧かないといったに首を傾げた。
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それも無理のないことだった。
平成まれのこの子にとって、という歳は、恐竜の代と同じくらい遥かな過のおとぎ話に過ぎないのだ。
「健太のパパもね、昔は今の健太と同じくらいの背丈で、そこの箱のに座って毎のように算数の宿題をしてたんだよ」
「えっ!? パパが!?」
「そうさ。引き算がどうしても分からなくてねえ、泣きべそをかいて母ちゃんを困らせたもんさ」
「うっそだー! パパ、いっつも僕に『勉しろ、宿題やれ』って偉そうに威張ってるのに!」
健太はを叩いて笑いした。
その夜、居で夕餉のビールをんでいた勇にその話を告げると、勇は真っ赤になってを掻いた。
「おいおい母さん、息子に変な余計なこと吹き込まないでくれよな」
「事実なんだから仕方ないじゃないか」
族代の笑い声が、古い茶のの梁によく響き渡った。
けれど、休みが終わり、京のがへとが引き揚げていくと、のは潮が引いたようにシンと静まり返った。
私は、販売窓の肘掛け子にく腰をろし、誰も通らない午の通りをぼんやりと見つめた。
かつては、幼い勇がここにいた。
夫を失ったしみに浸る暇すらないほど、々の暮らしに追われ、息子の飯を炊き、学費を稼ぐことだけに必だった々。
気づけば息子は派なになり、庭を持ち、今度はその息子が、かつての父親と全く同じ目のさでこの窓からを覗き込んでいる。
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私は、本当にい、この所でち止まり、町を見つめ続けてきたのだ。
その厳然たる事実が、夕暮れの静寂ので、じわりと胸の奥底に染み渡っていった。
あるの夕方、用事のついでにち寄った勇が、のシャッターの錆びた具を見つめながら、い詰めたようない声で切りしてきた。
「……母さん。もう、を畳んでもいいんじゃないかい?」
私は聞こえないふりをして、ガラスケースのの埃を布巾で拭き続けた。
「母さん」
「聞こえてるよ」
「もうだろ。毎朝に起きて窓をけて、座ってるだけでも腰にこたえるはずだ。仕入れの伝票の計算だって変だろうし……そろそろ肩の荷をろして、京のうちで同居しないかい?」
「まだ、体はちゃんとくよ」
「でも、もし番の最に倒れでもしたらどうするんだよ」
「何かあったら、所のお医者さんへ連絡する筈になってるから丈夫さ」
勇はそれ以、無理に言葉をねようとはしなかった。
私の頑固な性格を、誰よりも熟していたからだ。
私だって、馬鹿ではない。
いつまでも永にこの窓をけ続けられるはずがないことくらい、痛いほど理解していた。
けれど――このさな枠の窓を完全に閉ざしてしまったら、私のからのは、体どこへ向かって息を吸えばいいのだろう。
朝起きて、顔を洗い、窓を押しげる。
カタンと音がして、が入ってくる。
その変わらぬ儀式を失ってしまったら、私は自分が自分であるための輪郭を、瞬で見失ってしまうような気がして恐ろしかったのだ。
私はこの町の真んで、代の主役としてきてきたわけではない。
通りから本入ったの片隅の、さな角い窓枠のから、変わりゆく町の歴史と、通り過ぎていく無数の々のを、ただ静かに見つめ続けてきただけだ。
だからこそ――その窓を自らので閉ざすという決断を、私はまだ、すことができずにいた。
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