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"昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年" 第14話

目の

をいてからちょうどを迎える節目のがづいた頃、私の体は、嘘をつけない限界のサインをし始めていた。

どこか特定の所が激しく痛むわけではない。

ただ、朝番に敷布団から起きがるまでに、途方もないがかかるようになっていた。

膝の関節は油の切れた滑のように軋み、ガラスケースの奥の煙を取ろうとして、指先に力が入らずに箱をへ落としてしまうことが度々あった。

ある曜の昼がり、で様子を見に来た勇が、に散らばったピースの箱を黙って拾い集めながら、静かに言った。

「母さん。……もう、いいんじゃないかい」

いつもなら「まだやれるよ」と即座に突っぱねていたはずだった。

けれどその、私のからこぼれたのは、自分でも驚くほど穏やかな溜息だった。

「……そうだねえ。そろそろ潮かもしれないねえ」

勇の方が目を丸くして、驚きに固まっていた。

「えっ……本当に? 絶対に『ぬまでやめない』って言い張るとってたのに」

「何だい、その聞きの悪い言いは。私だってね、今でになるんだよ。、引き際を違えちゃあ見苦しいからね」

声にして言ってみると、議なほどのが澄み渡っていくのが分かった。

歳で始めた、たったの煙。

歳。

。

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数字にしてしまえば、半世紀という気のくなるような歳だ。

けれど、私自の胸のに残っているのは、そんな袈裟な歴史のみではなかった。

朝起きて、窓をける。

お客さんに「おはようございます」と煙を渡す。

昼餉にさなおにぎりをべる。

勇が学から元気に帰ってくる。

夜、帳面にそのの売をき留める。

そして翌朝、また同じように窓をける。

ただそれだけの、名もなき平平凡凡なを、分、飽きもせずに丁寧に積みねてきただけのことだったのだ。

その夜、私は押し入れの奥くから、をいた昭の最初の売帳を引っ張りしてきた。

表はすっかり飴に変し、の端は擦り切れていた。

頁をめくると、歳の私の、若々しく几帳面な跡が目にび込んできた。

『 ピース箱 円』。

最初のお客さんだった、あの運送の若い衆に売った、たった箱の記録。

円の狂いもすまいと、震えるで何度も検算した跡が残されていた。

頁をさらにめくっていく。

勇のの入学を面したの記録。

ハイライトが発売されて、売の数字がねがったの記録。

敷に自販売を据え付けたの記録。

きな事件など何ひとつかれていない。ただの付と、銘柄と、数字の羅列。

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けれど――その数字と数字の隙を埋め尽くしているのは、紛れもなく、私と勇がこの町で必にき抜いてきた、の血と汗の歴史そのものだった。

「もう……分だね」

誰もいない夜の茶ので、私は声にして呟いた。

議なことに、涙は滴もこぼれなかった。

しみも、悔しさも、未練すらもなかった。

あるのはただ、いいマラソンを最までり切ったのような、静かで清々しい達成だけだった。

翌朝、私はいつものように窓をけ、最初に来てくれた常連客のお爺さんに告げた。

「お爺さん。うちね、今いっぱいでを畳むことにしましたよ」

「……えっ!?」

お爺さんは煙をくわえようとしたをピタリと止め、目を黒させた。

「な、なんでだい! まだ元気じゃないか!」

「今でちょうどなんですよ。私もになりましたし、息子の勧めもありましてね」

「そんな……困るよ! ここが閉まっちまったら、俺は毎朝どこへけばいいんだい!」

「表の自販があるじゃないですか」

「だから! 何も言ってるだろ、械と気の愚痴は言いえないんだって!」

何もと全く同じ文句をにするお爺さんの姿がおかしくて、私は声をてて笑ってしまった。

その報せは、に乗るようにして、あっというに町へと広まっていった。

「母さん、本当にやめちゃうのかい?」

「い、本当にご苦労様だったねえ」

通りかかるが、次々と窓にち寄っては、惜しむような言葉をかけてくれた。

私はそのたびに、

「ありがとうございます。、あっというでしたよ」

と笑顔でをげた。

けれど、胸の奥底では、ふと自問自答していた。

本当に、あっというだったのだろうか――。

。

かったはずの半世紀の歳が、いま振り返ってみれば、あの昭のの朝、初めて窓を押しげた瞬ののに、すべてすっぽりと収まってしまうような気がしていた。

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