"昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年" 第15話
最の週
閉までの最の週は、驚くほど穏やかに、そしていつも通りの朝のとともに始まった。
私は何か特別な演をしようとはほどもわなかった。
「のご顧謝」などという袈裟な貼りもしなければ、庫処分の売り札もさない。
ただ、のあのと同じように、定刻の半に静かに窓を押しげ、同じように客を迎え入れたかったのだ。
けれど――普段通りでいられなかったのは、私ではなく、町の客たちの方だった。
「母さん、これ、つまらないものだけど」
昼がり、所の主婦が、さな呂敷包みを窓から差し入れてくれた。けてみると、老舗の級なカステラが入っていた。
「い、本当にありがとうね。うちの子が鍵を失くした、ここで話を貸して預かってくれたこと、忘れないよ」
「そんな昔のことを……お気遣いいただいて、かえって申し訳ありませんよ」
別のには、輪の百と薔薇の束を抱えてやってきた常連客がいた。
「たばこのカウンターに束なんて飾ったら、煙の匂いと混ざって似わないよ」
私が苦笑いすると、その男は涙ぐみながら言った。
「最なんだから、派に飾ってくれよ。俺が代で就職してこの町に来てから、毎朝母さんの顔を見て勤するのが、どれだけ励みになったか分からないんだから」
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かつて学の頃、膝を血だらけにして泣きながら駆け込んできたあの女の子も、今や代になり、派な母親となって籠を携えて訪ねてきてくれた。
「母さん、覚えてます? 私、ここで赤チン塗ってもらったんですよ」
「覚えてるも何も、あんなお転婆な泣き虫、忘れようがないじゃないかい」
「もう、ひどいなあ!」
で顔を見わせて笑いった。
私は忘れてしまっていたさな来事を、町の誰かが、の切ないとして胸のに温め続けてくれていた。
商売とは、ただ物をからへかすことではない。
ととが交わした温かな体温の記憶を、町の壌のに編み込んでいくことなのだと、私は最の々ので教えられた。
勇もまた、京の仕事をやりくりして、何度も実へと顔をした。
「母さん、片付けを伝うよ」
「まだいいよ、最のが終わるまでは、品物をかさないでおくれ」
「最終くらい、俺が仕事を休んで伝いに来るからさ」
「休むなんて勿体無いことしなくていいよ。ただの煙が閉まるだけなんだから」
「休むって言ったら休むの。昔は母ちゃんが何でも決めてたけど、これからは俺の言うこともしは聞きなよ」
頼もしくなった息子の横顔に、私は苦笑いしながら頷くしかなかった。
最のの夜、私は誰もいなくなったので、ガラスケースを丁寧に拭き清めた。
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何万回、何万回と拭き続けてきた、古びた枠のガラス板。
表面には、客の指先や貨が擦れてできた、無数の細かな傷が刻まれていた。
若い頃なら「みすぼらしい」と気にしたかもしれないその傷跡が、今夜の私には、半世紀をき抜いてきたおしい皮膚の皺のようにじられた。
壁に貼られた定価表を見げる。
ピース、円から始まった歴史。
ハイライト、セブンスター、マイルドセブン……代の移ろいとともに現れ、消えていった無数の銘柄たち。
けれど、どんなに銘柄が変わり、パッケージが変わり、値段がねがろうとも――この窓枠の向こうに広がる、ととの触れいの温もりだけは、何つ変わることはなかった。
夜の。
最ののシャッターをろした、私はすぐに奥の茶のへは戻らなかった。
かりを落とした暗いの、いつもの肘掛け子にく腰をろし、静まり返った枠の窓を見つめた。
のの夜。
夫を失い、く当てを失い、泣きながらこの部の畳のに座り込んでいた、あの歳のの私。
あのの私は、の飯をどうやって面するか、それだけしか見えていなかった。
このさなが、もの、私と息子を守り育ててくれるなどとは、にもっていなかった。
私は閉ざされた窓枠の肌に、そっと掌を押し当てた。
「……よく、ここまで頑張ったね」
誰に向けた言葉だったのか、自分でも分からなかった。
戦の果てに逝ってしまった夫へ。
真っ直ぐに育ってくれた息子へ。
そして――泣き寝入りすることなく、をすすりながらこの窓をけ続けてきた、若きの自分自へ。
そのすべてを抱きしめるように、私は静かに目を閉じた。
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