みかん小説
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"昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年" 第16話

最の箱

平成の。

目の最終の朝も、私は寸分の狂いもなく、半ちょうどに窓を押しげた。

ひとつない、どこまでも突き抜けるような青空。

、震えるで初めてこの窓をけたあのの朝と、まったく同じ匂いのする爽やかなが吹き抜けていった。

ガラリと枠を持ちげると、通りの向こうから、キィと甲いブレーキの音が響いた。

台の古い自転が、ゆっくりとのに滑り込んでくる。

乗っていたのは、すっかり腰の曲がった、髪染めもしていないのお爺さんだった。

私はその顔を見た瞬、わず目を見張った。

のあの朝、の番最初に来て、震える私のからピースを箱買ってくれた、あの運送の若い衆だった男だった。

「……おはようございます」

私が声をかけると、お爺さんは照れくさそうに片をげた。

「ああ、おはよう。……ピース、つ」

半世紀と、寸分違わぬ言だった。

私は胸がいっぱいになり、溢れそうになる涙をこらえて、精杯の笑顔を作った。

「最初のも……それでしたね」

「ん? そうだったかい?」

「忘れちゃったんですか? の、今と同じの朝ですよ」

「あっはっは! のことなんざ、綺麗さっぱり忘れちまったよ。俺ももう、を過ぎちまったからな」

「私は……昨のことのように覚えてますよ」

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「そりゃあ、をけた当だからさ」

私はガラスケースの棚から、ピースの箱をひとつ取りした。

紺のに、オリーブをくわえた黄の鳩。

匠はわずかに洗練されていたけれど、と同じ、気品のあるその箱を、私は両で切に渡し台のへ置いた。

お爺さんはポケットから貨を取りし、チャリンと音をてて置いた。

いつもならそのまま煙をポケットにねじ込んでペダルを漕ぎすはずの男が、その朝は、子を脱いで胸に当て、静かに佇んでいた。

「今で、本当に最なんだってな」

「はい。今でじまいです」

「……かったなあ」

「かったです」

「から、ここを通っても母さんがいないとうと……たまらなく寂しくなるよ」

「表の自販で買ってくださいな」

「馬鹿野郎、おまでそんなたいことを言うもんじゃないよ」

で、声をわせて笑った。

お爺さんは煙を着の内ポケットに切そうに収めると、背筋をすっと伸ばし、私の目を真っ直ぐに見据えて言った。

「母さん。……、毎朝本当にありがとうな」

私は言葉を詰まらせ、ただく、くをげた。

「こちらこそ……もの、本当に、ありがとうございました」

お爺さんはそれ以何も言わず、再び子を目にかぶり、ペダルを力く踏み込んでりっていった。

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の朝のように猛烈な勢いではなかったけれど、その曲がった背には、この町で激の昭をき抜いてきた男の誇りが、確かに満ちあふれていた。

あの、最初の箱を買ってくれたが、の最のに、同じ銘柄を買ってをげてくれた。

その奇跡のような巡りわせだけで、私の半世紀の労苦のすべてが、報われたような気がした。

昼過ぎになると、噂を聞きつけた町の々が、入れ代わりち代わり窓へと押し寄せてきた。

「母さん、これ記に箱もらうよ!」

「最だから、ハイライトをカートンでちょうだい!」

「から寂しくなるねえ、体に気をつけてきしてよ!」

午を回る頃、通りの向こうに息子の勇のが止まった。

休暇を取って駆けつけてくれた勇が、助席からりてきて、窓から顔を覗かせた。

「母さん、まだやってるのかい? もう商品はほとんど空っぽだろう、く閉めて片付けようよ」

「駄目だよ。閉は夕方の半って、ずっと決まってるんだから」

「まったく……最の最まで頑固なんだから」

勇は呆れながらも、嬉しそうに目を細めて笑った。

そして、分の町のサイレンが、夕暮れの空にく鳴り響いた。

最のお客さんが笑顔でを振ってっていき、通りのが途絶えた。

売を引きしからし、空っぽになった棚を見届ける。

私は仕事帳の最のに、本の売を几帳面な文字でき留めた。

そのに、の赤線を引いた。

横で静かに待っていた勇が、優しく声をかけてきた。

「母さん。……閉めるよ」

「うん」

私はちがり、両を窓の枠にかけた。

、毎朝押しげ、毎夕押しげてきた、あの杉の枠。

ゆっくりと、慈しむように、両腕の力を抜いてろしていく。

カタン。

静まり返ったのに、のあのと全く同じ、乾いた澄んだ音が響き渡った。

私の、の商売が、いま静かに幕をろした瞬だった。

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