"受話器の向こうの春" 第3話
交換台の洗礼と、先輩のあたたかい
神戸話局の交換の扉をけた瞬、ハルはその気と音の洪に息を呑みました。
「カチャカチャ、カチリ」という属のぶつかりう音。
「はい、神戸局です」「お待たせいたしました」「〇〇番ですね」
何もの若い女性たちがずらりと並び、休むもなく声を張りげています。
壁面には、井くまで無数の穴が並んだ巨な交換台がそびえっていました。
そのに座ると、目のの景に目が回りそうになります。
にいヘッドセットを装着すると、元に直接、のざわめきが流れ込んできました。
ハルの隣に座ったのは、つの先輩の子さんでした。
子さんは際よく作業をしながら、ハルにさく笑いかけてくれました。
ピピッ、と目ののさなランプがく点灯しました。
話がかかってきた図です。
ハルは臓をねさせながら、元のコードを取り、プラグを穴に差し込みました。
「お待たせいたしました、神戸局です」
訓練通りに言えたはずでした。
けれど、受話器から返ってきたのは、ひどく急きてるような男性の鳴り声でした。
『おい! 遅いぞ! 湊川の番や! はよせえ!』
「は、はい! 湊川の番ですね!」
のが真っになりました。
番の穴はどこだったか。
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覚えたはずの配置が、焦れば焦るほどいせません。
指先が震え、プラグが隣の穴にカチカチと当たって空滑りします。
そのとき、隣からすっとが伸びてきました。
子先輩が、ハルの震える首をそっと包み込んでくれたのです。
そして、迷うことなく正しい穴へとプラグを導いてくれました。
カチリ、とよい音がして、呼びし音が鳴り始めました。
通話がつながったのを確認すると、子先輩がハルの肩を優しくポンと叩きました。
「元を見たらあかんよ、ハルちゃん」
先輩の声は、とても穏やかでした。
「番号はで聞いて、のに図を描くの。
はね、勝にくようになるまで体で覚えるんや。
目は次のランプを探しとかんと追いつかへんよ」
「す、すみません……焦ってしもて……」
「ええのよ、最初はみんなそうやから」
そう言って微笑んだ子先輩の横顔は、とても頼もしく見えました。
けれど、現は甘くありませんでした。
通話が始まって数秒もすれば、別のランプがすぐに点滅します。
息をつく暇もありません。
つなぐ穴を違えて、見ずらずの同士をつないでしまう失敗もありました。
『ちょっと! どこにつないどるんや! 事な商談やぞ!』
「申し訳ございません! すぐにおつなぎ直します!」
何度もをげながらコードを差し替えるハルの目には、涙が滲みました。
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夜勤のときには、酔っ払いからからかわれることもありました。
『おい、ねえちゃん。ええ声しとるな』
悔しさに唇を噛み締めるハルに、子先輩は更で温かいお茶を淹れてくれました。
「つらかったね。でもね、顔が見えへんからこそ、こっちの気持ちが声だけでぜんぶ伝わってしまうんよ」
子先輩は自分の元を指差し、にっこりと笑ってみせました。
「声はね、笑ってないと相にたく届いてしまうの。
受話器を取るに回だけ息を吸って、元をきゅっとげてごらん。
そしたら、議と相のりも静まるもんやから」
ハルはその言葉を、胸の真んにしっかりと刻み込みました。
翌からは、どれほど鳴られても、受話器を取る瞬に元をげるようにしました。
すると、何か経ったのことです。
病院へ危篤のらせをつなぐ、ひどく取り乱した女性からの話が入りました。
ハルは落ち着いた声で、あたたかく受け止めました。
「すぐにおつなぎいたします。どうぞ、そのままお待ちくださいね」
無事に通話がつながったとき、受話器の向こうからさな声が聞こえてきました。
『……交換さん、ありがとう。落ち着けました』
胸の奥に、じんわりとあたたかいが灯りました。
たった言の「ありがとう」。
その言葉だけで、指先の痛みも々の疲れも、すべて消えていくような気がしたのです。
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