"受話器の向こうの春" 第4話
声の向こうの暮らしと、初めての料袋
仕事に慣れてくると、受話器の向こうに広がるの暮らしが、しずつ見えてくるようになりました。
顔も名もらない相ばかりです。
けれど、毎同じに同じ番号を呼ぶ声を聞くうちに、そのの顔が自然と浮かぶようになるのでした。
朝の半、決まって往診の話をかけてくる町医者の先。
「交換さん、おはよう。今も忙しそうだね」
「おはようございます、先。いってらっしゃいませ」
言言のやり取りだけで、今もの誰かが救われているのだと分かります。
午を過ぎると、魚や乾物の威勢のいい声がび交います。
「おい、サバは入ったか!」「今のは物やぞ!」
活気のある声を聞いていると、ハルまで元気をもらえるようでした。
そして夜が更けると、くの族へ話をかけるたちの、静かな声が回線を満たします。
「お母ちゃん、元気でやってるよ」
征を控えた夫へ、涙をこらえて語りかける妻の声もありました。
ハルが差し込む本のコードは、ただの線ではありませんでした。
誰かのび、しみ、祈り。
ととのを結ぶ、かけがえのない架けだったのです。
仕事は厳しかったですが、交代のの休憩は、ハルにとって初めての「温かな居所」でした。
「ハルちゃん、これべ。
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実から送ってきた干し芋や」
同期で同いのヨシちゃんが、包みをけて差ししてくれます。
ヨシちゃんも方からてきた子で、はすぐに何でも話せる友達になりました。
「うちな、最初のころ、プラグをに落としてをごつんとぶつけてもうたわ」
「私も、番号を聞き返しただけでられて泣きそうになったよ」
失敗を打ちけては、声をひそめて笑いいました。
あるの休憩、子先輩がハルの髪を見て言いました。
「ハルちゃん、ちょっとおいで。髪が乱れてるよ」
先輩はハルのろに回り、櫛で丁寧に髪を梳かすと、つ編みをきれいに編み直してくれました。
に髪を触ってもらうなんて、母をくして以来、度もありませんでした。
先輩の指の温もりが伝わってきて、ハルは胸がいっぱいになりました。
「先輩、ありがとうございます」
「どういたしまして。はハルちゃんが私のを編んでね」
そう言って笑う先輩の顔を、ハルはずっと覚えていようといました。
そして、働き始めてか。
初めての料がやってきました。
渡されたい茶封筒。
受け取った瞬、ハルの指先はかすかに震えていました。
に入っていたのは、決してではありません。
けれど、朝から晩まで自分ので懸命に働いて得た、まれて初めてのおでした。
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(うちが……働いたお……)
そのの夕方、ハルは親戚のへち寄りました。
玄関を入ると、叔母が嫌そうな顔をしました。
ハルは何も言わず、仏壇のに正座しました。
そして、料袋をそっと供えたのです。
「お母ちゃん。うち、ちゃんと働けたよ」
声にすと、目がくなりました。
母の顔はもういせません。
けれど、国の母なら、きっとを撫でてくれるはずでした。
ろを振り返ると、台所の入りから叔母が黙って見ていました。
ハルはちがり、料袋から包みを取りして差ししました。
「おばさん、これ……ないですけど、今までのお礼です。皆さんでべてください」
叔母は目を丸くし、気まずそうに線を泳がせました。
「……あんた、ほんまに話局で働いとるんやね」
「はい。これからも自分の力できていきます」
をげてをるハルの背を、夕暮れの柔らかいが照らしていました。
もう、居候のみじめな女ではありませんでした。
胸を張って歩いていくが、確かにそこにはありました。
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