"受話器の向こうの春" 第5話
見えない糸の向こうの友達
々の仕事ので、ハルがひそかに楽しみにしていた特別ながありました。
県のいと回線をつなぐ「距話」の仕事です。
神戸から京やへ話をつなぐとき、線はいくつもの話局を経由していきます。
その途の局には、ハルと同じように受話器をに当てている各の交換たちがいました。
話をつなぐの、ほんのわずかな数秒。
回線のに、くの交換と言葉を交わす瞬がありました。
「こちらは神戸です。京、お願いします」
「はい、京です。おつなぎします」
たったそれだけの、事務なやり取りのはずでした。
けれどある、回線をつなぎ終えたあとの瞬、京の交換さんがさく笑いました。
『神戸の方は、とてもに優しい話し方をなさるんですね』
ハルは驚いて、わず元を押さえました。
「えっ……そうでしょうか?」
『ええ。こちらの言葉はし角がちますから、ほっとするんです』
受話器から聞こえてくるのは、滑らかで綺麗な標準語でした。
「あの……もう度、何か喋ってみてくださいな」
ハルが頼むと、向こうのは楽しそうに笑いながら、同じ言葉を繰り返してくれました。
で受話器をで覆い、声を殺して笑いいました。
また別のには、の局へとつながりました。
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聞こえてきたのは、素朴で温かい声でした。
『こちらは田だす。お待たせしまして、申し訳ねえなす』
の訛りに、ハルは戸惑いました。
「あの、すみません……もう度お願いできますか?」
すると、向こうの声が恥ずかしそうにらぎました。
『ごめんねぇ、田舎の言葉で分がらねがったべ。ゆっくり言うすね』
今度は言葉を区切って、丁寧に伝えてくれました。
ったこともない国の景が、胸のにぽっと広がっていくようでした。
顔も名もりません。
分かるのは、受話器から流れてくる声の調子だけでした。
けれど、同じ頃の娘たちが、い空ので同じようにい受話器をつけ、懸命に線をつないでいる。
そううだけで、くに切な友達がたくさんいるような気がしました。
「いつか、戦争が終わったら会いましょうね」
京の交換さんと、そんな約束を交わしたこともありました。
「ええ、きっと。神戸の美しいパンをお産に持っていきます」
果たせるかどうかも分からない約束でした。
けれど、その言葉をにするだけで、も頑張ろうとえたのです。
しかし――昭のがづくにつれ、そんなやり取りを交わす余裕はなくなっていきました。
戦況はにに悪化していました。
軍からの緊急連絡。港に運ばれる負傷兵の数。資材を訴える痛な叫び。
回線を通る言葉の端々から、この国が恐ろしい方へ向かっていることが伝わってきました。
距回線の向こうから聞こえる声も、しずつ減っていきました。
空襲を受けたの局とは連絡が途絶え、呼びしても無質な雑音しか返ってこなくなりました。
あの京の優しい声のは、無事なのだろうか。
田のあたたかい声のは、今も台のに座っているのだろうか。
確かめる術はありませんでした。
ハルにできるのは、ただ目ののランプに祈るようにプラグを差し込み、途切れそうな声をつなぎ止めることだけでした。
そして、昭。
制の袴はとっくに禁止され、ハルたちは全員、にまみれたモンペ姿になっていました。
運命の、あの燃え盛る夜が、すぐそこまでづいていました。
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