"受話器の向こうの春" 第6話
迫りくる音と消えた笑顔
昭のがけると、神戸のからは完全にが消えっていました。
をき交う々は、誰もがうつむいて歩いていました。
すれ違うときも、互いを警戒するように目を伏せます。
商の先には、品物などほとんど並んでいませんでした。
配の切符をにした々が、わずかな芋のツルや干からびた根を求め、凍えるようなのでじっと列を作っていました。
話局のも、かつての穏やかさは跡形もなくなっていました。
お気に入りだったい着物と黒い袴は、とっくに禁止されていました。
全員が防空巾を腰にぶらげ、染めのなモンペ姿で勤します。
お化粧などもってのほかでした。
髪もただろでひとつに束ねるだけです。
それでも、頃の娘たちでした。
「ハルちゃん、巾の結び目が曲がっとるよ。きれいに結び直したるわ」
同期のヨシちゃんが、すれ違いざまにそっと指先を伸ばしてくれます。
「ありがとう、ヨシちゃん。モンペの裾、ちょっとだけ折り返してみたんやけど、変やない?」
「ううん、すっきりしていよ」
誰にも見咎められない程度の、ほんのさな夫。
それが、過酷な毎のでらしさを保つための、彼女たちなりの抵抗でした。
けれど、空腹と疲労は容赦なく若い体を苛みました。
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配されるお米の量は、目に見えて減っていきました。
事といえば、根の葉やわずかな麦が浮いているだけの、い塩の雑炊ばかり。
お腹が満たされることなど、度もありませんでした。
夜勤のには、胃袋がきゅうきゅうと痛むのをしながら、たい井戸で喉を潤して交換台へ向かいました。
何よりつらかったのは、回線に入ってくる話の内容が、にに切迫していったことでした。
軍からの連絡は、専用語と号ばかりになりました。
警察や消防からの受話器の向こうには、いつも張り詰めた緊迫がありました。
「おい、まだ繋がらんのか!」
「通信を途絶えさせるな!」
受話器越しに鳴られるたび、ハルはの奥がキーンと痛むのをじました。
あるの夜勤けのことです。
休憩の窓のには、のたい曇り空が広がっていました。
同期のヨシちゃんが、え切った指先を息で温めながら、ぼんやりと空を見つめていました。
「なあ、ハルちゃん……」
「ん? どうしたん?」
「もし、この話局に爆弾が落ちてきたら、うちらどうなるんやろな」
ハルはに持っていた温かい湯呑みを握りしめたまま、言葉を失ってしまいました。
考えたことがないわけではありませんでした。
むしろ、毎晩布団に入るたび、その恐ろしい像がをれず、夜に何度も目を覚ましていたのです。
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けれど、それをにしてしまえば、今にも崩れそうな自分のが壊れてしまいそうで、誰にも言えずにいました。
ハルが黙り込んでいると、ヨシちゃんは無理やり元を歪めて、ぎこちなく笑ってみせました。
「……へへ、変なこと言うてしもたね。考えたら怖くなるだけやわ。仕事、戻らなね」
その笑顔がひどく痛々しくて、ハルは胸が締め付けられるようでした。
その数の朝、交代の点呼ので、局の司が全員のにちました。
いつもは穏やかな司の顔が、鉄のようにくこわばっていました。
「全員、よく聞きなさい」
く、徹な声が交換の隅々にまで響き渡りました。
「が国は今、国の危にある。
空襲警報が鳴り響こうとも、諸君らは絶対に交換台をれてはならない」
部のの空気が、瞬で凍りつきました。
「通信の途絶は、軍の司令を麻痺させ、の防を壊滅させる。
話局の交換は、戦で銃を構える兵隊と同じである」
司の鋭い線が、並んだ女たちを射抜きました。
「んでも、持ちをれるな」
んでも、れるな。
その言葉が、い鉛の塊のように、ハルの胸の底へと落ちていきました。
隣にっていた子先輩のが、かすかに震えているのが見えました。
いつも頼もしく、温かいで導いてくれた先輩が、唇を真っにして耐えていました。
逃げることは許されない。
のになっても、この子に座り続け、プラグを握りしめていなければならない。
それが、自分たちに課せられた定めなのだと告げられた瞬でした。
歳の女にとって、それはあまりにもたい宣告でした。
けれど、交換台のに座ると、目ののランプは無にもチカチカと点滅を繰り返します。
ハルは震える指先でコードを取り、プラグを差し込みました。
「お待たせいたしました、神戸局です」
声だけは、いつものように穏やかに、澄んだ音を保とうと必でした。
その本の線の先にある命のために。
けれど、その命を守るための自分たちの命は、体どこへってしまうのか。
答えのない問いを抱えたまま、運命のが、すぐそこまで迫っていました。
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