"受話器の向こうの春" 第7話
赤い空と炎の
昭、の夜。
ハルはその、夜勤の当番として話局の建物に残っていました。
「宿直」と呼ばれるこの勤務は、夜を通して話局に泊まり込み、途切れることのない話をつなぎ続ける仕事です。
昼の喧騒が嘘のように静まり返った交換には、数名の交換と、宿直担当の責任者が詰めているだけでした。
カチリ、カチリと計の秒針がむ音だけが、気なほどきく響いています。
ハルの隣の席には、あの子先輩が座っていました。
「ハルちゃん、眠とうない?」
子先輩が、ひそひそ声で優しく尋ねてくれました。
「丈夫です。し目が冴えてしまって……」
「そう。無理せんといてね。温かい湯でももうか」
そう言って微笑んでくれた先輩のが、張り詰めた夜のえ込みので、唯の救いでした。
付が変わり、。
計の針が、午を回ろうとしていたそのでした。
ウゥゥゥーーーーーーッ!!
けたたましいサイレンの音が、夜の神戸のを切り裂きました。
それと同に、宿直の赤灯が狂ったように点滅を始め、をつんざく非常ベルが鳴り響きました。
「空襲や! 敵、編隊!」
誰かの叫び声が廊に霊しました。
ハルはハッと息を呑み、わず窓の方を振り返りました。
その瞬でした。
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夜のに包まれていたはずの窓のが、ボッと音をてるようにして、面の気な朱に染まったのです。
くから、ドォォォン……ドォォォン……と、を底から揺さぶるような響きが伝わってきました。
台や台の爆撃ではありません。
夜空を埋め尽くすような無数のプロペラ音が、苦しい唸り声となってへと迫ってきていました。
「焼夷弾や! 港の方に落ちとるぞ!」
宿直の男性職員が窓からを見て叫びました。
その直でした。
ヒュルヒュルヒュル……という、空気を切り裂く鋭い切り音が聞こえたかとうと、バリバリバリッと根やを叩きつける凄まじい衝撃が建物を襲いました。
窓ガラスがガタガタと激しく震え、井からい漆喰のがハラハラとい落ちてきます。
からは、々の鳴と、々が激しく燃え盛る音が、気とともに押し寄せてきました。
「ひっ……!」
ハルは恐怖のあまり、喉の奥で息を詰まらせました。
臓が破裂しそうなほど激しく打ち鳴り、の先からすーっと血の気が引いていくのが分かりました。
逃げなければ。
ここにいたら焼き殺される。
本能が、そう叫んでいました。
けれど、ハルのはすくんでしまい、まるでに釘付けにされたかのように歩もかなくなっていました。
の奥底で、あの言葉がを塞ぎたくなるほどきな声で響き渡っていたのです。
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――んでも、交換台をれるな。
司のあのたい声。
逃げたらどうなる。非国民として罵られるのか。
それとも、自分が逃げたせいで誰かの命が失われるのか。
目のの巨な交換台では、まるで助けを求めてもがく々の叫び声のように、無数のランプが斉に狂ったように点滅を繰り返していました。
「事です!」
「消防を!」
「誰か助けてくれ!」
受話器を取らなくても、そのの群れが何を訴えているのかが痛いほど分かりました。
ハルは震える両でコードを握りしめました。
つなぐべきなのか、逃げるべきなのか。
のは真っになり、涙が界をぼやけさせ、ただガタガタと全を震わせることしかできませんでした。
そのでした。
ガシッ、とい力で腕を掴まれました。
「ハルちゃん!!」
引き裂くような声に顔をげると、そこにいたのは子先輩でした。
いつも穏やかだった先輩が、髪を振り乱し、必の形相でハルを見つめていました。
「逃げるよ! うちなさい!」
「で、でも……交換台が! れたらあかんって……んでも守れって……!」
ハルが泣き叫びながら言うと、子先輩はハルの腕を両で力任せに引っ張り、子から引に引き剥がしました。
「馬鹿なこと言わんといて! んでどうするの!」
先輩の瞳から、粒の涙がこぼれ落ちていました。
「あんたはまだやろ! きなあかん、きるんや!」
その叫びは、命令や義務などというたい言葉をすべて吹きばすほど、くて、あたたかいの声でした。
「来なさい!!」
子先輩はハルのを万力のような力で握りしめると、煙が漂い始めた交換の扉へ向かって、無でりしました。
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