"受話器の向こうの春" 第10話
沈黙のあとに響いたベル
瓦礫を乗り越え、ようやくたどり着いた神戸話局の敷。
ハルと子先輩が目にしたのは、奇跡のような景でした。
周囲の民や商がことごとく焼き尽くされているで、頑丈な鉄筋コンクリート造りだった話局の建物だけが、壁を黒く焦がしながらも、ち残っていたのです。
「残っとる……!」
子先輩が声を弾ませました。
は駆けで裏の階段を駆けがり、階の交換へとび込みました。
内にを踏み入れ、は息を呑みました。
窓ガラスは割れ、たいが吹き込んでいましたが、壁面の巨な交換台は無事でした。
けれど、いつもなら鳴り響いていたプラグの音も、女性たちの澄んだ復唱の声も、何ひとつ聞こえません。
ただ、に散乱した類と、焼け落ちた井の破片が散らばるだけの、んだような静けさでした。
台のには、顔を煤だらけにした数名の職員と、数の交換たちが、疲れ果てた様子でち尽くしていました。
「子! ハルちゃん! 無事やったんか!」
宿直の班がを見つけるなり駆け寄ってきて、その肩をく抱きしめました。
「よかった……本当に、ようきて帰ってきてくれた……!」
「班、回線はどうなっていますか?」
子先輩がすぐに尋ねました。
班は痛ましそうに首を横に振りました。
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「の柱やケーブルがやられとる。神戸ののの線は、ほとんど全滅や……」
全滅。
その言葉のみに、ハルの胸が痛みました。
あの乾物の若旦も、毎朝話をくれていた町医者の先も、もう声を聞くことができないのかもしれない。
けれど、班は力い差しで続けました。
「でもな、阪や京都へ通じる主幹線だけは、くを通っとるおかげで奇跡にきとる。予備のバッテリーもいとる。
……気が来とる台が、まだ台あるんや」
「やります」
子先輩は迷うことなく言いました。
「私たちが、つなぎます」
ハルも先輩の隣に並び、力く頷きました。
「うちも、やります。つないでみせます」
は洗面所のたいでだらけのと顔を洗い流し、乱れた髪を結び直しました。
黒く汚れたモンペ姿のまま、き残った交換台へと向かいます。
子に腰をろし、にずっしりといヘッドセットを装着したとき、ハルのから迷いが消えっていました。
元を見ない。声を聞くの。
で覚えて、でかす。
子先輩から教わった言葉を、ので静かに唱えました。
カチッ……。
さな音とともに、目ののジャックのひとつに、々しいいランプが灯りました。
通している回線に、最初の呼びしが入ったのです。
ハルは呼吸をひとつし、震える指先でプラグを取りました。
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そして、その穴へと迷いなく差し込みました。
受話器の具へ向かって、お腹の底から声をしました。
「お待たせいたしました。……こちらは、神戸局です」
その声は、震えていませんでした。
炎の夜をき延びた女の、凛とした、澄んだ声でした。
受話器の向こうから、息を呑む気配が伝わってきました。
そして、ひどく掠れた男性の声が、泣きそうに震えながら響いてきたのです。
『……神戸か!? 神戸局がつながったんか!?
こちらは阪の警察本部や! 神戸はどうなっとる!? みんな無事なんか!?』
阪からの救援連絡でした。
ハルは涙がこぼれそうになるのをぐっと堪え、元をきゅっと引きげました。
「はい! 神戸局、きております! ただいまから、おつなぎいたします!」
もう本のプラグをに取り、相先の幹線へと力く差し込みました。
カチリ、とよい属音が響き、受話器の向こうで切迫した声がなりいました。
は燃えても、声はなない。
自分たちがここにいる限り、このの叫びは途絶えさせない。
瓦礫のに残された話局ので、女たちのさなが、未来へと続く命の糸を、再び繰り寄せ始めた瞬でした。
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