"新婚初夜の裏切り" 第4話
スピーカー越しの拒絶
「いいえ。私はその件について切じげません」
私のからた声は、自分でも驚くほど静かで、レストランの空気を切り裂くように澄んでいた。
「夫がそちらに提したキャッシュカードは、昨夜、ホテルの部で私のバッグから無断で持ちされたものです。また、私が署名・押印した委任状などしません。彼が勝に偽造したものです」
話の向こうで、さんがゴクリと息を呑む音が聞こえた。
「私は、桜井亮太さんのを購入するための資を、円たりとも提供するはありません。その旨、決済のにいる皆様にはっきりとお伝えください」
「……かしこまりました。資の所者であられる美様ご本より、確な拒否のを確認いたしました。ただいまをもちまして、本の売買決済は完全に止とさせていただきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
私がそう告げた直、話の向こうで『おい! 誰と話してるんだ!』という健太の鳴り声がく響いた。
担当者が『奥様です』とたく告げ、何かが激しく揉みうような鈍い音が響いたあと、ブツリと通話が切れた。
私はスマートフォンをテーブルのに置き、く、い息を吐きした。
「健太君か」
父のく沈んだ問いかけに、私はさく頷いた。
広告
「ええ。昨夜、私がシャワーを浴びているにバッグからカードを抜いて、偽造した委任状を持って弟さんのの決済にってたみたい。千百万円を、私の座から括で支払うつもりだったのよ」
父の眉に、いシワが刻まれた。かつて会社経営者として修羅をくぐり抜けてきた男の、徹なりの差しだった。
「は……円もいていないな?」
「丈夫。お父さんのアドバイス通り、全額を別座に移してあったから。残で続きが止まって、審にった産会社が私に連絡してきたの」
父は度だけく頷き、それから静かに目を閉じた。
「そうか。おが自分の盾をしっかり持っていてくれて、本当によかった」
おは守られた。物理な被害は何つていない。
けれど、私ののの、もっとも柔らかく温かい所が、ガラガラと音をてて崩れ落ちていく覚は止められなかった。
のい。休にで公園を散歩したこと、お互いの仕事の愚痴を聞きって笑ったこと、そして昨、勢ので交わした誓いのキス。
そのすべてが、この「億円を奪い取るための仕掛け」だったのだろうか。
それとも、彼のにもしはがあって、ただ「夫婦になれば、族になれば、しくらい引なことをしても許してくれる」と、私のを都よく甘く見くびっていただけなのだろうか。
広告
どちらにしても、答えはつだった。
この男は、私というをの対等なパートナーとして見ていなかった。私の拒否する権利を、最初から踏みにじるつもりでいたのだ。
その、テーブルののスマートフォンが再び激しく振し始めた。
画面には『健太』の文字が狂ったように点滅している。
度切れ、またすぐに鳴る。連続して届く着信の通。
「ないのか?」と尋ねる父に、私は首を横に振った。
「今はないわ。ここで話にても、弟のためにどうしても必だったとか、でちゃんと話すつもりだったとか、障りのいい嘘と言い訳を並べられるだけだから」
私は席をち、ホテルのロビーの隅へ向かった。
まずやるべきことは、に流されることではなく、法な防壁を完全に固めることだった。
私はの事故受付窓に話をかけ、盗難されたキャッシュカードの利用止と暗証番号の変更を即座に完させた。オペレーターから「本、窓での引きしの試みが件記録されておりますが、残により処理はされておりません」という報告を聞き、客観な記録が残ったことを確認した。
そして、そのでホテルをると、最寄りの警察署の活全課へ向かった。
親族の財産トラブルである以、すぐに刑事事件として夫を逮捕することは難しいと警察官は言ったが、私は最初から逮捕を望んでいたわけではなかった。
「婚初夜に夫が無断でカードを持ちし、偽造した類で千百万円を引きそうとした」という事実を、公な相談記録として警察に残してもらうことが目だった。
すべては、になって健太が「妻もしていた」「夫婦の話しいの延だった」などと見苦しい嘘をつけないようにするためだ。
警察をたあと、私はあらかじめ調べておいた弁護士事務所に話をかけ、婚と財産保全に関する面談の予約を取り付けた。
結婚式から、わずか。
私のので、婚活のすべてが、音をてて瓦解していった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 14 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 519 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 45 -
完結第10話
もやしと消えた仕送り
フリーランスのデザイナーとして働く里見は、一人暮らしの母・春江に毎月10万円を仕送りしているつもりだった。ところが、久しぶりに訪ねた実家で目にしたのは、冷やご飯ともやしだけの寂しい食卓。母は仕送りなど一度も受け取っていないと言う。家計を任せていたのは、優しく頼りになる夫の久し。疑念を抱いた里見が夫のスマホを確かめると、そこには信じがたい送金記録と、妻をあざ笑うメッセージが残されていた。さらに、夫が隠していた給与明細にも不可解な数字が……。信じていた家族の裏切りを知った里見の反撃が始まる。裏切られた|嫁姑|親子関係|金銭問題1.5万字5 36 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 43 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 635