"写真のない履歴書" 第5話
に本を載せて
訓練で最初に教わったのは、歩き方だった。に本を載せ、背筋を伸ばしてまっすぐ歩く。の通は狭い。ヒールを履いたまま歩いても、お客さまにぶつかったり、お盆を揺らしたりしないようにするための練習だった。
ところが、実際にやってみると簡単ではなかった。本を気にすると元がふらつき、元を見ると姿勢が崩れる。し急ぐと、本がから落ちてに転がった。
「肩に力が入っています。もう度」
担当者に言われ、私は本を載せ直した。何度目か分からない往復をする。隣では同期が本を落とし、拾おうとしてさらによろけていた。
「丈夫? 私もさっき落としたよ」
「本を載せたら、急に歩けなくなった気がする」
彼女の言葉に、私たちは笑った。笑ってばかりもいられないが、失敗しているのは自分だけではないと分かると、もう度やってみようとえた。
お辞儀の練習もあった。お客さまを迎えるとき、見送るとき、謝るとき。同じようにをげればいいのではなく、その面にわせて角度を変える。
休憩に、同期が私に言った。
「お辞儀がきれいね。慣れているみたい」
「さいころから、母に何度も直されていたの。だけげるんじゃないって」
「うちの母は、そこまで細かく言わなかったなあ」
彼女は自分の首をへして見せた。
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私はわず吹きし、くにいたたちもつられて笑った。しのだけ、緊張がほどけた。
言葉づかいも習った。お客さまへの声のかけ方や、頼まれたときの返事、し待ってもらうときの言い方。普段の暮らしではあまり使わない言葉もく、最初はがうまく回らなかった。覚えたはずなのに、のにつと順番が抜けてしまう。
英語の練習では、い言葉を何度も声にした。発音を違えると教えてくれるがゆっくり言い直し、私たちもに続く。誰かが変な発音をして笑いが起きても、最には全員で正しい言い方を覚えた。
番難しかったのは、お盆を持って歩く練習だった。コップにを入れ、お盆に載せる。子を並べて作った通をみ、席にいるへ渡す。担当者が子を揺らして、体の揺れをまねることもあった。
最の同期がコップを倒し、がに広がった。彼女は顔を赤くして謝った。
「ごめんなさい。何度やってもこぼしちゃう」
「私もさっきこぼしたよ。気にしないで」
「ありがとう。泳ぐのは得なんだけど、お盆は難しいね」
「私は泳げないから、どっちも難しいわ」
そのにいた全員が笑った。失敗は悔しかったが、仲がいると、次もやってみようとえた。
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