"写真のない履歴書" 第11話
輩に伝える
何か経つと、仕事のやり方もしずつ変わっていった。制が変わり、内の様子も変わる。しく入ってくるも増えた。最初は私たち自が何もらず、教えてくれる先輩もいなかったのに、いつのにかに仕事を教えることがあった。
初めて会ったは、しい顔をしていた。
「緊張してる?」
「はい。失敗したらどうしようとって」
その言葉を聞いて、昔の自分をいした。私も初めてぶはほとんど眠れなかった。お盆を持ったまま窓のを見て、んだことに驚いていた。
「丈夫。最初からうまくできるはいないよ。困ったら声をかけて」
そう言うと、はししたように笑った。
仕事は楽しいことばかりではなかった。くっていればが痛む。予定通りにいかないこともある。お客さまの具が急に悪くなることもあった。のでは、にいるときのように簡単に助けを呼べない。何を先にすればいいのか、落ち着いて考える必があった。
経験をねるうち、私は目ののことだけでなく、周りの様子にも気を配れるようになった。困っていそうなお客さまには、こちらから声をかける。同期が忙しそうなら、の空いたが支える。さなことの積みねで、内の仕事は回っていく。
では、母の髪が増えていた。
広告
借はしずつ減り、卓にもより余裕が戻ってきた。兄夫婦の暮らしも落ち着いた。私は族に頼られることを負担にうもあったが、あのとき応募してよかったとうことのほうがかった。
働き始めたころ、私が考えていたのは料のことだった。の暮らしをしでも楽にしたい。それが番の理由だった。けれど、今は仕事そのものに応えをじている。お客さまを迎え、無事に送りす。そのたびに、自分の役目を果たせたとえた。
輩に教えるとき、私は自分たちの訓練のことを話した。本をに載せて歩いたこと。お辞儀の練習で笑ってしまったこと。お盆のをこぼして、仲に助けられたこと。
「みなさんも、うまくできないがあるといます。でも、ひとつずつ覚えていけば丈夫」
そう話すと、彼女たちはしずつ表をやわらげた。かつて先輩がいなかった私たちの経験を、次のたちに伝えられる。それは、私にとってしい仕事のびだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
喫茶ひばりの百円玉
昭和54年。商店街で二十年続く「喫茶ひばり」に、店主の律子は流行のテーブル型ゲーム機を四台置いた。百円玉が次々と入り、売上は急増。ところが、毎日のように通っていた常連客が、一人また一人と姿を消していく。子どもの遊びすぎに怒る保護者、ゲームを目の敵にする商店街会長、すっかりゲームに夢中の夫。店を守るための決断が、思わぬ騒ぎを引き起こしてしまう。しかも、ゲームを厳しく批判する会長には、誰にも知られたくない秘密があって……。昭和のゲームブームに揺れる、小さな喫茶店の人情喜劇。時代|歴史|昭和2.7万字5 55 -
完結第14話
役立たずの僕が、上司を救った夜
入社4か月の工藤健太は、コピー機さえ満足に使えない「役立たず」。誰にも期待されない毎日は、過去の救援で人を失い、自分の力を恐れる彼にとって都合がよかった。 ただ一人、厳しい上司の白鳥凛花だけは、失敗を叱っても、彼の働きまで否定しなかった。 ある夜、健太は男3人に囲まれた凛花を助ける。制圧まで、わずか10秒。隠していた力が露わになったその夜から、二人の日常は変わり始める。 男たちが口にした亡父の名。25年前の恩と、病室で交わされた約束。そして、救出現場を切り取った写真が、凛花を会社から追い出す証拠として出回る。 再び誰かを失うことを恐れる健太は、今度こそ、彼女の隣に立てるのか。職場逆転1.8万字5 251 -
完結第14話
昭和35年、高校を諦め祇園へ渡った15歳の少女
昭和35年、京都・丹後の貧しい農家に生まれた15歳の文代は、家族の暮らしを助けるため、高校進学を諦めて祇園の置屋へ奉公に出る。美しい舞妓への憧れを胸に飛び込んだ世界で待っていたのは、早朝からの雑用、厳しい言葉遣いの指導、足に血がにじむほどの芸の稽古だった。先輩芸妓に助けられながら修行を重ね、やがて「市春」という名を授かった文代。しかし、初めてのお座敷で目にしたのは、華やかな着物の裏に隠された大人の世界だった。故郷の家族を思いながら、少女は厳しい花街で自分の道を切り開こうとする。時代|歴史|昭和|夫婦1.9万字5 98 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 347 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 646 -
完結第10話
受話器の向こうの春
昭和19年、神戸。幼いころに母と弟妹を亡くし、親戚の家を転々としてきた15歳のハルは、自分の力で生きるため、電話交換手を目指す。厳しい試験と訓練を乗り越え、ようやく手にした仕事。失敗ばかりの日々も、優しい先輩や仲間たちに支えられ、ハルは初めて自分の居場所を見つけていく。受話器の向こうには、家族を思う声、助けを求める声、遠い街で働く仲間の声があった。しかし戦況が悪化するにつれ、つながらない回線が増え始める。戦火が迫る神戸で、少女が守ろうとしたものとは――。時代|歴史|昭和1.5万字5 156