"喫茶ひばりの百円玉" 第4話
会は宇宙が嫌い
役員会は商の集会所でかれた。畳の部に机を並べ、の主が向かいう。律子が入ると、坂井は腕計を見て「定刻です」と言った。
「今、駅にはゲームを置くが増えています。子どもが遅くまで帰らない、自転が邪魔だ、騒がしい。苦はうちにも来ています」
「うちのの自転は片づけます」と律子は言った。
「問題はそれだけじゃない。昔の商には節度があった。百円玉を次々と吸い込む械を、子どもが使うのはどうなんですか」
百の主がうなずいた。方、文具の若い主は「ゲームの客がうちでノートを買うこともあります」と声で反論した。
律子は自分の番を待って、帳面をいた。
「うちも活があります。根を直すおが必で、械を入れました。ご迷惑をかけたところは直します。でも、械を置いただけで悪いと言われるのは困ります」
「悪いだとは言ってない。ただ、商として定の決まりが必だ」
「どんな決まりですか」
「まずは、祭りに参加するではゲームをかさない。さらに平の夕方は学の利用を控えてもらう。それでも苦が続くなら、設置を見直す」
祭りは末だ。ひばりは毎、たいみ物を先で売っている。参加をされれば、町のでだけ悪者になったようなものだ。
広告
「子どもに注するのは賛成です。でもの客まで追いす必はないでしょう」
「ゲームはにもよくない。あんなものにになるのは、の無駄だよ」
坂井は断言した。律子は清の顔をいし、笑いそうになったがこらえた。
会議は結論がず、週にもう度くことになった。帰り、律子は文具の主に「会は昔からしいものが嫌いなんですか」と聞いた。
「いや、そうでもないですよ。にしい計の修理具を入れるときは誰よりかったし。ただ、今回は苦が集まってるから」
律子はし考えた。坂井は頑固だが、むやみにを困らせるではない。会議で見せたりは、本当にゲームだけに向いていたのだろうか。
翌から律子はのに駐輪所を示す線を引き、制の客には帰宅を確かめるようにした。午半には、未成らしい客には声をかける。もちろん全員が従うわけではない。律子は毎何度も同じ説を繰り返した。
「おばちゃん、母ちゃんみたい」とに言われた。
「母ちゃんはで分でしょ。うちではの決まりを守って」
言い返すと、たちは笑って帰っていった。
その週の曜、閉際に坂井がへ来た。律子は反射に背筋を伸ばした。
「何か苦ですか」
「いや。ちょっと、コーヒーを」
広告
「珍しいですね」
坂井は番奥の席に座り、ブラックを注文した。ゲームには目もくれない。律子はわざと丁寧にカップを置いた。
「械、今なら空いてますよ」
「興ないね」
坂井は聞をいた。しかしページも読まないうちに帰っていった。カップにはコーヒーが半分残っていた。
その夜、清が商の会にると言い、ひばりは律子で閉めることになった。半を過ぎたころ、の裏をさくたたく音がした。
「もう閉ですよ」
返事はない。律子が戸をけると、坂井がっていた。昼と同じ背広だが、には袋を持っている。
「どうしたんですか」
「……忘れ物をした気がしてね」
「何を?」
坂井は律子の肩越しに内を見た。源を落としたゲームが台並んでいる。
「今、ほかに誰もいない?」
「いませんけど」
「じゃあ、回だけ、あれをかしてくれないか」
律子は言葉を失った。坂井は袋から百円玉をぎっしり詰めたさな布袋を取りした。
「回だけって、その袋は何ですか」
「釣り銭だよ。計だからね」
律子は黙って源を入れた。坂井は慣れたつきで子を引き、貨を枚入れた。ゲームが始まると、あれほど嫌っていたはずの械に顔をづけ、敵のきを追い始めた。
「、……ああ、しまった」
声までしている。
律子はカウンターに寄りかかり、腕を組んだ。
坂井は回でやめなかった。回、回。回目にようやく律子の線に気づき、ぎこちなく振り向いた。
「杉原さん。これは、その……研究だよ」
律子は清と同じ言い訳を聞いて、今度こそ声をげて笑った。
「研究するばっかりで、うちのは変ですよ」
坂井はまで赤くなった。そのとき律子のに、次の役員会で使えるつの考えが浮かんだ。
笑いながら、彼女はそれがどんな騒ぎを起こすか、まだしもわかっていなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年
昭和27年の春。戦争で夫を亡くした三十歳の女性は、八歳の息子を育てるため、自宅の一角に小さなたばこ屋を開いた。初めて売れた一箱のピース。窓の横で宿題をする息子。毎朝やってくる常連客。決して楽な暮らしではなかったが、小さな窓の向こうには、いつも誰かの声があった。やがて息子は成長し、町には自動販売機が増え、馴染みの客も一人、また一人と姿を消していく。そして開店から五十年、彼女は店を閉める決心をする。時代|歴史|昭和|夫婦3.7万字5 200 -
完結第14話
昭和35年、高校を諦め祇園へ渡った15歳の少女
昭和35年、京都・丹後の貧しい農家に生まれた15歳の文代は、家族の暮らしを助けるため、高校進学を諦めて祇園の置屋へ奉公に出る。美しい舞妓への憧れを胸に飛び込んだ世界で待っていたのは、早朝からの雑用、厳しい言葉遣いの指導、足に血がにじむほどの芸の稽古だった。先輩芸妓に助けられながら修行を重ね、やがて「市春」という名を授かった文代。しかし、初めてのお座敷で目にしたのは、華やかな着物の裏に隠された大人の世界だった。故郷の家族を思いながら、少女は厳しい花街で自分の道を切り開こうとする。時代|歴史|昭和|夫婦1.9万字5 122 -
完結第12話
写真のない履歴書
昭和26年、家計を支えるため銀座の店で働いていた私は、新聞で「エアガール募集」の広告を見つけた。ところが応募の締め切り当日、履歴書に貼る写真がまだできていなかった。思い切って事務所へ駆け込んだ私を待っていたのは、想像もしなかった新しい世界だった。飛行機に乗った経験もない15人の女性たちが、手本となる先輩もいないなか、歩き方や接客を一から学び始める。戦後間もない日本で、家族のために選んだ仕事が、一人の女性の人生を大きく変えていく。職場逆転|時代|歴史|昭和1.2万字5 101 -
完結第10話
受話器の向こうの春
昭和19年、神戸。幼いころに母と弟妹を亡くし、親戚の家を転々としてきた15歳のハルは、自分の力で生きるため、電話交換手を目指す。厳しい試験と訓練を乗り越え、ようやく手にした仕事。失敗ばかりの日々も、優しい先輩や仲間たちに支えられ、ハルは初めて自分の居場所を見つけていく。受話器の向こうには、家族を思う声、助けを求める声、遠い街で働く仲間の声があった。しかし戦況が悪化するにつれ、つながらない回線が増え始める。戦火が迫る神戸で、少女が守ろうとしたものとは――。時代|歴史|昭和1.5万字5 161