みかん小説
本棚

"正月の高級焼肉、嫁の席だけ外した義母の誤算" 第1話

写真の側の指定席

正の夕暮れ。練馬にある義理の実の台所で、私はたくなったにを浸しながら、何個目になるかわからない湯呑みを洗っていた。

え切った指先が赤くかじかんでいる。居の方からは、ドッときな笑い声が鳴りのように響いてきていた。

私の名は藤森美代(みよ)。建設資材を扱う商社で般事務として働いてになる。夫の秀とは結婚して目。お互いに代半になり、子どもはいないけれど、週末にはで台所にって料理を作ったり、穏やかで何気ない常を切にねてきた。

夫は械メーカーの設計課で、頃からになって声を荒らげるようなことがない。私が末の締め作業で残業続きになれば、言わなくても洗濯物を取り込んで綺麗に畳んでおいてくれるような、静かな優しさを持っただ。夫婦の活には何つ満はなかった。

ただつ、結婚した当初からどうしても胃が痛くなる事があった。それが、この「本の正」だった。

夫の実は、にお義父さんがくなって以来、歳になる義母のさよ子さんがで暮らしている。親戚筋ではこのが「本」と呼ばれ、毎になると、親戚同がくも押し寄せてくるのが恒例だった。

広告

義姉の直子さん、叔父の雄さん夫婦、叔母の千さん夫婦、その息子の健さん。次から次へと玄関に靴が溢れかえる。

私の実は静岡で母が暮らしをしていて、親戚付きいもほとんどない静かなだったから、最初のは「賑やかでいい族だな」と素直にっていた。座敷から聞こえる楽しげな笑い声を、し羨ましくっていたくらいだ。

けれど、そのは初の昼には々に砕け散った。

「美代さん、お煮しめの鍋の加減見ておいてくれる?」 「美代さん、雄さんたちがいらしたわよ。すぐにお茶をおしして」 「美代さん、皿がりないからく洗ってちょうだい」

義母からの矢継ぎな指示に追われ、気がつけば私は朝のからずっと台所にちっぱなしだった。同じ「嫁」のであるはずの雄さんの奥さん・さんは座敷で座布団に座ってお茶をんでいるし、義姉の直子さんはコタツに入ってテレビを見ながらゲラゲラ笑っている。

『本の男の嫁だから、台所を仕切らなきゃいけないんだ』

そう自分に言い聞かせ、健さんの子どもたちがお菓子をこぼせば台所から布巾を持って駆けつけ、空いた湯呑みを片付け続けた。

夕方になると、のので全員が並んで集写真を撮るのが恒例だった。

広告

「美代さん、撮ってくれる? 千さんのスマホが番綺麗に写るから」

義母にスマホを押し付けられ、私はカメラを構える。画面のでは、い親戚たちが肩を寄せって満面の笑みを浮かべていた。

「美代ちゃんも入りなさいよ、ほら、ここ空いてるから」

そう言って招きしてくれたのは、くなったお義父さんの妹である千さんだった。申し訳なさそうに端を空けてくれようとした千さんを、義母がピシャリと遮った。

「嫁なんだからいいのよ。く撮ってちょうだい」

義母は悪びれる様子もなく笑ってを向いた。周りの親戚たちも、誰もそれ以は何も言わなかった。カシャリ、とたいシャッター音が響く。

画面のに、私の居所は最初から用されていなかったのだ。

夜過ぎ、親戚たちがようやく引き揚げた、誰もいなくなった座敷を雑巾で拭き、台所に残っためたお煮しめをったままに押し込んでいると、夫がの鍵を持って迎えに来た。

帰りの内、夜の静まり返ったを見つめながら、夫はぽつりと呟いた。

「……疲れただろ。ごめんな。うちは昔からああいうで」 「ううん、丈夫。に回のことだしね」

助席でそう笑ってみせたけれど、のどこかに暗い澱が溜まっていくのを止められなかった。

帰宅、千さんからメッセージアプリで写真が届いた。

『撮ってくれてありがとう。送っておくね』という言葉とともに添えられていた集写真には、幸せそうに微笑む親戚たちの姿だけが綺麗に切り取られていた。

その写真のに、私が写っていないこと。

その自然さに、夫すら気づいていないことを、私はまだにせずにいた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: