"五歳の母ちゃん" 第10話
お兄ちゃん、誰?
しばらくして、リサが目をけた。
彼女は周りを見回し、それから俺の顔をじっと見つめる。
「あの……お兄ちゃん、誰?」
その言葉に、胸がく締めつけられた。
「俺はシンジ。楓のお兄ちゃんだよ」
「楓ちゃん?」
「保育園で仲良くなった子だろ。ここに来るのも、楓ちゃんと遊ぶためだったんだ」
「そうなんだ」
リサは議そうに首を傾げた。もう、俺のことを息子として見てはいない。母の記憶をなくし、歳の女の子に戻ったのだ。
黒田が、リサの目を確かめるようにのぞき込む。
「名は言えるか?」
「リサ」
「今は何をしてた?」
「たこ焼きをべに来たの。おいしかったよ」
彼女は自然に答えた。さっきまでの混乱は、顔から消えている。
「リサちゃん、帰ろう。お父さんが配してる」
黒田が話をかけ、リサの父親が迎えに来ることになった。俺はしれた所から、その様子を見ていた。
楓も佐藤さんと緒に公園へ来た。リサを見つけると、り寄ろうとして、俺のでを止めた。
「リサちゃん、もう丈夫なの?」
「うん。楓ちゃん、また遊ぼうね」
リサは笑って、楓にを振った。
楓は俺の顔を見げた。母ちゃんと呼んでほしいと言うことも、抱きしめてもらうこともできない。そのことを分かっているのだろう。楓は、しだけ唇を噛んだ。
「リサちゃん、またね」
「またね」
リサの父親が迎えに来た。
広告
彼は何度も俺たちにをげ、リサのを引いて帰っていった。リサは振り返り、最までを振っていた。
その姿が角を曲がって見えなくなると、楓は俺のそばにった。
「お兄ちゃん、母ちゃんに会えた?」
「ああ」
「お話できた?」
「できたよ」
「母ちゃん、何て言ってた?」
俺は、母の言葉をいした。
――シンジも、ちゃんと誰かに頼るんだよ。
「楓のことを頼むって。それから、俺もひとりで抱え込むなって」
楓はうつむいた。
「母ちゃん、もういないんだね」
「そうだな。でも、母ちゃんがいなくなったことと、母ちゃんを忘れることは違う」
「忘れない?」
「忘れないよ」
楓は、俺のを握った。
「私も忘れない」
その夜、俺は久しぶりに母の写真ので、母に話しかけた。
「母ちゃん、楓は元気だよ。俺も、何とかやってる」
返事はない。それでも、よりしだけ胸が軽かった。
翌朝、俺は楓を保育園へ送った。玄関で靴を履かせていると、楓が俺を見げた。
「お兄ちゃん、今はカフェ?」
「そうだよ」
「帰り、遅い?」
「閉までだから、遅くなる」
「分かった。私、佐藤さんのところで待ってるね」
「ありがとう。帰ったら緒にご飯べよう」
楓はうなずいた。
母がいない々は、これからも続いていく。けれど、俺たちはで、その々を歩いていける。そうえた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
腎臓をあげた私に離婚届――夫の隣には若い女
三歳の娘を育てる裕子は、重い腎臓病になった夫・英司を救うため、自分の腎臓を一つ提供した。ところが手術後、体調を崩した裕子を待っていたのは、夫からの暴言と冷たい仕打ちだった。やがて英司は、若い女との新生活を理由に離婚届を突きつけ、娘まで奪おうとする。そんな裕子の味方になったのは、意外にも義母だった。命を救ってくれた妻を平然と捨てようとする夫。すべてを失いかけた裕子は、娘と自分の人生を守るため、反撃を決意する。夫婦|真実|裏の顔|真相|第二の人生1.4万字5 104 -
完結第12話
新婚旅行に便乗する義母を空港に残した結果
新婚旅行で大阪へ向かうみちると健二。ところが、何かと二人の予定に入りたがる義母・恵子が「私の航空券も買って!」と空港から電話をかけてきた。何度断っても諦めない義母を避け、二人は夜行バスで出発。これで夫婦水入らずの旅行になるはずだった。しかし恵子は、二人の荷物に目をつけ、とんでもない方法で後を追おうとする。さらに健二の友人・圭司の借金騒動まで絡み、大阪では思いもよらない珍事件が発生。暴走する義母と、それに振り回される人々のドタバタコメディ。嫁姑|夫婦|真相1.3万字5 138 -
完結第16話
午前3時、警察から「夫を迎えに」――私は独身なのに
神堂グループを率いる美桜のもとに、午前3時、警察から奇妙な電話が入る。「ご主人を迎えに来てください」。しかし、美桜は一度も結婚したことがなかった。保護された男性が持っていたのは、5年前の爆発事故で亡くなったはずの婚約者・一条蓮との婚姻届の控え。半信半疑で警察署へ駆けつけた美桜は、信じられない光景を目にする。空白の5年間に何があったのか。そして、なぜ今になって彼が現れたのか。かつての事故をめぐる疑惑と、身近な人物の隠された思惑が、少しずつ明らかになっていく。夫婦|裏の顔|真相2.7万字5 210 -
完結第12話
竹林の向こうの白衣
八歳のティアラは、重い喘息を理由に山奥の療養施設へ預けられた。だが本当の理由は、両親が天才と呼ばれる兄の教育に専念するためだった。家族に忘れられた少女を支えたのは、施設の人々と小児科医の竹之内先生。やがて彼女は自分の名前を変え、医師になる道を選ぶ。努力の末に脳神経外科医となった洋子は、ある冬の深夜、救急搬送された患者と向き合うことに。かつて自分を置き去りにした家族との思いがけない再会が、彼女の人生を大きく揺さぶり始める。兄弟姉妹|真相|絶縁|親子関係1.7万字5 107 -
完結第12話
結婚式に来ないと怒鳴る義母→義父「もう会場にいるぞ?」
母の美容院を継いだ誠は、医師の新と結婚して三年。夫婦仲は良好だったが、医者一家の義母からは学歴や職業を理由に見下され、嫌がらせを受け続けていた。そんな中、義弟の陸が看護師のかな子と結婚することに。義母は二人の豪華な披露宴を自慢し、誠への嫌味をますます強めていく。そして迎えた結婚式当日。朝早くから会場にいた誠のもとへ、義母から突然の怒鳴り電話がかかってきた。しかし、義父が電話を代わった瞬間、思いがけない事実が浮かび上がる。嫁姑|夫婦|真実|裏の顔1.6万字5 225 -
完結第10話
出産3日目、1億円の入金直後に夫が離婚届
娘を出産してわずか三日。病室で体を休めていた立花玲奈の口座に、父から譲り受けた株式の特別配当金、一億円が振り込まれた。その直後、見舞いに来た夫・直樹が突然離婚届を差し出す。しかも、財産分与として五千万円を要求し、自分の会社への融資継続まで求めてきた。夫の本性を知った玲奈は、追加融資と家族カードを止め、離婚に向けた準備を始める。ところが、カードの利用明細を調べると、身に覚えのない高級ホテルや宝飾店への支払いが次々と見つかり……。夫婦|真相|親子関係1.8万字5 144 -
完結第10話
正月の高級焼肉、嫁の席だけ外した義母の誤算
結婚して六年、藤森美代は毎年正月になると、夫の実家で親戚たちの世話を押しつけられていた。集合写真にさえ入れてもらえず、いつも一人だけ台所で過ごしてきた。今年は赤坂の高級焼肉店で集まると聞き、ようやく皆と食事ができると思っていたのだが、出発直前、義母から「嫁の分は予約してない」と告げられる。怒った夫はその場で帰宅を決意。ところが、二人が帰った途端、義母と義姉は思いがけない事態に追い込まれる。高級焼肉の予約に隠されていた、二人の本当の狙いとは……。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|ATM扱い1.7万字5 761