みかん小説
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"竹林の向こうの白衣" 第2話

都会へ消えた族とめた魚

施設に入ってかが過ぎた初の昼がり。 母が珍しく、面会にやってきました。

運が見える面談の丸テーブルに座ると、母はハンドバッグからハンカチを取りし、額の汗を拭いました。

「ティアラ、お父さんとお母さんね、京のマンションへ引っ越すことになったの」

母のからた言葉のを、歳の私はすぐには理解できませんでした。

「お兄ちゃんの学受験があるのよ。全国でもトップクラスの私学を狙うことになってね。お父さんも会社に掛けって、京本社へ転勤を決めてくれたの」

母の瞳は、兄の輝かしい未来への期待で爛々と輝いていました。 そこに、奥に残される私の居所など、最初からミリも用されていませんでした。

「ティアラはここに残った方がいいわ。都会の排気ガスを吸ったら、また喘息が悪化してんじゃうもの。ここで綺麗な空気を吸って、元気に暮らすのが番よ」

母は淡々と言い放ちました。 私はただ、膝ので握りしめたさな拳を見つめ、「うん」とさく頷くことしかできませんでした。

帰り際、駐にめられたいセダンへ向かう両親の背を、私は扉の隙から見送りました。 母は度だけ私のを撫でましたが、そのには何の温もりもありませんでした。

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父は何か言いたそうにをもごもごさせ、私の方へを伸ばしかけましたが――結局、度も私のに触れることなく、そのを引っ込めました。 部座席に座っていた兄のは、難しい英単語帳に目を落としたまま、窓のの私を瞥すらしませんでした。

ブルルンとエンジン音が響き、が砂煙をげて坂をっていきます。 曲がり角を曲がり、い体が完全に見えなくなった瞬、裏からいが吹きろしてきました。

林が、シャラシャラと音をてて揺れました。 私は泣きませんでした。 泣いてしまえば、本当に自分が消えてしまいそうな気がしたからです。

それから、季節はめぐり、が過ぎていきました。

週に度かかってきていた母からの話は、週に度になり、に度になり、やがて季節の変わり目にしか鳴らなくなりました。 受話器を取っても、母がにするのは兄の自話ばかりでした。

「がね、全国模試で位を取ったのよ」 「先がね、こんないIQの徒は以来初めてだって驚いてらしたわ」 「のIQは百よ。あの子は神童よ。将来はノーベル賞違いなしだわ」

私の誕など、母の記憶からは完全に消えっていました。 私の体調を気遣う言葉も、形式な言言で終わりました。

学の休み。

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喘息の症状がすっかり落ち着いていた私は、ぶりに両親が暮らす京のタワーマンションへくことになりました。 定期健診のついでに、度くらいは顔を見せなさいと、事務に呼びされたのです。

慣れない満員を乗り継ぎ、にを聞きながら、ようやくたどり着いた級マンション。 インターホンを鳴らすと、扉をけた母は、私を抱きしめるでもなく、ただややかに眉をひそめました。

「遅かったわね。迷子にでもなったの?」

通されたリビングは、モデルルームのように無質で、活がありませんでした。 案内されたダイニングテーブルの央には、派な鯛の塩焼きが鎮座していました。

「今はの模擬試験のだからね。記憶力をめるために、DHAがたっぷり入った特別な魚を取り寄せたのよ」

母はそう言って、私には目もくれず、自からてきた兄のに真っ先に皿を差ししました。 数ぶりに帰ってきた妹のことなど、どうでもよかったのです。

「あんた、何が好きだったっけ? ずっと会ってないから忘れちゃったわ」 母がいしたように尋ねてきました。

「……私、メンマが好き」

私がぽつりと答えると、卓の空気がピキリと凍りつきました。

「は? メンマ? そんなもの、でべたことあったかしら」

「施設でね、所のおじさんが漬けたのをべさせてもらってから、好きなの。

メンマってね、ただのじゃないんだよ。麻っていうを乳酸発酵させて作るの。 物繊維が豊富で、腸内環境をえるだけじゃなくて、脳内のセロトニンを増やす効果もあるかもしれないんだって」

になって話す私を遮ったのは、母の徹なでした。

「ティアラ!」 母はフォークを乱暴に置き、信じられないものを見るような目で私を睨みつけました。

「あんた、奥で暮らしているうちにまでおかしくなったの? たかがラーメンの端っこに乗せるような物の具材に、何をくなってるのよ。 恥ずかしいから、でそんな品な話は絶対にしないでね」

父も溜息をつき、箸を置いて私に背を向けました。

「、の試験の調子はどうだ?」 「A判定以、取ったことないよ」

IQ150の兄は、数式がびっしりかれた単語帳から顔もげず、ややかにを鳴らしました。 その卓に、私の居所はどこにもありませんでした。 翌朝、私は予定をすべて切りげ、逃げるようにしての施設きのにび乗りました。

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