みかん小説
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"竹林の向こうの白衣" 第5話

没落する才と、裏の変化

医学部での学活は、像を絶する忙しさでした。

解剖学、理学、薬理学、病理学――。 連連夜、机に向かって分い医学専と格闘し、のようなラテン語の解剖用語を暗記する々が続きました。

けれど、どんなに眠が削られても、私のは充実していました。 学ぶことすべてが、いつか誰かの命を救うための力になる。 そうえば、過酷な実習も徹夜のレポート作成も、まったく苦にはなりませんでした。

学のあるの朝のことでした。 自習のに点けていた台所のラジオから、臨ニュースを告げるアナウンサーのい声が流れ込んできました。

『――次です。都内の名私学の研究チームが発表したバイオテクノロジーに関する複数の論文において、なデータ改ざんと捏造がわれていたことが発覚しました。 学側は本付で、主導な役割を果たした学院の懲戒解雇および追放処分を発表しました』

私は教科をめくるを止め、何気なくを澄ませました。 続いてアナウンサーが読みげた名に、私の全の血がスッと引いていきました。

『……処分を受けたのは、同学学院理学研究科の、藤井(ふじい・たかお)元研究員です』

実の兄のフルネームでした。

私はわずちがり、ラジオのボリュームをげました。

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IQ150の神童と騒がれ、両親の過剰な期待と溺をに浴びて育ったあの兄が、自らの研究論文で実験データを都よく改ざんし、学会から永久追放されたというのです。

数、コンビニの雑誌コーナーには、週刊誌のセンセーショナルな見しが躍っていました。

『IQ150の才研究者、論文捏造で失脚の裏側――親の過剰なプレッシャーと見栄の果て』

記事の隅には、マスコミのカメラから顔を隠すようにして歩く、し太って覇気を失った兄の写真が掲載されていました。

子どものころの記憶が、ふと蘇りました。 まだ族で暮らしていたころ、眠れずに夜に起きてきた私に、兄が台所での計算を教えてくれたことがありました。

「いのは何億もかけて届くから、いま僕たちが見ているは、もうとっくに消えてなくなっているかもしれないんだ」

そう淡々と語っていた兄の横顔。 実力以の期待を背負わされ、常に番であり続けることをされた兄は、自らの虚像を守るために、越えてはならない線を越えてしまったのでしょう。

両親は今、どんな顔をして暮らしているのだろうか。 自の息子を失い、世体という唯の拠り所を奪われたの姿を像しても、私の胸には片の同も湧いてきませんでした。 それはもう、い世界の来事でした。

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学の、之内先から本の連絡が入りました。

「子、あなたが育ったあのの施設ね、今ので閉鎖されることになったそうよ」

理由を聞くと、裏の林の崩落が建物の基礎にまで及び、耐震基準を満たせなくなったからだということでした。 入れを放棄され、放置された林が、ついに施設そのものを押し潰してしまったのです。

私は実習のを縫って、何かぶりにあのを訪れました。 坂を登り、見慣れたをくぐると、施設内は段ボールが積みげられ、子どもたちの引っ越しの準備がめられていました。

かつてお世話になった職員さんと緒に、裏を眺めにきました。 はもはやを踏み入れる隙もないほど鬱蒼と茂り、太陽のを完全に遮って、肌は黒々と湿っていました。

「本当に、どうしようもなくてねえ」 職員さんが寂しそうに肩を落としました。

「でもね、子ちゃん。先週、ある農業系のNPO法が察に来てくれたんだよ。 増えすぎたを計画に伐採してを入れ、翌にえてくる柔らかい幼を、国産メンマに加して商品化するプロジェクトをちげるんだそうだ」

「え……? 本ので、メンマを?」

「ああ。放置された林を伐して、を再させながら、特産品としてメンマを作る。 放置すればを壊す厄介者だけど、適切にを入れれば、をばせる恵みになるんだってさ」

職員さんの言葉に、私は息を呑みました。 鬱蒼と茂る暗い林を見げます。

切り倒され、引かれることで、に再びが差し込む。 そして、しく芽吹いた命が、誰かの糧になる。 それはまるで、度親から切り捨てられ、しい名を得て再しようとしている、私自のそのもののようにえました。

「切ることで、しくまれ変わるんですね……」

私が呟くと、裏を吹き抜けるが、シャラシャラと懐かしい音をてて林を揺らしました。 その音は、かつて置きりにされたあののたさとは違い、どこか温かく、私の背を優しく撫でていくようでした。

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