"父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…" 第2話
焦げた卵焼きとタコさんウインナー
廊の曲がり角から、焼を終えた参列者が数、こちらを配そうに見つめているのが界の端に入った。
健の鳴り声は、受話器から漏れて通の隅々にまで反響していた。恥ずかしさとけなさで、顔からサーッと血の気が引いていく。
「お願いだから、静かにして……! 参列してくださっている皆さんにも聞こえちゃう……!」
『聞こえたって構うかよ! 事実だろうが! おい、分以内に帰ってこなかったら、そっちの斎までで乗り込んでぶち壊してやるからな! 親戚ので恥かきたくなかったら、とっととって戻れ!』
プツン、と方に通話が切れた。
ツーツーという無質な子音だけが、の奥に残り続ける。
私はそのにへたり込みそうになる膝を必にで支え、壁に背を預けた。涙が次から次へと溢れて、止まらなかった。
(お父さん……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……)
ので、何度も何度も父に詫びた。
こんな男を夫に選び、もの、まともな庭を築いているかのように父ので嘘の笑顔を作り続けてきたのは、でもない私自だった。
私の父・田清は、どこまでも温かく、器用なだった。
母がくなった、父はまだ歳。周囲からは「まだ若いんだから、くしい奥さんをもらいなさい」
広告
と何度も見いを勧められたらしい。けれど父は、その話をすべてきっぱりと断った。
『みほのお母さんは、あいつだけだからね』
そう言って、父は居の柱に飾った母の写真を毎欠かさず布で拭き、話しかけていた。
『苗(さなえ)、今もみほは元気だよ。今の朝ごはんの噌汁は、ちょっと煮干しの汁が効きすぎちゃったよ』
父が作ってくれるお弁当は、料理が得ではない男の料理そのものだった。おかずは茶い煮物ばかりで、卵焼きは加減を違えていつも端っこが黒く焦げていた。
学のの、とりどりのキャラ弁を広げる友達の輪ので、私は自分の茶いお弁当箱を隠すようにしてべたことがあった。
そのの夜、私はつい父に言ってしまったのだ。
「みんなのお弁当ね、ウインナーがい形になってて、すごく綺麗だったよ」
父はることもなく、困ったように眉をげてを掻いた。
「そうか……。みほ、すまなかったな。お父さん、ちょっと勉してみるよ」
次の運会の。
お弁当箱の蓋をけた瞬、私の目にび込んできたのは、赤くてさな匹のタコさんウインナーだった。
のさはバラバラで、本だけ妙に太かったり、ちぎれかけて本しかがないタコもいた。格好で、お世辞にもとは言えないそのウインナーを見た、私は胸がいっぱいになってずつ切に噛み締めてべた。
広告
から台所の角コーナーを見て、私は子供に泣きそうになった。
そこには、を綺麗に切ろうとして失敗した、何本もの刻まれたウインナーの切れ端が捨てられていたのだ。父は夜、私が寝静まった台所で、で鏡をかけながら、何度も何度も練習してくれていたのだ。
『はね、支えってきていくんだよ。困っているがいたら、損得抜きでを差し伸べてあげなさい。そうすれば、みほが本当に困った、きっと誰かが助けてくれるから』
国語の教師だった父の癖だった。
職員の父の机の周りには、いつも卒業や徒たちが集まっていた。学に馴染めない子がいれば放課に残って話を聞き、庭環境が複雑な子がをすれば、夜じゅう自転を漕いでを探し回るような血漢だった。
定退職を迎えたも、実には毎のように教え子たちからの賀状が何束も届いていた。
『先、今も賀状ありがとう。この子はね、学のにひどいいじめに遭っていたんだよ。毎放課に教で緒に将を指したんだ。に帰りたくないって言うからね。その子が今じゃ、何百も社員がいる会社の社さんなんだよ』
自げに賀状の束を指で撫でていた父の誇らしげな笑顔。
その父が、娘の私の結婚をどれほどび、そしてどれほど配していたか。
私はぎゅっと目を閉じ、喪の袖で涙を拭った。
こんなところで泣き崩れているではない。父を、国へ旅つ父を、ちゃんと見送らなければならないのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
戸籍の中のもう一人の妻
海外赴任中の夫・健太に頼まれ、横浜の区役所を訪れた結衣。ところが戸籍の配偶者欄には、見知らぬ女性の名前があった。しかも婚姻日は、結衣が入院した母の看病に追われていた去年の夏。七年間信じてきた夫は、イギリスで別の女性と暮らしながら、日本では何食わぬ顔で優しい夫を演じ続けていた。さらに、二人で貯めたお金まで使われていたことが分かる。結衣は夫を問い詰めず、静かに証拠を集め始めた。夫が積み重ねてきた嘘を、彼女はどう暴いていくのか。人生逆転|裏切られた|夫婦|絶縁|不倫1.3万字5 2 -
完結第12話
義妹の荷物40箱を拒否したら、夫の勝手な約束が発覚
五十六歳のかず子の家に、義妹が経営するネットショップの商品が突然四十箱も届いた。預かると聞いていたのは小さな荷物だけ。受け取りを断ると夫は激怒し、かず子が大切にしている二階の六畳間を倉庫にすればいいと言い放つ。そこは、三十年以上家族を優先してきたかず子が、ようやく手に入れた自分だけの場所だった。さらに翌朝、配送会社から渡された書類には、身に覚えのない集荷予定と自分の名前が。夫と義妹は、かず子に何をさせるつもりだったのか。裏切られた|兄弟姉妹|夫婦1.8万字5 19 -
完結第12話
義母が倒れたと伝えたら、義兄嫁は葬儀を楽しみにした
山あいの村で農業を営む金田のぞみは、夫と義母、息子と穏やかに暮らしていた。ところが、農家を見下す義兄嫁の美香が、夏休みの間、二人の子どもを突然預けてくる。忙しい収穫期に子どもの世話まで重なり、無理を続けた義母は熱中症で倒れてしまう。 慌てて連絡したのぞみに、美香は心配するどころか、葬儀になれば仕事を休めると笑い出した。翌日、旅行気分で義実家を訪れるという美香。これまで我慢を重ねてきたのぞみは、ある決意を固める。嫁姑|夫婦|絶縁1.3万字5 124 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 17 -
完結第10話
離婚して10年、元夫が鍵を替えなかった理由
二十二年間連れ添った夫・正彦の無口さに耐えきれず、四十八歳で離婚したみつ恵。それから十年後、正彦が脳梗塞で倒れたと娘から連絡が入る。入院に必要な荷物を取りに、かつての自宅を訪ねたみつ恵は、返しそびれた合鍵で玄関が開くことに驚く。なぜ十年も鍵を替えなかったのか。部屋には、昔と変わらない食器や、みつ恵が置いていったスリッパが残されていた。やがて見つけた一通の手紙には、二十二年間聞けなかった夫の想いが綴られていた。別れた二人は、もう一度向き合えるのだろうか。夫婦|第二の人生|介護|退職金|熟年離婚1.3万字5 29 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 18