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"父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…" 第7話

踏み躙られたとえた決

昼過ぎ、実の居で父と母の遺にお茶を供えていた私のスマートフォンが、激しく震えた。

健からだった。

通話ボタンを押すと、受話器の向こうから、狂乱した男の絶叫が鼓膜を突き破らんばかりに響いた。

『美穂! てめえ、何してくれたんだよ! 俺をハメやがったな!』

「何のことですか」

『会社をクビになったんだよ! 懲戒解雇だ! おが社に余計なことを吹き込んだんだろ! 経費のことまで全部バレて、百万返せって言われてんだぞ!』

私は静かに目を閉じた。

(……本当に、自滅したんだ)

私が計簿の裏にメモしていた領収のことなど、田社には言も話していなかった。健自が蒔いた正の種が、自分の傲さによって芽を吹き、自らの首を絞めただけだった。

「私は何も話していません。あなたが自分でやったことの報いでしょう」

『ふざけんな! 今すぐに戻ってこい! 婚届なんか認めねえぞ! おが百万を親父の遺産から払え! 俺を養うのは嫁のおの義務だろうが!』

「お断りします。私はもう、度とあなたのには戻りません」

私がきっぱりと告げて通話を切ると、今度は義母のかず子から狂ったように着信が入るようになった。

『美穂さん! 健が会社をクビになったってどういうことよ! 夫の司をたぶらかして夫を失脚させるなんて、鬼のような嫁ね! 今すぐ健に謝って、社さんに座して頼み込みなさい!』

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留守番話に吹き込まれる罵詈雑言。

私は話の線を抜き、スマートフォンの源を落とした。

しかし、その週の曜の午、恐れていた事態が起きた。

実の玄関ドアが、からドンドンと力任せに叩かれたのだ。

「美穂! いるのは分かってんだぞ! けろ!」

ドアスコープを覗くと、無精髭を伸ばし、目を血らせた健と、鬼のような形相の義母・かず子がっていた。

所の窓がき、通りを歩くがを止めている。父が暮らしたこの静かな宅で、これ以騒ぎをきくさせるわけにはいかなかった。

私はドアチェーンをかけたまま、数センチだけ扉をけた。

「……何の用ですか。所迷惑ですから、お引き取りください」

その隙に、健が汚れた革靴を引にねじ込んできた。

「単刀直入に言うぞ! 親父の遺産の半分をよこせ! 夫婦の財産は折半だろ! それとこのも売れ! 代を寄こせば、会社の返済も俺の当面の活費もりるんだよ!」

「そうよ!」ろから義母が甲い声で鳴りてる。「親がんでが転がり込んできたんだから、夫のために使うのが筋でしょ! さっさと通帳をしなさい!」

父がくなって、まだ週も経っていなかった。

すら迎えていない実を売り払い、夫の横領の穴埋めに差しせと喚く親子。

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その浅ましさに、私の胸の奥から言葉にならない嫌悪が込みげてきた。

「このは、父と母が汗流して建てたです。歩も譲りません」

「おに拒否権なんかないんだよ!」

健が力任せにドアを押しけようとし、チェーンがギリギリと鈍い鳴をげた。

その、健の苛った線が、玄関の脇に置いてあった素焼きの植鉢に留まった。

父が、丹精込めて育てていた、のさなムスカリの鉢だった。母が好きだったで、父が「が来たと番に教えてくれるだ」と毎朝をやっていた、切な形見だった。

「こんなゴミみたいなもん、事そうに育ててんじゃねえよ!」

ガシャァン!

健の蹴りげたが、植鉢を々に砕した。

び散る黒い、砕けた陶器の破片、そして無残に踏み躙られた、さなの蕾。

「あ……」

私の喉から、声にならない鳴が漏れた。

義母のかず子は、割れた鉢を見て先で嘲笑った。

「あらあら、端の雑みたいな、どうせ誰も見ないんだからいいじゃない。それより美穂さん、くに入れなさいよ!」

その瞬、私ので張り詰めていた糸が、完全に切れた。

しみでも、恐怖でもなかった。

の芯が、凍りつくように徹に澄み渡っていった。

「……警察を呼びます。器物損壊と居侵入で、今すぐ通報します」

「はあ!? 夫婦喧嘩で警察がくわけねえだろ!」

健が嘲笑ったその、隣のの玄関が勢いよくいた。

びしてきたのは、隣にむ森本さんだった。父の古い教え子であり、お通夜の晩にで線の番をしてくれただ。

森本さんは構えたスマートフォンのカメラを健に向けながら、太い声で鳴りつけた。

「おい! のの玄関先で何やってんだ! 今の暴も鉢を割ったのも、全部画でバッチリ撮ったぞ! 今すぐここから失せろ、警察呼ぶぞ!」

周囲ののたちも、腕を組んで次々と玄関先にてきた。

「何だあの男は」「清先の娘さんに乱暴して……」と厳しい囁きが通りを包み込む。

面楚となった健は、忌々しそうに舌打ちをした。

「ちっ……覚えてろよ! 絶対にこのままじゃ済ませねえからな!」

健は義母の腕を乱暴に引っ張り、逃げるようにへと乗り込んでりっていった。

静まり返った玄関先で、私は膝をつき、々になったのから、踏み折られたムスカリの球根を拾い集めた。

茎は折れていたが、い根はしっかりときていた。

「美穂ちゃん、丈夫かい。しい鉢を持ってくるからな」

森本さんが優しく声をかけてくれた。

私は涙を拭い、だらけの球根を両で包み込んだ。

もう、けをかける余など微も残っていなかった。

父が遺してくれたこの所を、私のを、法と事実の力で徹底に守り抜く——そのたい決が、私の胸の奥に固く根をろした。

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