みかん小説
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"母ちゃんへの三千円" 第4話

の魔女との卵

正午のサイレンが鳴り響くと同に、の械の回転音がピタリと止まった。

が痛くなるほどの静寂が戻り、ち込めていた油煙が窓ののへと吸いされていく。

「おい、飯だ飯だ!」

親方の太い声が響き、男たちはの奥ので、固形鹸を泡ててゴシゴシとを洗った。のひらのシワや爪のにく入り込んだ黒い油汚れは、どんなにく洗っても完全に落ちることはない。それが町で働くの、誇りであり勲章だった。

事務所の片隅にあるさな休憩スペースへ集まる。

丸子を並べたテーブルのには、おかみさんがきな籠いっぱいに握ってくれた、塩むすびと真っ黒いたくあんが積まれていた。

「吉雄、ほら、慮しないでえ。若いんだから個でも個でも腹に入れとけ」

武夫さんが巨なおにぎりを吉雄の膝のにぽんと置いた。

苔の巻かれたたいおにぎりにらいつく。米の粒粒が、午の労働で疲れ切った体に染み渡るように美かった。

この、の誰もが、事をしながらい入るように見つめていた所があった。

休憩の棚のに置かれた、さなインチの黒テレビだ。

画面のでは、代々の体育館を埋め尽くした観衆が、割れんばかりの歓声をげていた。

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コートので躍しているのは、全本女子バレーボールチーム——世界から『の魔女』と恐れられた彼女たちの、宿敵ソ連とのメダルを賭けた番の継だった。

「打て! そこだ、叩き込め!」

普段は眉にシワを寄せて威張り散らしている親方が、おにぎりを片にテレビ画面へ向かってを乗りし、唾をばして叫んでいる。

「拾え、! よし、ナイスレシーブだ!」

耕平さんも武夫さんも、たくあんを噛むを止めて画面を凝していた。

アタックが決まり、本がポイントを奪うたびに、狭い休憩のに「うぉぉぉっ!」と鳴りのような歓声ががった。

昭。

京は今、アジアで初めて催された京オリンピックの狂の真っ只にあった。

を歩けば、どこからともなく『京輪音』が流れ、真しい首都速のをとりどりの自が砂埃をげて駆け抜けていく。京と阪をわずかで結ぶの超特急、幹線が通したのも、ほんのほどのことだった。

そして、その巨な代国の発展を元から支えていたのが、吉雄たちが油まみれになって削りしている、ネジやボルトといったさな精密部品だったのだ。

「すげえよな……」

吉雄は画面ので輝くの丸を見つめながら、ぽつりと呟いた。

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「俺たちが削ってる部品も、幹線のブレーキや、オリンピック会の照の柱に使われてるんだろ?」

「おうよ、当たりだろ」

親方が胸を張り、吸いかけの煙『』にマッチでをつけた。青い煙が煙となって井へ昇っていく。

「いいか吉雄。本がこうやって世界と渡りえてんのはな、企業のお偉いさんのおかげじゃねえ。俺たち町の職が、千分のミリの狂いもなく鉄を削って、納期通りに納めてるからだ。胸張って仕事しろ」

「はい!」

親方の言葉に、吉雄の胸の奥がカッとくなった。

自分はただの、貧しい農から買い叩かれてやってきた僧ではないのだ。この国がしくまれ変わろうとする巨な渦の、確かな歯のつなのだと実できた。

当、吉雄たちのように学を卒業してすぐに方から都会へ集団就職した若者たちは、世から敬を込めてこう呼ばれていた。

『の卵』——。

へ学する者がまだ半分にも満たなかった代、若くて素直で、文句も言わずに臭く働く彼らは、度経済成を遂げる本にとって、文字通りにも代えがたい宝物だったのだ。

ラジオやのスピーカーからは、井沢郎のう『ああ野駅』が連流れていた。

『どこかに故郷の りをのせて 入る列の なつかしさ……』

その愁を帯びたメロディーは、昼休みが終わる鐘の音とともに、吉雄ののにく、静かに染み渡っていった。

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