"母ちゃんへの三千円" 第10話
夜の報と届かぬ声
銭湯から戻ったのは、夜の半を過ぎた頃だった。
階の畳には、すでに武夫さんが真んにさな座卓を広げ、物のラジオから流れるナイター継にを傾けていた。
吉雄は部の隅のリンゴ箱のへ正座し、便箋と万を取りした。
母へのをくためだ。
町のみ込み部には、当然ながら話などない。母の茶のに親方の黒話が台あるだけだった。距話の料は目玉がびるほどく、緊急の用事でもない限り、方の実と連絡を取る段はしかしなかった。
インクの染みたペン先をにらせる。
『お母さん、お元気ですか。 今、無事に今のお料をいただきました。さっそく郵便局から千円を為替で送りましたので、活のしにしてください。 京はすっかりになり、朝晩はえ込むようになりました。 ではオリンピックの部品をたくさん作っていて、毎忙しく働いています。 親方もおかみさんも、本当の親のように良くしてくれていますから、何も配しないでください。 ご飯はおかわり自由で、毎お腹いっぱいべています。 弟たちや妹たちにも、邪をひかないように伝えてください。 それでは、またをきます。 吉雄』
嘘はつもいていなかった。
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けれど、本当のことも半分しかけなかった。
昼に親方からげんこつをらってから血がそうになったこと。
たい灯油で指のあかぎれが裂けて、夜になるとズキズキと痛むこと。
そして何より、夜にで布団をかぶると、母の優しい声と故郷のが恋しくて、声を殺してシーツを濡らしていること——。
そんな音をいてしまえば、母がどれほどを痛めるか、吉雄には痛いほど分かっていた。
をつに折り、切を貼った封筒に収めただった。
トントントン……と、母へ続く急な階段を誰かが慌ただしく駆けがってくる音が響いた。
「おい、吉雄! 吉雄はいるか!」
息を切らして襖をけたのは、親方だった。その顔には、いつもの威厳や厳しさはなく、どこか狼狽したようなが差していた。
「お、親方? どうしたんですか?」
ちがった吉雄のに、親方は枚の細い片を差しした。
折りたたまれた粗末なの表には、赤いスタンプできく印字されていた。
『報』——。
昭の代、報が届くというのは、ただ事ではない事態をしていた。
冠婚葬祭、それも特にの命に関わるな急変のにしか、方の農から報が打たれることなどなかったのだ。
吉雄のが、カタカタと音をてて震え始めた。
受け取った報をく。
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カタカナだけで印字された、わずか数文字のい文章が、目にび込んできた。
『ハハ タオレタ スグ カエレ アオモリビョウイン』
界がぐにゃりと歪んだ。
「母ちゃんが……?」
のが真っになり、の力が抜けて畳のにへたり込んだ。
母が倒れた。あの、どんなに吹が荒れ狂うでも休まずに働き、吉雄の旅ちのに駅で泣きながら見送ってくれた、あの頑丈な母が。
「吉雄……」
耕平さんと武夫さんが息を呑んでち尽くしている。
親方は煙をくわえようとして、が震えてマッチを落とした。そして、に落ちた報を拾いげ、い、をうような声で言った。
「夜列は……今夜の便は、もう野をちまってる。始発の急は、の朝だ」
「親方……! 俺、帰らなきゃ……! 母ちゃんが、母ちゃんがんじまう!」
吉雄は親方の元にすがりつき、子供のように泣きじゃくった。
歳のが、京のたい現実と、くれた故郷の残酷な運命の狭で、初めて激しい絶叫をげた夜だった。
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